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第1章 猛獣たちの目覚め
♯6 ぶっきらぼうな飴
しおりを挟む休憩から戻った憂衣の顔は、熟しきったトマトのように赤かった。いや、それよりも赤いのかもしれない。
触って分かるまだ熱を帯びたおでこ。そこには、つい数分前に旭の唇が触れた熱が、今も尚こびりついている。
(おでこにキッス! 王子から!おでこに!KISS!脳内の『丸秘メモ』が情報過多で爆発しちゃう………っ!!)
デスクに座っても、キーボードを打つ指先が震えて止まらない。
甘いバニラの香りと、旭の底の見えない熱が宿った瞳が脳内を支配しようとしていた、その時。
維斗「……神崎」
憂衣「はいっ!!!」
真後ろで響いたのは、旭くんの爽やかさとはまた違った低くて重い、地を這うような声。
憂衣が椅子ごと跳ね上がると、そこにはいつの間にか自分のデスクの後ろに立っていた梶がいた。
維斗「戻って早々で悪いねんけど。……これ、追加で頼むわ」
梶はいつも通り、感情の読めないクールな顔で分厚い資料を憂衣に渡す。
憂衣「お、お、お任せくださいっ! 梶さんのオーダー、喜んで遂行致しますっ!!」
維斗「……あぁ、わりぃな」
資料を置いた後、梶はなぜかその場を去らず、少しだけ憂衣を見下ろした。
彼の細めている鋭い瞳が、憂衣の真っ赤なおでこと、憂衣のおでこを冷やしていたはずの缶コーヒーをじっと見つめる。
維斗「……ん。手出せ」
憂衣「?手、ですか?」
憂衣が戸惑いながらも言われるがまま右手を差し出す。
梶はポケットから小さな包みを取り出した。
維斗「…………やる」
ぶっきらぼうに放られたのは、一粒のいちごミルク味の飴。
梶の指先が、ほんの一瞬だけ憂衣の掌をかすめた。
その指は旭の柔らかさとは正反対の、硬くて、長い、働く男の質感。
維斗「……自分その味よく食べてるやろ。でこ腫らした詫びや」
梶はそれだけ言うと、耳元を少し掻きながら、一度も振り返ることなく自分の席へと戻っていった。
(……!!な、何今の……っ! 無造作な飴の差し入れ……! しかも『やる』って、そのぶっきらぼうな響き……!!)
憂衣は手のひらに乗った飴と、梶さんの綺麗な横顔を交互に見つめた。
(メモ……!氷のプリンスからの甘い報酬! 梶さんのあの、ちょっとぶっきらぼうで照れてる感じの低音ボイス……最高! 最高すぎる資料だわっ!!)
憂衣は飴を口に放り込むと、その優しい甘さに悶絶しながら、猛烈な勢いで『丸秘メモ』の更新を開始した。
おでこの熱が、梶さんのくれた飴の甘さでゆっくりと塗り替えられていく。
このオフィスは、彼女にとってやはり、最高の官能のワンダーランドだった。
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