280 / 700
第十六章
鼻れ技
しおりを挟む
サッカーにおいて『意思統一』というのは非常に大事だ。例えば1点差で残り時間が少ない時に守備陣は引きこもって守ろうとし前線はもう1点穫って試合を終わらせよう……などと考えが違うと、中盤に大きなスペースが開き相手にそこを使われたり、一方的にこぼれ球を拾われずっと攻撃されたりもする。
そしてその部分ではインセクターというチームは非常に強固だった。上意下達がスムーズで、システム変更もお手のもの。独断専行で指揮官の思惑と違うプレイを行う選手もおらず、サボる事もない。
その長所が、身体能力的にあまり強固でもなくボールテクニックに秀でたモノもないインセクターチームを長く一部リーグに留めている理由と言える。
だが問題なのは、その『指揮官』がどうやら監督ではなくスタンドの遙か上、貴賓席に座る女王かもしれない、という点だった。監督から選手への指示というモノはベンチ前でどれだけ声を枯らしても――実際に叫びすぎて喉を痛める事で有名になり、お菓子メーカーさんからのど飴の提供を受けるに至った監督までいるくらいだ――伝わらない事があるくらい、難しいモノだ。なのにインセクターチームは、もっと遠い位置からどのようにして伝えているのか?
無線は無い。魔法は封じられている。俺たちのように、サインなど視覚的伝達を行っている様子もない。あと考えられるのは――彼女らの見た目から推測するに――もう匂いしかなかった。
「地球の学者さん達は、昆虫が特殊なフェロモンを出して仲間を呼んだり道案内をしたり、攻撃目標を定めて攻撃性を高めたりするのを研究しています。時には別の匂いをつけて、道に迷わせる実験をしたり。インセクターさんが地球の昆虫とどれほど似た存在かは分からないですけど、状況的に試してみてもよいかと」
例えばではあるがエルフ代表がリードし、インセクターが追いつく為に攻撃的になる必要がある場面で……。誰かが密かに「守備的になれ!」というフェロモンを漂わせ、選手を混乱させるとか。
「ほうほう。って俺はフクロウじゃないぴよ」
「分かってますけど」
関心したスワッグが余計なボケを入れながら呟き、アカリさんがクールに反応した。
しかし、である。仮に全て上手くいって、つまり収集分析できた上にこちらで似たものを作り、女王の指揮を妨害する事ができるとしても。この作戦は非常に陰湿で、実行するにしてもかなりグレーゾーンというか、やや気が引けるものだった。ドワーフの送風装置と違うのは……何でだろう? 機械仕掛けと肉体から発生するものの差かな?
「ただまあ事象が事象なんで、この作戦は今ここにいるメンバーだけの秘密にして欲しいんです。収集分析だけで終わる可能性もありますし」
と言うか実の所、今回アウェイの試合で首尾良く必要な情報を手に入れたとして、すぐに幻惑用の匂いは用意できなし次の対戦はホームゲームで――カップ戦の予選リーグは可能性があるがまだ抽選前だ――恐らく女王は来ないし、下手したら陽動作戦実施は来シーズンになるかもなんだけど。
いやもっと早くに知っていればアカサオやステフを試合とは別にインセクターの国へ送り込み手を打てたかもしれないが。まあこれは現地にも行かず、映像も試合だけを観ていた俺の責任だな。
「当分先まで実行しないかもしれない、そのうえ後ろ暗くて他のコーチにも伝えてない、そんな作戦です。面倒なお願いですが危険を犯すのも情報漏洩も絶対にナシの方向でお願いします」
「おう、任せろ!」
「嘴の堅さには自信があるぴい!」
全く安心できないテンションでまずステフとスワッグが声を上げる。
「腕がなるわー」
「インセクターに変装するの、意外と簡単なんだよね」
続いてアカリさんサオリさんがそれぞれの首をポキポキ……は鳴らさないが、そんな仕草で頷く。
「あとはシャマーさん?」
「……分かった。匂いの分析装置、いつまでに用意したらいい?」
シャマーさんの反応は、想像と違って非常に大人しいものだった。正直に言おう、俺は作戦の説明を始めた時からいつ、
『わー! ショーちゃんずるーい! 好きー!』
と言って飛びついてくるか? と警戒していたのだが。
「いつまで? え、いつまでだろ?」
「試合当日じゃないのか?」
「でも試合中は魔法装置も封じられているぴよ」
「なっ、なるはやで受け取って、受領次第潜入、で練習とかで……」
「その匂いを早々に収集して、試合に間に合う可能性が存在?」
意外な反応と質問に戸惑う俺をフォローして、ステフとスワッグとアカサオが話し合う。流石、専門家だ。
「そっか! じゃあさっそく取りに帰って、今日中にショーちゃん家に届けに行くねー!」
「あ、はい。ありがとうございます」
別に今晩でなくても、明日の朝でも良いんだけどな……と思ったものの、ようやく明るい声を出したシャマーさんに安心して、俺はその申し出を承諾してしまった。
それがまさかあんな事になるとは……。
そしてその部分ではインセクターというチームは非常に強固だった。上意下達がスムーズで、システム変更もお手のもの。独断専行で指揮官の思惑と違うプレイを行う選手もおらず、サボる事もない。
その長所が、身体能力的にあまり強固でもなくボールテクニックに秀でたモノもないインセクターチームを長く一部リーグに留めている理由と言える。
だが問題なのは、その『指揮官』がどうやら監督ではなくスタンドの遙か上、貴賓席に座る女王かもしれない、という点だった。監督から選手への指示というモノはベンチ前でどれだけ声を枯らしても――実際に叫びすぎて喉を痛める事で有名になり、お菓子メーカーさんからのど飴の提供を受けるに至った監督までいるくらいだ――伝わらない事があるくらい、難しいモノだ。なのにインセクターチームは、もっと遠い位置からどのようにして伝えているのか?
