ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

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浅葱の力とはなんなのか。
今になって考え直す。

単純に時間移動能力だった筈だ。
それ以外には、特に目立った能力はなかった。
だから時間旅行先に於いて、目立ったりしないように予め入念な準備をしていたし、祠に巻き込まれた時は、尻尾を巻いて逃げ出して来た。 

食欲をトリガーとしたのは失敗だったのか、成功だったのか。

市川に越して来て直ぐ、浅葱家開祖?らしいご先祖様「国麻呂」さんと面談?して以降、浅葱の力は、食べ物に関してはなんでもありになった。 

納戸にあるカップ麺は、玉がいくら食べても無くならないし、冷蔵庫の食材も、そもそも僕が欲しいとも思わないのに補充或いは新規に増えている。
昔は、玉の意識的にか無意識にか、玉の食べたいものが増えていたけど、最近では本当になんでもありだ。

一応さ、僕の人生上経験したものという法則があった筈なんだよ。
食べ物にしても、道具にしても。

なのに。
なのにだ。

簡単なステンレス製ピザ窯キットを作って一晩おいといたら、なんで立派な石窯になっているんだよ。
昨日、コンビニで買っておいた冷凍ピザを焼こうかと聖域に来てみれば、まぁ。
ペラッペラのステンレスが白い耐火煉瓦に変わってやんの。

…………

『儂は知らんぞ』
『くにゃ』

『私でもありませんよ』

…………

途中で入った変な鳴き声は、御狐様らしい。初めて聞いたかも。
何故だか聖域に居がちな神様と御狐様とお母様が違うと言うなら違うんだろう。

みんな、必要な事を言わない事はあっても嘘は言わない人(神・狐)だから。

だったらあとは、僕の力でしかあり得ないわけで。
…本当に制御出来なくなって来てるな。
浅葱の力。

★  ★  ★

「あちち、あちち。」
「ヘラを窯に付けないの。ヘラが熱くなるでしょ。」
「殿。でも結構難しいですよ。」
コンビニで売ってる冷凍パイを適当に焼いてみた。

パイ自体は、朝ご飯にバイキング形式で食べた事もあるので、玉も普通に好きらしい。
玉は、僕の料理はなんでも美味しいと言ってくれる人なので。

「あぁ、たぬきち達はやめなさい。塩っぱいから。こっちあげるからね。」
パイと一緒に具用ハンバーグを作ってみたのだけど、一緒に用意した、塩も胡椒もパン粉も何も混ぜない鶏肉のミンチを小判形にしたものに、ほんの少し火を通した特製品をみんなにはあげる。

「わふわふ」
「ひぅ」
「くぅ」
「くぅ」
「くぅ」

川の側に作られた緋毛氈の上で、みんなで並んで試食会。
動物達もみんなお座り(フクロウ君も?)して、舌鼓を打ってくれてる。
…平和だ。
こんど、ぽん子達にもご馳走してあげないとな。
ただ、あっちは雑食と草食が混じっているから、色々準備しないと。

玉はわざわざ持ち込んだタバスコをたっぷりかけて、それでも美味しそうに食べている。
この娘は、刺身につける山葵も、焼売につける辛子も、見ている方が辛くなるほどごっちゃりつける。
今までの玉の食生活に香辛料と言う文字はなかったので、水を飲まないとやってられない程に、わざと辛くするんだって。
「飽きるまでは、そうやって食べたいんです」
「そうですか。」

「殿。どうしよう。こないだ食べたぴざより美味しいです。ちいずとぴいまんが美味しいです。」
「玉は冷凍食品が結構好きだよね。」
「はい。いんすたんとも美味しいです。…でも、玉は殿のご飯が一番好きなので、早くぱんも焼きたいですね。」

小麦は昨日、帰宅後直ぐに畑を耕して植えてある。
聖域はそろそろ手狭になって来たので、浅葱の畑の一角を耕した。
からしなと一緒に。

どうせ、水晶の中だし、土地神の加護もあるし、直ぐ育つだろう。
小麦粉料理も考えないとな。

★  ★  ★

『今週末は実家に帰るので、そちらに行けません。おのれクソ親父!泣かしちゃる。』

そんな物騒なメールが来たのは、もうすぐいよいよ師匠も走る12月になりますって金曜日。
「クソ親父でも、お父さんがいるのは羨ましいです。」
ま、ね。
僕にも玉にも、お父さんはもう居ないから。

「さて、何をしましょうか、殿。」
考えてみれば、今までの週末は、大体青木さんが来て、引っ掻き回してくれていたんだ。
別に何もしなくても、いつも通りの僕らでいればいいのだけど。
どうせ毎日、ちょこちょこアレコレなんやかんや忙しなく動いて(遊んで)いるのにね。

「なんだろう。なんだか落ち着かないな。」
「です。」
さて、何をしよう。
パン作りは小麦育成に入ったし。
冷蔵庫には手作り豆腐が冷えている。
(大豆をミキサーでペースト状にして、にがりを足しただけ)
玉特製ジャムも冷蔵庫に並んでるし、あとは、と。

鰻かぁ。

実際、聖域の川には鰻が目立つ様になって来たんだよなぁ。
荼枳尼天は神様だけに、それ程人間にたかろうとはしないけど、待ってる筈だ。
玉が毎日捧げている奉納品は、翌日綺麗になくなっているし。

多分、さっき作ったピザも食べているだろう。御狐様には、今冷蔵庫の中にある豆腐を使った油揚げを食べてもらわないとね。
それはともかく。
鰻は荼枳尼天からのリクエストだった。
その為に、成田で鰻を食べたし、西日本の鰻を荼枳尼天が捕まえて来たし。

「玉、今から鰻を捕まえに行きますよ。蒲焼を作りましょう。」
「あ、殿。そしたら山の方にも行きましょう。川の向こうに山椒が生えてました。」
「…なんでもあるね。我が家は。」
「全部、殿の仕業ですよ。」
「仕業言わない。」

………

…鰻は、既に魚籠に入れて、いつもの縁台に置いてありました。
しかも、「E」、「W」って札が付いて。なんで英語?
いや、そりゃ、西日本と東日本じゃ鰻の味も変わりますよ。
背開き、腹開きは、武士の切腹云々じゃなくて、単に内臓の泥の有無と水質による滋養の量に伴う調理法の仕方が違うって事だから。
(平野が広いため水流が穏やかな関東鰻は内臓が泥臭い代わりに栄養豊富で味が深い)
だからってねぇ。

社の明かり取りから、荼枳尼天と御狐様がこっちを覗いてるよ。
御狐様は、あれじゃもうごんぎつねだ。
くそっ可愛いなぁ。
玉が嬉しそうに手を振ってる。

因みに、たぬきち達は寝てました。
それぞれ小屋の中か、室の中で。
熟睡してて、起きやしない。
まぁ、僕らが行く時間外の彼らはみんな寝てるし。というか、フクロウとテンは、本来夜行性だし。

………….

「くわああ」
だから、ぽん子は眠いんだったら起きて来なくていいのに。
相変わらず、顔が裏返しになりそうな大欠伸をして畑にやって来たぽん子は、僕ではなく、玉の方に向かってきた。
何故なら僕は、ぽん子が苦手とする川の中に、既にいるから。

『抱っこ』

玉には直接言葉は通じないけど、お互いの意思疎通は出来るので、玉の腕に抱かれてこちらを眺めてる。

僕は川を渡って反対岸。
ここは、浅葱屋敷の谷の西端で、熊本の本物の地形と同じく、水深20センチ川幅3~4メートルの、でもきちんと熊本県地図には載っている小川(のコピー)。
相変わらず足首を、オイカワが突いていたり、川海老がわさわさ集まってきたりしてる。
川海老は、そのまま素揚げにして塩をかけるだけで美味しいんだよね。
ただし、聖域の川と違って、こっちの生物は何故か人懐っこいので食べる気にはなれないんだけど。

