ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

レジャーな日

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大泉JCTから関越に乗る頃、やっと朝日が車内を照らし出す様になった。
変わり映えのしない防音壁の連続にすっかり飽きていた玉は、待ってましたと言わんばかりに、いつもの帆布カバンから地図を取り出した。

今日の地図は、古本屋で購入した「関東広域」地図。
平成末期の版で、一部の鉄道や道路の改定前なんだけれど、玉自身がそこまで精度を求めていないので(あと、最新版を買ってあげようとしたら叱られたので)、無駄に大きくて厚い重い仕様でございます。

「殿、今どの辺ですか?」
「埼玉県を横断して東京都に入ったところだ。この緑の道路から、こっちの緑に移ったんだな。」
「関越自動車道って道路ですね。」
「ここまでのルートは、後でマーカーしてあげる。」
「はい!お願いしますね。」

膝の上に地図を広げて、赤のサインペンを構え出す玉さん。
子供の頃の僕もそうだったけれど、普段は同じ町内で生活しているから、新しい景色が面白くて仕方なかった。

一緒に出かける様になって、現代社会のランドマーク的な(ただの大規模な工事現場であっても)ものに興味を示して来た玉は、新しい何かの正体を地図で確認する、ある意味でフィールドワークを誰に言われた訳でなく始めた人だった。

因みに彼女の母親はと言うと、闘痔の旅で涙を流して笑っている。
極力声を出さないのが、いかにも(僕以外には)控えめなしずさんらしい。
平安時代末期の女性が、現代社会の観察よりも30年くらい前の北海道ローカル番組の方に夢中になっているのは、年の功?なの?かな?

ナビゲーターの役割を全く放棄しているけど、自分のプレゼントを心から楽しんでいる姿に、ドライバーの青木さんはニコニコしているから良いか。

おおよそ旅行に出ているとは思えない程、統一感の欠片もなく、各自で好きな事をしている仲間(あ、あと。あまりまだ言いたくないけど''家族'')を乗せて、車は北上していくのでした。

まぁ、この辺は景色も市川と大差ないからね。

★  ★  ★

時刻は7時を回って、そろそろ朝ご飯の時刻なので、高坂SAで一休み。
と言っても、この時間開いているフードコートは、ラーメン・うどん・肉。
ラーメン、肉、肉、肉!
焼肉、とんかつ、ハンバーグ!
朝から食べるには重たいよ。
僕が少しゲンナリしているのに気がついたのだろうか。 
しずさんがいち早く提案をしてくれた。

「家に戻って、私が作りましょうか?」
水晶は2つとも持って来ているので、しずさんの家でも、浅葱屋敷でも、冷蔵庫に入っているもので適当にいつもの朝ご飯は作れるのだけど。

「せっかく旅行に来ているのだから、気分を変えましょう。不健康なジャンクフードでも、たまには良いじゃない。」

という青木さんの提案で、売店でワッフルサンドとコーヒー、アメリカンドッグなどを各自適当に買って、車内で食べる事にした。
2月の早朝はさすがに冷えるので、外のテーブルで食べるのは嫌です。
あと、冷温庫で温まってるおにぎりもあるし。

「殿!殿!」
「なんですか?」
「これ、美味しいです!」

あらま、玉さんたらケチャップとマスタードがたっぷりついたアメリカンドッグをお気に召したようです。
他所様の車内だし、汚さない様にウェットティッシュを渡しましょう。
コンビニにはよく玉と行くけれど、買った事なかったっけ?
アメリカには無いらしいアメリカンドッグは、この手のスナックでは一番お安くて、大昔から値段も殆ど変わらないワンコインのまんまらしい。

お袋が生きていた頃も、親父が生きていた頃も、そして妹と2人ぼっちになった頃も、買い物途中の疲労や空腹を安価で癒してくれた、僕の思い出の食べ物であり、散々食べたからもう食べたく無い食べ物であったりする。