無線は無い。魔法は封じられている。俺たちのように、サインなど視覚的伝達を行っている様子もない。あと考えられるのは――彼女らの見た目から推測するに――もう匂いしかなかった。
「地球の学者さん達は、昆虫が特殊なフェロモンを出して仲間を呼んだり道案内をしたり、攻撃目標を定めて攻撃性を高めたりするのを研究しています。時には別の匂いをつけて、道に迷わせる実験をしたり。インセクターさんが地球の昆虫とどれほど似た存在かは分からないですけど、状況的に試してみてもよいかと」
例えばではあるがエルフ代表がリードし、インセクターが追いつく為に攻撃的になる必要がある場面で……。誰かが密かに「守備的になれ!」というフェロモンを漂わせ、選手を混乱させるとか。
「ほうほう。って俺はフクロウじゃないぴよ」
「分かってますけど」
関心したスワッグが余計なボケを入れながら呟き、アカリさんがクールに反応した。
しかし、である。仮に全て上手くいって、つまり収集分析できた上にこちらで似たものを作り、女王の指揮を妨害する事ができるとしても。この作戦は非常に陰湿で、実行するにしてもかなりグレーゾーンというか、やや気が引けるものだった。ドワーフの送風装置と違うのは……何でだろう? 機械仕掛けと肉体から発生するものの差かな?
「ただまあ事象が事象なんで、この作戦は今ここにいるメンバーだけの秘密にして欲しいんです。収集分析だけで終わる可能性もありますし」
と言うか実の所、今回アウェイの試合で首尾良く必要な情報を手に入れたとして、すぐに幻惑用の匂いは用意できなし次の対戦はホームゲームで――カップ戦の予選リーグは可能性があるがまだ抽選前だ――恐らく女王は来ないし、下手したら陽動作戦実施は来シーズンになるかもなんだけど。
いやもっと早くに知っていればアカサオやステフを試合とは別にインセクターの国へ送り込み手を打てたかもしれないが。まあこれは現地にも行かず、映像も試合だけを観ていた俺の責任だな。
「当分先まで実行しないかもしれない、そのうえ後ろ暗くて他のコーチにも伝えてない、そんな作戦です。面倒なお願いですが危険を犯すのも情報漏洩も絶対にナシの方向でお願いします」
「おう、任せろ!」
「嘴の堅さには自信があるぴい!」
全く安心できないテンションでまずステフとスワッグが声を上げる。
「腕がなるわー」
「インセクターに変装するの、意外と簡単なんだよね」
続いてアカリさんサオリさんがそれぞれの首をポキポキ……は鳴らさないが、そんな仕草で頷く。
「あとはシャマーさん?」
「……分かった。匂いの分析装置、いつまでに用意したらいい?」
シャマーさんの反応は、想像と違って非常に大人しいものだった。正直に言おう、俺は作戦の説明を始めた時からいつ、
『わー! ショーちゃんずるーい! 好きー!』
と言って飛びついてくるか? と警戒していたのだが。
「いつまで? え、いつまでだろ?」
「試合当日じゃないのか?」
「でも試合中は魔法装置も封じられているぴよ」
「なっ、なるはやで受け取って、受領次第潜入、で練習とかで……」
「その匂いを早々に収集して、試合に間に合う可能性が存在?」
意外な反応と質問に戸惑う俺をフォローして、ステフとスワッグとアカサオが話し合う。流石、専門家だ。
「そっか! じゃあさっそく取りに帰って、今日中にショーちゃん家に届けに行くねー!」
「あ、はい。ありがとうございます」
別に今晩でなくても、明日の朝でも良いんだけどな……と思ったものの、ようやく明るい声を出したシャマーさんに安心して、俺はその申し出を承諾してしまった。
それがまさかあんな事になるとは……。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる