ある日、幼女が弟子にしろと言ってきたのだが

まさ☆まさお

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まものフレンズ

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ざわわ……ざわわ……と、風がさとうきびではなく、木を揺らす音が静かな森の中では大きく聞こえる。

後は、俺たちが地を踏みしめる音位しか耳に入ってこない静寂に包まれた迷いの森の中、俺は珍しく辺りの気配に注意しながら慎重に歩を進めてゆく。

盛り上がる木の根や、凹凸のついた地面、急に出てくる虫や動物ははっきり言って、今の俺にとっては魔物よりもタチの悪い敵である。

「あー!!うさぎさんです!!」

なぜなら、好奇心旺盛な幼女こと、瑠依が森の中ではしゃぎ出し、駆け出すからだ。

「ししょー!!うさぎさんいたです!!」

9才と言う年齢以上に幼く感じる瑠依はうさぎに近寄ると、「うさぎさん!!わたしとおともだちになりましょうです!!」と話し掛け、ふわふわもふもふとしだした。

内心、気が気ではない。

もしも、すっ転んでしまい、傷が出来たらどうするのか。

まぁ、今のところすっころんでいないが。

「ねぇ、ここに来るの初めてなんだけど、どんな魔獣がいるの?」

はしゃぐ瑠依を生暖かい目で眺めていると、上栫が俺の腕を掴んでそんなことを聞いてきた。

「ん?この森ってさ、山の麓まで広がっててさ、厳密に言うと1番奥とかどこのこと言ってんのかさっぱりわからんが、よく言われている所謂迷いの森の奥ってところがあって、そこには龍やらフェニックスやらもいるぞ?そいつらが暴れてるのかは知らんが」

答えた俺に対して、上栫は唖然としている。

……あんなもん、人間が魔法使えるのと同じで、魔法みたいなもんを持って生まれたでかいトカゲとかヘビ、鳥じゃねーか。人間のがこえーよ。

「ちょ、危なくないの?大丈夫?」

相当怖がっているらしく、上栫は不安気に尋ねてきた。

「大丈夫、心配すんな。俺が絶対に守ってやるっつったろ?」

怖がる上栫の頭に手を乗せ、優しく撫でながら言い聞かせる。瑠依がうさぎと戯れているため、手が空いたから出来るのである。

なんだかんだ、魔法使いと言っても、戦闘向きな魔法じゃない上にまだ、14才の女の子なんだから怖くて当然か。

「う、うん……あ、ありがと……」

上栫は嫌がる素振りを見せずに顔を赤らめた。

「……ちょっと、何をいちゃついてんの?」

すると、アイドル的存在として扱われている女子中学生コンビの片割れこと、超戦闘特化型金髪碧眼ロリ巨乳ワガママお嬢さまなんていう、なんかもう色々詰め込みまくった感じの有栖川が不機嫌そうに睨んできたのである。

こいつはこいつで俺が戦闘禁止令を出したから、色々どストレスが溜まっているのかも知れない。

「おう、すまんな。上栫って戦闘向きな魔法使いじゃないだろ?だから、ちょっとでも安心してもらおうかなってな」

そんな有栖川に俺はそう言葉を返す。

「……ふぅん?どうせ、私は戦闘向きな魔法使いだし、怖がるような可愛い女の子じゃないですよ」

すると、不貞腐れた様子でそんなことを言いだした。

「そう拗ねるな。お前は強がりすぎなんだよ。怖いもんは怖いんだぜ?俺なんて怖いもんだらけだ。たまには甘えろよ。昨日だって無理してあんなに追い詰められてじゃねーか」

今度は有栖川の頭に手を乗せ、綺麗な金髪を撫でてやる。

怖いもんがない奴なんているのか?

「き、気安く撫でるな……責任とれるのかよ……」

なんの責任か知らんが、今更の話である。

これ以上、負いたくはないが、知り合いなんだから、今更すぎる。

「ばかたれ。年下なんだから、責任なんて気にすんな。責任なんてもんはな、年上の俺に任せとけ」


「ふぇっ!?あ、あう……」

何についての責任かは全く知らないまま、とりあえずの俺なりに考えた責任論を伝えると、有栖川は普段からは考えられないような可愛らしさMAXな声を漏らしながら、もじもじと俯いてしまった。

「……さすがに、少し妬けるぞ?師匠」

そんな俺を見ていた、今の今まで俺と恋人つなぎで手を繋いでままのあいが不満げにそんなことを言うのだった。





なんやかんやと、うさぎを堪能したらしい瑠依が戻ってきたので、再び森の奥を目指して歩き出した俺たちは、途中で猿やらまだ小さなクマやらと遭遇しながらもなんとか誰も傷つかないまま、目的地へと到着した。

「わぁ!!おっきなお池があるですよ、ししょー!!」

そこに辿り着いた瑠依は、目の前に現れた湖を目にして興奮状態である。

木々に囲まれた拓けた土地に広がる湖の向こう側は崖になっており、小さなスペースが崖の前に申し訳程度にあるだけだが、その崖には大きな穴が空いており、どこか神秘的な雰囲気を放っていた。

「おさかなさんいますかねー?」

瑠依は湖に向かって走り出す。

「おい、瑠依!!危ないぞ」

そんな瑠依に声を掛けると、元気よく返してきた。

「だいじょうぶですししょー!!わたしはころばないし、おいけにおちたりはしないですから!!ぜったいなのです!!」

ふむ。これで一安心である。





「……む?師匠、大きな気配が近付いてきたぞ?」

瑠依が湖を覗き込み、おさかなさんいるかな?なんて可愛く遊んでいると、あいがそう言った。

「……かなり強いんじゃないの?ヤバイくらいの気配なんだけど」

五感が強化されている有栖川もそう言う。

「だ、大丈夫なんだよね?」

上栫は俺の服を掴んで不安そうである。

次の瞬間、突風が吹いた。

木々はざわめき、湖の水面は波立つ。

「ひゃあ!!びっくりしたのです!!」

瑠依が驚き、尻もちをついたその時、けたたましい鳴き声をあげながら、そいつは現れた。

金色の体躯。光り輝く羽。長く綺麗な尾羽。

何より、その巨体を荒々しい炎に包まれた一羽の大きな鳥。

火の鳥、フェニックスである。

「うわぁ、きれいなとりさんですししょー!」

しかし、うちの幼女1号こと、瑠依はそんなバケモノを見ても狼狽えない。

「ふむ。神秘的だな」

幼女2号こと、あいも全く恐れていない。

フェニックスはそれが気に食わないのか、こちらを睨むと、バサりと大きな翼を羽ばたかせた。

俺は咄嗟に上栫、有栖川に向け、久しぶりに魔法を使う。

物質変換、変化。まさに、上栫の魔法である。

上栫、有栖川の周囲の空気の成分を水素、酸素に変換、変化で化学反応を促し、水を生成。更に変化で大きな氷の壁を作り出す。

それと同時にフェニックスの翼が送り出した熱風が辺りを包んだ。

「ししょー!!わたし、あのとりさんとおともだちになるです!!わたしは、やけどもけがもしてないですよ!!ぜったいにしないからだいじょうぶです!!」

瑠依は湖の畔にいたため、風にさらされていない。そんな瑠依はそう叫ぶ。

「ふふっ、おともだちか」

あいは事も無げに微笑みながらそう呟いた。
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