私の脳内会議がうるさい

恋した蕎麦

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第1章 猛獣たちの目覚め

♯8 強制連行

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憂衣「しっ、一楓! 足音立てないでっ、資料(ターゲット)に逃げられちゃうわ!」


非常階段の重い扉の隙間から、憂衣は真剣な表情で踊り場を見つめていた。

そこでは、肉厚ボディの貝川さんが華奢な尾崎ちゃんを包むようにして肩を寄せあってる。

(ぎゃあっ……! あの上腕三頭筋の盛り上がり! シャツの生地が悲鳴を上げてる……ッ! 素晴らしい、これぞ禁断の愛が生む肉体の躍動……!!)


一楓「……たく。うるさいのはどっちだっての……」


呆れ果てた一楓がふと視線を外すと、少し離れた壁に背を預け、腕組みをした梶がこちらを――というか、主に憂衣を無言で射抜いていた。

(……げ。梶さん、絶対怒ってるわあれ……)

一楓は瞬時に悟った。今ここに踏みとどまるのは爆発寸前の火薬庫の隣にいるようなものだと。

(ごめん憂衣。話は後で聞く)

そう心の中で謝りながら、一楓は梶に気付いていない憂衣を置き去りにし、死角を通って音もなく戦線を離脱した。

直後、梶は忍者のような速さで憂衣の真後ろに音もなく忍び寄る。一楓が消えてから、わずか数秒の出来事だった。

興奮が最高潮に達した憂衣は、感動を共有しようと、隣に立っているはずの一楓の腕をガシッと掴んだ。


憂衣「ねえ、見て一楓! ついに抱き締めたわ!この流れでキ――」


……ん?
掴んだ腕の感触が、あまりにもおかしい。

一楓の華奢な腕とは明らかに違う、鋼のような硬度と、筋肉特有の圧倒的な弾力。そして、一楓からは絶対にしない、あのホワイトムスクと微かな煙草の香りが鼻腔をくすぐる。そう、梶のような__________


「…………」
「…………」


数秒の、死よりも重い沈黙。

恐る恐る視線をスライドさせると、そこには一楓ではなく、安っぽい黒髪ウィッグ姿の自分を、氷のような温度で見下ろす梶の姿があった。
掴んだ腕の感触が、いつもよりずっと硬い。


憂衣「び、びや……ふごっ!?」

維斗「――耳元で騒ぐな」


叫び声を上げようとした憂衣の口を、梶の大きな掌がガバッと塞いだ。

梶の長い指先から香るホワイトムスクの香りと微かな煙草の香りが、憂衣の口全体を覆う。

もごもご、と声を押し殺され、憂衣は至近距離で梶の色素が薄い綺麗な色の瞳と視線がぶつかった。


維斗「…………」


梶の額には、隠しきれない怒りの青筋がピクリと浮いている。


維斗「どうやら、随分と暇なようやな。……仕事、たっぷり追加してやる」


掌を解放された瞬間、梶は憂衣の手首をガシッと掴んだ。

「痛い」と感じる一歩手前の、逃げ場を許さない圧倒的な握力。


憂衣「……梶さん、あの、お掃除ボランティアがまだ……っ!」

維斗「……黙れ。あほ」


梶は憂衣の言い訳を一蹴し、ズルズルと彼女を引きずるようにしてオフィスへの扉を開けた。

手首を掴む梶の長い指先、そして自分を連行する広い背中。

(メモ……! 資料、最高に生々しい『拘束感』の資料……っ!!)

変装ウィッグがズレたまま、憂衣は連行される快感と恐怖に震えながら、脳内の『丸秘メモ』を必死に更新し続けるのだった。
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