まぁ、こんなものなら浅葱の力でいくらでも出せるけど。
どんどん安っぽくなっていくな。
浅葱の力。 

★  ★  ★

高崎を過ぎて、そろそろ関東平野が尽きようとする頃。
道路の左右には建物がなくなり、赤茶けた水の無い冬の田が延々と広がりだした。

さっきから玉は地図を見る余裕がない。
しずさんですら、DVDを見ないで前方の車窓風景から目が離せない。

建物が少ない分、大地を邪魔するものが無く、その大地の凸凹がそのまま見える。見てわかる。
少しずつ傾斜を増す大地は山に繋がっていく。
右に赤城山、左に榛名山。
上州を代表する名山が、山の間からその雪を被った頂きをひょっこり見せている。
少なくとも、市川の下総台地の端に住んでいた親娘は見た事の無い様なパノラマなのだろう。

僕もここの景色は好きだなぁ。
遠く故郷、熊本は阿蘇の外輪山を越える風景を思い出すから。
やまなみハイウェイとかね。

「ね。来て良かったね。」
青木さんが、運転席のガラスを伝って、僕にだけわかる様に話しかけてきた。
「青木さん。ナイスだ。」
「うん!」
日本もまだ、行かないと見ないとならない景色は沢山ある様だ。

うん。僕らにはまだ沢山時間がある。
しずさんも含めて、またいつか、色々なところに行こう。
なぁに。いざとなったら、水晶を持ち出して、しずさんを強引に連れ出してしまえはいいだけだ。

★  ★  ★

昼前に渋川・伊香保ICを降りて、いよいよ榛名の山に入っていく。

「うん、ちょっとだけ辛いかも。」

軽自動車に4人乗って、山道に入るからなぁ。
僕の車も、佐倉の博物館に登る坂で頑張ってくれたなぁ。
あの時は3人だった。

とは言っても、昔のスバルとかマツダの360ccの車じゃないから登れない訳じゃない。
時々オートマのギアが落ちる程度。

玉は地図を片付けて、しずさんもDVDをしまっている。
2人して何をしているのかと言うと。

………

「ここは昔、路面電車が走ってたんだよ。その跡があちこちに残っている。」
「婿殿。路面電車ってなんですか?」
「ん?道路に線路を敷いて走る電車の事ですよ。」
「あ、玉知ってます。とでんって言うのがそうですよね。」

………

という会話がちょこっとありまして。
僕が玉のスマホを使って、伊香保軌道跡を辿った資料を検索したのを契機に、後部座席に親娘並んで座って、スマホと見比べつつ車窓に釘付けになってます。

おかげで場所場所で徐行運転を強いられるので、そりゃ660ccの車には(というかアクセルを踏み込む足に)負担がかかるわけですわ。

「まだ慣らしが終わってないけどなぁ。でも道路に雪がなくて良かったぁ。」
「ごめん。玉が歴史好きな事、すっかり忘れてた。これほど食い付くとは思わなんだ。」
「お母さんも楽しそうだからいいよ。」
「しずさんも元々知識階層の人だからね、知識の吸収と理解が早いし。多分想像力も豊かなんだと思う。玉が楽しそうな事が、やっぱり嬉しいんだね。」
「お母さんはお母さんねぇ。あのお母さんがあっての玉ちゃんなのね。」

小さな鉄橋の跡とか、ちょっと道幅が広がった停留所の跡とかを、当時の地図や写真と見比べながら、ダラダラと山道を登っていく。

好楽シーズンとかけ離れた2月の平日で良かったよ。
日本有数の温泉街に向かう道なのに、車が殆ど走ってない。

………

グリーン牧場。
伊香保旅行の目玉として、青木さんが選別した観光牧場だ。

動物と触れ合う(塗れる)のは毎日の事だし、市川動物園にも玉にせがまれて時々通う(僕は飼育員さんと園長さんに追い回される)日々なので、僕的には特に歓迎しようとは思わないのだけど。

「ソフトクリームが美味しいの!」

と、一度家族旅行で来たことのあるという青木さんが大推薦するので、僕も玉も、その迫力に押されて首をカクカク縦に振るしかなかったんですよ。夕べ。
どうでもいいけど、2月の山の中でソフトクリーム食うかぁ?

