私の脳内会議がうるさい

恋した蕎麦

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第1章 猛獣たちの目覚め

♯10 残業終わりの夜風とピンクの罠 1-1

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役員会議を数日後に控えた、六月の蒸し暑い夜。

フロアに残っているのは、提出資料の最終確認に追われる梶と憂衣の二人だけだった。


維斗「……終わったか」

憂衣「はいっ!!なんとか……っ!」


デスク越しに資料を差し出す憂衣。梶はそれを一瞥し、「……ええやろ。帰るぞ」と短く告げた。

時計の針は二十時半。窓の外は、夜の熱気に浮かされた街の灯りが揺れている。


憂衣「……あの、梶さん。お疲れ様でした!」

維斗「……自分、どっちの駅や」

憂衣「え、あ、〇〇駅ですけど……」

維斗「……送る。帰るで」

憂衣「えっ、待ってください!」


不意の申し出に、憂衣の心拍数は既にアイドリング状態だ。
長い足を動かしてスタスタと歩き出す梶の背中を、憂衣は小走りで追いかける。

(メモ……っ! 残業終わり、自然な感じな同帰…。 これ、資料として鮮度が高すぎますぅ……っ!!)

繁華街を抜けて駅へと向かう道中。

おどおどした挙動の憂衣は、夜の街の住人たちにとって絶好の「獲物」だった。


「お姉さん、いいお店あるよ! ちょっと話だけでも!」
「アンケートお願いしまーす! すぐ終わるから!」
「ティッシュどうぞ! あ、こっちのチラシも!」

憂衣「あ、あう……えっと……ごめんなさ……あ、す、すいません……っ」


断りきれない性格が災いし、両手にはいつの間にかティッシュとチラシの山。さらに客引きの男に腕を掴まれそうになり、憂衣は半泣き状態で立ち往生してしまった。

(ううっ、断れない……! せっかく梶さんと帰れてるのに……)

次の瞬間、憂衣を囲んでいた喧騒が、力強い圧力によって一気に切り裂かれた。


憂衣「あうっ!?」

維斗「……自分、何やっとんねん」


低く、不機嫌そうな声。

梶が憂衣の肩を抱き寄せ、群がる男たちを鋭い眼光で一蹴する。その殺気立ったオーラに、客引きたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。


維斗「…アホか。……いちいち全部相手しとるから、そうなるんや。……貸せ、それ」


梶は憂衣の腕からチラシの山をひったくると、カバンに押し込んだ。そして、自由になった彼女の左手を取り、自分の右腕へと強引に導いた。


維斗「……掴んどけ。……逸れたら、また変な奴に捕まるぞ」

憂衣「っ!!し、失礼します」


蚊の鳴くような声で呟き、憂衣はそっと梶の腕に触れた。

ワイシャツ越しでもダイレクトに伝わる、驚くほど高い体温。
そして、一歩踏み出すたびに波打つ、鋼のような筋肉の弾力。

(……! 梶さんの腕、太い……っ! 合法的に触れるなんて……ッ!!)

至近距離から漂う、ホワイトムスクと微かな煙草の香りが、憂衣の脳を激しく揺さぶる。梶は前を見据えたまま、憂衣を引き寄せる腕の力を緩めない。

パニック状態で歩くこと数分。

夜風を浴びながら駅前広場に差し掛かった二人。
だが、広場の中央に特設されたステージの熱気が、歩道にまで溢れ出していた。


憂衣「……なんでしょうか?あの人だかり」


二人は駅前広場の特設ステージ前、ド派手なライトが踊る「異界」へと足を踏み入れた。

憂衣「……なんですか、このピンクのペンライトの群れは……っあっ梶さんステージ見てください!何かしてま……ひゃああああっ!?」
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