私の脳内会議がうるさい

恋した蕎麦

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第1章 猛獣たちの目覚め

♯1 マル秘メモ

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午前10時。

忙しないオフィスで、神崎 憂衣(かんざき ゆい)の指先がキーボードの上を猛烈な速さで踊っていた。

画面に映っているのは、一見すると普通の売上集計表。

しかし、その裏側にはパスワード付きの隠しファイル『丸秘メモ.docx』が開かれている。


憂衣「はっ! いい一行思いついた。忘れないうちに……っ!」


憂衣は周囲を素早く警戒し、誰にも見られない角度でメモに打ち込む。

『――彼の逞しい上腕二頭筋が、私の腰を強く引き寄せ……っ』

(あああ……最高。我ながら天才じゃん。この「脱いだら凄い」感、これこそが官能の真髄……!)

憂衣は自席でひとり、頬を上気させて悶絶していた。

仕事熱心な社員にしか見えないその裏で、彼女の脳内はピンク色の妄想で埋め尽くされている。


?「……おい、神崎」

憂衣「ひゃいっ!?」


背後から響いた、低くて温度の低い声。

憂衣は心臓が口から出そうになりながら、爆速でウィンドウを最小化した。

そこに立っていたのは、直属の上司・梶 維斗(かじ ゆいと)。

無口でクール、必要最低限のことしか喋らない彼は、社内では「氷の男」と恐れられている。

だが、憂衣にとって彼は別の意味で「恐ろしい」存在だった。

(ひ、ひゃあああ……っ! 何回見ても、顔面の造形が『恋136』の私の最推し、御影(みかげ)様にソックリすぎる……っ! 黒髪、切れ長の瞳、そしてその……細身なのにスーツの上からでも分かる、無駄のない筋肉質な体格……ッ!)

性格は正反対だが、その容姿はまさに「画面から出てきた推し」そのもの。

憂衣の変態脳は、梶の骨格をスキャンするだけで鼻血が出そうだった。


維斗「……資料、出来たんか」


梶が冷ややかな視線で憂衣を見下ろす。

彼の口から時々出る関西弁は、冷徹な響きの中にも独特の色気があって、憂衣の耳を激しく刺激する。


憂衣「あ、あわわわ! も、申し訳ございませんっ、梶さん! 今ちょうど、データのボリュームに……あ、いえ、梶さんの……じゃなくて! データの深みにハマっておりましてっ!」

維斗「……深み? 打ち込んどったんは、ただの集計データやろ。……変な奴」


梶は呆れたように眉を寄せ、憂衣のデスクに無造作に資料を置いた。

その瞬間、捲り上げた袖口から、筋張った男らしい前腕が憂衣の目の前に現れる。

(ふがっ……!その前腕の血管! 腱の動き! ご馳走様です……っ! ありがとうございます、梶さん、いい資料をありがとうございます……っ!!)


憂衣「…ふふ」

維斗「……自分、鼻息荒いで。……具合、悪いんか」


梶が少しだけ顔を近づけ、憂衣の様子を伺う。

あまりの至近距離に、憂衣は「ひゃい!」と変な声を上げた。


憂衣「だ、だいじょーぶでふ! 梶さんの……筋肉、じゃなくて、気迫に当てられただけです!」

維斗「……気迫? ……もうええわ。これも今日中にまとめとけよ」


梶はそう言い残し、颯爽と自分の席へ戻っていった。

憂衣はその広い背中を見送りながら、震える手で『丸秘メモ』を再び開く。

(よし……今の『関西弁の低音ボイス』と『捲り上げた袖の破壊力』を追記……。ふふ、ふふふ……これだけでご飯三杯、いや、小説一章分は書けるわ……!)

まだ見ぬ他のイケメンたちへの期待も胸に、憂衣の最高に不謹慎で幸せな一日が今日も始まった。
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