「婿殿、馬。馬乗りたい!馬!」
乗馬体験コーナーをパンフレットで見つけたしずさんが、一番最初に騒ぎ出した。
だから何故しずさんは、僕に対してだけはしゃぐんだろう。

というわけで、早足になるしずさんを3人が追いかける羽目になりました。
「玉も乗るかい?」
「玉には、お馬さん大きいのでいいです。」

う~ん。
見える馬の種類は知らないけれど、いわゆるサラブレッドみたいな馬。
僕はギャンブルを一切しない(勝負運やギャンブル運が無さそうなので、あとお金が勿体ない)からわからないけど、あとアラブ種ってのがあるんだっけ。
こういうところの馬って、勝てなかった競馬馬の第二の人生(馬生って書くと噺家になっちゃった)の場って聞いたことあるなぁ。

ついでいうと、玉が見た事ある馬は日本の在来種で、体格はポニーと大差ない。
平政秀さん一党を懲らしめた時、周辺の牛馬をかき集めた事があったけど、あの時の馬と比べたら目の前の馬は化け物だ。しずさんの好きな漫画に出てくる黒◯号だ。
玉が怖がるのも無理はない。

一方、しずさんは玉が産まれる前、旦那さんの杢兵衛さんと牧場経営をしていたわけで。
乗馬経験は豊富だし、そりゃ上手いよなぁ。



「あの方、私よりも上手いですよ。だって馬が楽しそうです。」
玉と青木さんは、しずさんの乗る馬を追って、円状の柵の外を歩いてる。
僕は、受付の外でのんびり手を振る事に専念してたら、係員さんに話しかけられた。

「馬は頭の良い動物です。別に一部の家畜の様な、人間に対する依存性は少ないんです。主人を主人と認めなければ懐きませんし、主人と認めれば何処までも主人の役に立とうと思うそうです。そんな話も沢山あります。」

なんか語り出しちゃったよ。
でも、なんか目がキラキラし出しちゃったから良いか。

「気の荒い馬だと、乗せた人間を振り落とします。或いは人間を舐めます。でもあの仔は、自分からお客様の元に寄って来て、自分に乗る様に求めてました。そんな事、ここで毎日世話をしている私達にもなかなか見せてくれない仕草ですよ。」
「へぇ。」
さすがは一言主の巫女というか、仔牛から甘えにくる人だし。なんと言っても玉の母親だし。

「また来てくださいね。」
「ええ、この仔も可愛いし、いつかまた。」

ひひん。
『絶対だよ』

あぁ、こら馬くん。
確かに僕が連れて来ないとしずさんは来れませんけど、僕に愛想を振り撒いても、ちょっと困るぞ。

「この義母にして、この婿ありか。」
僕と馬くんの戯れ合いに呆れた青木さんが溢すのが聞こえた。
「モーちゃんがもう少し大きくなったら、玉を乗せてくれるかなぁ。」
「殿に頼めば、モーちゃんには話を通してくれるわよ。」
僕は何者なんだよ。

………


次なるアトラクションはアーチェリー。
牧場でアーチェリー?

「観光牧場は土地はあっても出し物はないの!担当者のアイデア次第!」

何気に酷いことを言う青木さんの希望なのです。
「貴方もやる?」
「やりません。」
的当てって苦手だから。

ダーツも輪投げも下手くそです。
昔、福岡の遊園地に行った時、バズーカ砲でボールを撃って、鬼だか恐竜だかの的を狙うアトラクションで遊んだ時も、お金を無駄にしただけだもん。

弓道をしていたという青木さん。
「弓道をシステマチックにしたものがアーチェリーなので、簡単だよ。」
と豪語するだけあって、全て満点で終わらせて、玉としずさんから拍手を貰って照れてました。

青木さんご推薦のソフトクリームは、言うだけあって、とても美味しくて、甘味大好きしずさんがおかわりしてましたよ。
だから今2月だってば。
人の動線以外の場所は、雪かきした雪だらけ。

「うちのモーちゃんの乳でも作れるかしら。」
「作れるけれど、搾乳機を手配しないとならないなぁ。」
「大丈夫ですよ。私が手で絞れますから。」
うちの家族さん。
みんな高スキル持ち過ぎです。

あぁ、特にアトラクションに参加しなかった僕と玉ですが。
ヤギと羊にずっと追い回されて、それどころじゃなかったんです。

市川動物園でも動物塗れになる2人ですけど、あっちは基本的に小動物。
「とぉのぉ。助けてくださぁい。」
「僕の方が助けて欲しいぞぉ。」
ヤギと羊の海に、僕らは溺れました。

「この2人は何処に行ってもこうなるのね。」
「あらあらうふふ。」
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