私の脳内会議がうるさい

恋した蕎麦

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第1章 猛獣たちの目覚め

♯5 耳元の秘め事

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されるがままの憂衣の伏し目がちの長いまつ毛を見ながら旭が呟く。


旭「……ねえ、憂衣さあ、たまに人を観察する時あるよね?(笑)」

憂衣「へっ!?」


驚いた憂衣が顔を上げると、至近距離で目が合う。


旭「この間もさ、なんか熱い視線感じるなーと思ってパッと見たら憂衣で。でも、絶対に目は合わないの。」


(……なんて綺麗な目。醸し出される爽やかオーラ。これだけで原稿用紙10枚は書けるわ……っ)


旭「で、どこみてたの?」


旭がいたずらっぽく、でもどこか試すような瞳で覗き込んでくる。


憂衣「そ、それは……旭くんの、その、腕の筋肉の、あ、いや……神のみぞ知る領域をっ!」

旭「腕? え、なに?(笑) 俺の腕、気になるの?」


動揺して墓穴を掘った憂衣に、旭がクスクスと喉を鳴らして笑った。

そして次の瞬間、無防備な憂衣を正面からすっぽりと包み込むように抱きしめた。


憂衣「っ、え、旭くん!?」

旭「うりゃ~。どう? 俺に包まれた感想は」


旭の若々しい熱と、ふんわりと甘いバニラの香りが全身を襲う。

(ごっ……!!抱きしめられてる?!旭くんの長い腕が、私の背中に回ってる……っ!やばたにえん……資料、資料としての密度が濃すぎて脳がショートするぅぅ!!)


憂衣「え、えと、あの……旭くん、近いです、近すぎます……」

旭「……あ」


旭が憂衣の顔を少し離すと、その視線は彼女の耳元に注がれた。

旭の長い指先が、髪をかき分け、憂衣の耳たぶに触れる。


旭「耳穴空いてるじゃん。普段ピアスしてんだ?」

憂衣「ぁ、んっ……」


不意に敏感な部分を指の腹で弄られ、憂衣の口から自分でも驚くような、熱を帯びた吐息が漏れた。

「…………」
「…………」

お互いにキョトンとした顔で見つめ合う沈黙。

(……あ、今の声、絶対ヤバい……っ!! )


旭「……へぇ、そんな声出るんだ。かわいー。」


旭の目が、狩りをする猛獣のように一瞬だけ鋭く細められた。

旭の腕の中で、憂衣は心臓が口から出そうなほどパニックになっていた。


旭「ねえ、俺、憂衣なら抱けるよ。おとなしめだけど顔普通に可愛いし。あと、今抱きしめて分かったけど身体も柔らかいし」


あまりにもストレートな発言をする旭。

旭の瞳からはいつもの爽やかさが消え、底の見えない熱が宿っている。


憂衣「……あ、旭くん、何言って……っ」


と、ここで他の社員の声が近付いている気配がした。


旭「……なーんてね。憂衣が可愛いからからかってみただけだよ」


そういいながらそっと離れる。

旭はふっと力を抜くと、いつもの爽やかな笑顔に戻し憂衣の真っ赤に晴れたおでのを見つめる。

旭はひょいと憂衣の顔を両手で挟み込むと、そのまま自分の顔を近づけてきた。


憂衣「っ、……っ!?」


逃げる間もなかった。

旭は、憂衣の赤く腫れたおでこに、自分の唇をそっと押し当てた。

――チュッ。

自動販売機の音と、少しづつ近付いてくる社員の声に微かな吸着音が混じる。

梶さんの「デコピン」が氷のような衝撃だったなら、旭くんのこれは、とろけるような熱を帯びた毒薬。


憂衣「…………っ!!」

旭「じゃ、おでこ、お大事にね~」


旭は満足そうに微笑むと、ひらひらと手を振りながら、何事もなかったかのように休憩フロアを去っていった。

残された憂衣は、熱を持った自分の額を両手で押さえ、その場にへなへなと座り込んだ。

(おでこにキッスされた……!梶さんが付けた『印』を、旭くんの熱で上書きされた気分…題名つけるなら 『王子の戯れ、熱情の上書き』ね……!)

震える指で携帯を開き、『丸秘メモ(PC共有)』を立ち上げる。

今この瞬間の、旭の唇の感触、少し冷めた瞳、そして額に残った微かな湿り気。


憂衣「あわわわ、仕事どころじゃない……! 今すぐこの熱量を、文字に起こさないとっ……!!」


自動販売機の前で、憂衣の妄想という名の執筆活動は、かつてないほどの熱量を帯びて暴走し始めていた。
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