あ、あったあった。
山椒は簾みたいな葉が特徴的なので直ぐ分かる。
根っこから引き抜いて、背負い籠に何本か放り込んだ。

籠を持って来た事には理由がある。
前に筍を採りに来た時(ぽん子が山から転げ落ちて来た時)、百合の花の群生を見つけていたから。

白く粒模様の花は典型的なヤマユリだ。
ヤマユリからは、美味しい百合根が取れる。
これを何本も適当に掘り起こして、こちらはきちんと籠にそっと収めた。
百合の花は花粉が強く、洗濯が大変なのと、生花にしても割と花を咲かせ続ける事が出来るので。

おや、根本を見たら、若葉が出てるじゃん。うん、これも回収。
庭の花壇はただの野草しか咲いていないので、百合の実生を株分してみよう。

ついでに筍を何本か。
この真竹で作る手作りメンマを、カップ麺に入れて食べる事が、玉は大好き。
ほら、向こう岸で、もうワクワクした顔を隠そうともしない。

ここまで来たついで。
川の中から、丁度良い石を拾って空に投げる。
3度投げて、3度獲物が落ちて来た。
「アケビ」だね。
アケビがなっているのも、前回確認してたけど、何しろ傾斜がかなり厳しいので山に登る気も起きなかったし、それにアケビの味を、僕は知らないから。

あぁでも。
玉とぽん子の目がキラキラしてるから、さぞかし甘くて美味しいんだろう。

★  ★ ★

「さて、これから鰻を捌きますが、物凄く残酷な絵面なので、玉は洗濯物の取り込みでもしてて下さい。」
「はい。」

台所に戻った僕が一番最初に取り出したのが「千枚通し」なのを見て、魚を捌く手順を想像した玉は、さっさと庭に出て行った。
…僕の分のアケビも、我慢出来なくてぽん子と一緒に食べちゃった玉さんは、しばらくは素直に従ってくれるでしょう。
玉さん的には、やはり日常生活の中で食べられる果物だったみたいで、1,000年ぶりに食べた味に涙ぐんでいたから、そりゃ僕には何も言えませんよ。

食べたければ言ってくれれば良かったのに。
浅葱の畑には、毎日行っているんだから。

でい!
ぐりっちゃらぐりっちゃら、俎板の上でクネクネしていた鰻の頭のうち、もっとも柔らかい部分、すなわち目玉に千枚通しを突き立てます。
頭が固定されたところで、すかさず包丁で首を切断!
100円ショップ包丁だった筈が、斬鉄剣みたいな切れ味に変わっているので、何の抵抗もなく、スパッと首よさらば。

胴体は延髄反射でクネクネしまくりなので、ザルに落として大人しくなるまで流水に晒して血抜きをします。

EとWの鰻に分けないとならないので、うちの狭いシンクからは、三角コーナーが追い出されましたよ。

Eの鰻は背開きで。
Wの鰻は腹開きで。
骨は後でからりと油で揚げてお煎餅にします。

蒲焼のタレは、醤油・味醂・砂糖・調理酒(越乃寒梅)を適量混ぜて弱火で煮込むだけ。
成田で買った市販のタレと比べてみようかな。

Wの鰻は、白焼が美味いんだよね。
七輪をフル回転して、蒲焼と白焼を焼いて焼いて焼いて。

あと、内臓もきちんと火を通したら、フライパンで簡単に焦げ目をつけて(歯触りが僕が好きだから)、市販の白出汁で煮ながら塩で味を整えて。
美味しい肝吸いの出来上がり。

Eの鰻はタレを塗っては焼き、ひっくり返してタレを塗って焼き。

さっき採ってきたばかりの山椒は、乾燥の手間すら要らず、燻って焼いて、摺鉢でゴリゴリすれば山椒粉の出来上がり。

誰ですか?どなたですか?
串何年だとか、焼き何年だとか言ってる職人さんは。
青々とした三つ葉を乗せて。
浅葱の(インチキ)力で立派な鰻重フルセットの完成ですよ。


…。
飯に関しては最強だな、浅葱の力。
本当に、なんなんだろう。
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