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第1章 猛獣たちの目覚め
♯2 ここは官能のワンダーランド
しおりを挟む梶さんに頼まれた集計作業を進めながら、憂衣の脳内は別の意味でフル回転していた。
(……ひゃあああ、やっぱり職場は題材の宝庫すぎる……っ!)
憂衣の視線が、パーテーション越しに隣のフロアへ向く。
(隣のフロアの貝川さんと尾崎ちゃん。あの二人、絶対不倫してるのよね……! さっき廊下ですれ違った時の、あの指先が微かに触れ合う背徳感……堪んない! メモ、メモしなきゃ!)
さらに視線を移すと、そこには社内でも有名な「凸凹カップル」が。
(見てよ、あの肉厚ムキムキボディの星田さんと、小柄な姫野ちゃん!なんて凄まじい体格差なの……! 星田さんの太い腕に彩ちゃんがすっぽり収まるシーンを想像するだけで、キーボード打つ手が止まらないわ……!)
憂衣は「丸秘メモ」のウィンドウを呼び出し、猛烈な勢いでタイピングを再開した。
憂衣「……んふっ、んふふふ……」
この会社の美形の多さ、そして隠された人間関係。キーボードを打つ手が止まるはずもなかった。
?「……憂衣。あんた、またやってるわね」
憂衣「ひゃいっ!?」
背後から突き刺さるような冷たい声。憂衣はマッハの速さで画面を切り替えた。
そこに立っていたのは、同期で親友の羽柴 一楓(はしば いちか)。
モデルのような端正な顔立ちに、隙のない仕事ぶり。一楓はこの会社でも一目置かれるクールビューティーであり、憂衣の「裏の趣味」を共有している唯一の人物でもあった。
憂衣「なんだ、一楓か!お疲れ様! 今ちょうど、業務の効率化について深く……深く潜行していたところで……っ」
一楓「……潜行? 鼻息が荒すぎて、隣の席まで熱気が伝わってきてるんだけど。よくバレないわねホント」
憂衣「んふふっ。題材の宝庫すぎて、どんどんアイデアが湧き出てくるの」
一楓は溜息をつき、ショートカットの髪を耳にかけながら憂衣のデスクの端に腰掛けた。
一楓「全く。確かにこの会社の顔面偏差値は異常に高いけど。……でも、あんたが見てるのは『顔』だけじゃないでしょ。筋肉と、その裏にある関係性ばっかり」
憂衣「わ、わかってるわね一楓……っ! でも見てよ、このオフィスの美形の多さ! 梶さんみたいな『細マッチョ系』もいれば、星田さんみたいな『パワー系』もいる。さらに役員室には、あのSSRの黒鉄副社長まで……! 執筆意欲が枯れる暇がないのよ!」
憂衣は拳を握りしめ、熱く語る。
一楓はそれを見て、「…まあせいぜいバレないようにしなさいよ。後作品できたらまた見せて」と言う。
一楓「あ、そういえば……」
と一楓が話そうとすると、
維斗「……神崎」
憂衣「ひゃあああっ!?」
またしても背後から響く、クールな低音。
いつの間にか戻ってきた梶が、怪訝そうに憂衣を見下ろしていた。
憂衣「あ、梶さん! お、お疲れ様でふ! 一楓と、最新の……その、精神安定剤について話してました!」
梶は憂衣の真っ赤な顔をじっと見つめ、次に一楓へ視線を移した。
維斗「……羽柴。こいつに妙なもん吹き込むなよ」
一楓「……私は止めてる方です。梶さん」
一楓が肩をすくめて、席に戻る。
梶は再び憂衣に視線を戻すと、短く切り捨てた。
維斗「……おい、アホ。……資料進んでるんか」
憂衣「ひ、ひゃい! ただいま、最終チェック中ですっ!!」
(ごふっ……! 今の『アホ』聞きましたか??!吐息交じりの低音! ありがとうございます、今日も最高の供給ですぅ……っ!!)
梶はそれ以上何も言わず、自分の席へと戻っていった。
憂衣の指先は、業務の資料と「丸秘メモ」の間を、かつてないスピードで往復し始めるのだった。
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