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あの子と弟子と師匠の魔法
しおりを挟む「まぁ、構わんぞ。お前が遊びに来たい時に来ればいい。俺が仕事中に来ても知らんけど」
俺がそう答えたところ、上栫は予想していなかったのか、一瞬目を見開いたあと、はにかみながら口を開いた。
「ありがと」
まぁ、来たら来たで瑠依の修行に突き合わせるのもよし、飯を作ってもらうのもよしである。
今までは上栫が誰かを連れてきたり、他の誰かがウチに来ていない時は2人っきりだったからな。
若い男女がひとつ屋根の下でいたらどんな過ちが起こるかわからんし。
いや、起こさないって言い切れるが、周りはそうは思ってくれんからね。
『あのS級(笑)、花梨ちゃんたらし込んで、家に呼び寄せてるらしいぞ。JCを呼び出して何してんだろうな。アイツ、魔法使いからロリコンかアリスコンプレックスにでもジョブチェンジしたらしいぞ(笑)』
なんて噂が飛び交うの目に見えてるし。
アホかっつうの。なんで俺が上栫を呼び出さなきゃならんのだ。仮に呼び出すとしても、上から一緒に仕事してこいってパシらされる時くらいだっつの。そん時でも役所で待ち合わせが多いのに。
「ししょー!」
ぶつくさと心の中で愚痴っていると、瑠依が俺の袖をくいくいとひっぱりながら声を掛けてきた。
「ん?どした?お昼寝?ベッドなら、俺の使っていいぞ?」
「ちがうよー。きょうね、花梨さんと一緒にまほうのしゅぎょうしたり、ごはん食べたりしたいなって」
お昼寝じゃなかったらしい。
どうやら、上栫と仲良くなったようで、一緒に行動したい様である。
「んん?構わんが、上栫は大丈夫なのか?親御さんが飯の用意してたりするんじゃないの?あと、あんまり遅くなったら心配すんじゃないの親御さん」
瑠依から上栫に向かい直り尋ねた。
「大丈夫だよ?お父さんもお母さんも忙しくてあんまり家にいないし、あたしも瑠依ちゃんと一緒に魔法の練習してみたいし……それに……」
言葉尻にはチラチラと上目遣いに俺の方を見ながら、何かを言いたそうにしだした。
え?なに?
「え?なに?それにどうした?」
「な、なんでもないっ!!あんたには絶対言わない!とりあえず、あたしは大丈夫だから!明日、明後日、学校休みだし」
俺には絶対言わないっつーんなら、初めっから言わないで貰いたいんだが……。
ちなみに、上栫は女子中学生である。
今の瑠依より小さい時に能力が発現し、上栫のご両親も魔法使いであるため、最低期間で修行を終え、今は中学校に通っているらしい。
たまに授業中に呼び出し食らったり、放課後に仕事したりしてるみたいだし、こいつもこいつで大変みたいである。
「ん。まぁ、お前がいいって言うならいいんだろ。悪ぃけど、瑠依の修行に付き合ってもらえるか?俺、誰かに教わったり、教えたりしたことないから、どうしたいいのかあんまりわかんねぇんだわ」
「ん、任せて。あたしができることはしてあげる」
頼んでみたら、女子中学生魔法使いは薄い胸を張って応えるのであった。
☆
「瑠依ちゃんの魔法ってどんなの?」
早速やる気を出していざ修行となり、上栫が瑠依に尋ねた。
「わたしのまほうは、言ったことが本当になるです!」
瑠依は俺に答えたとおり、上栫にも同じ様に答える。
「えっと、どうゆうこと?」
要領を得ない上栫は小首をかしげながら再度瑠依へと問い掛けた。
「んーっと、わたしがこうなる、こうならないって言うと、その通りになるです。さっき、ししょーとかりんさん、ケンカになりそうだったのに、なかよくって言ったら、なかよくなったでしょー?」
瑠依は、んーっと、んーっと、と一所懸命に少ない語彙力で精一杯の説明を上栫へとする。
「そっかぁ、すごいね。それは、声に出して言わないとダメなの?」
「はいです!ちゃんと言葉にしないと、わたしのおねがいはほんとうにならないです」
ふむ。なるほど。
こうやって聞いている限り、瑠依の魔法はどうやら、言葉がキーワードらしい。
「じゃあ、瑠依ちゃんが言葉に出してお願いしても、本当にならないこととかある?」
「えーっと、わたし、今まであんまりおねがいしたことないからわかんないですけど、ししょーがでしにしてくれたし、かりんさんがなかよくしてくれるし、たぶん、ないとおもいます!」
瑠依は可愛い笑みを浮かべて恥ずかしげもなくそう言った。
「瑠依ちゃん可愛い!これからも仲良くしようね」
そんな瑠依を上栫が抱きしめてそんなことを言うのだった。
しばらく、女子中学生による、(本来なら)女子小学生を愛でる時間が設けられたあと、上栫が瑠依に自分の魔法を見せることに。
「じゃあ、あたしが魔法を使うから、瑠依ちゃん見ててね」
上栫は瑠依にそう言ったあと、両手を合わせ、水を掬うような形をとり、目を閉じた。
すると、上栫の手は淡い光を放ち始める。
「はい。できた」
そう言った上栫の手には今まで何も乗っていなかったのに、何かが乗っていた。
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