ご飯を食べて異世界に行こう

compo

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第二章 戦

早く結婚しなさいな

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「殿!」
「婿殿。」
「わふ」
「わん」

帰ればいつもの家族が駆け寄ってくる。
僕は馬を降りて、首筋を軽く叩いてやった。  
「ご苦労さん。」  
「ひん」
神馬は芝草が生える元花壇に歩いて行った。
水を飲むらしい。
…あいつ、本当に神様か?

そんな姿を見送っていたら、玉に抱きつかれた。
何も言わずに、顔を僕の胸に擦り付けている。
「あぁと。僕、そんなに心配かけてましたか?」
思い切り間抜けな顔をしたのだろう。
しずさんが吹き出した。
正直、自覚が全く無い。

「婿殿はなんでも1人で出来ちゃいますからね。例え少々危険な事でも。」
「危険…ですかね?」
「乗馬経験の無い者が、いきなり暴馬に乗って走り出したら、それは危険と言います。」
「あぁ、ごめんなさい。」

別にしずさんは怒っている口調ではない。どちらかと言えば、諦めているとか、呆れているんだろう。

『玉ちゃんは気丈に振る舞っていたけど、お父さんが心配で心配でしょうがなかったの!女に心配をかけるな!てぃ!』
ぽん子に狸パンチをふくらはぎに食らった。 
勿論、爪を立ててる訳でない肉球パンチをジーンズの上からだ。
痛い訳がない。

もう1匹の出迎えさんは、僕らをほっといてヤギに向かっていた。

『こんにちは、メェメェさん』
『あら小さな犬さん。殿のところに無事着いたのね』
『うん。殿はお父さんで、お母さんは毎日美味しいご飯をお腹いっぱい食べさせてくれて、お姉ちゃんと一緒にいっぱい運動してるよ。佳奈さんって僕のご主人様が来てくれるのが楽しみなの』

あぁちびさんや。
命の恩人との再会が嬉しいのはわかるけど、何言ってるかわからないぞ。
雄ヤギは、ちびの背中を舐めていて嬉しそうだ。  

「さてと。しずさん、ちょっとこちらへ。」  
「はい?」

ほんの10数分の外出の結果を収めないとな。
とりあえずは1つ。
腕の中にいる巫女さんを、ひょいとお姫様抱っこに抱きあげた。
「!」
上からしか見えないけど、玉は耳まで真っ赤になっている様だ。
そんな娘の姿をニコニコ眺めながら、母は僕らについてくる。
あと、ぽん子も。

ちびはヤギの側に居るままだ。
あっちはあっちで任せておこう。
ほら、みんなで芝草の方に歩き出した。
僕は目線を切ったけど、ぱんぱんと言う音が聞こえる。
あれはうちのうさぎ達だろう。
普通うさぎはストレスを感じると後ろ脚で地面を蹴ると言うけれど、うちの仔達は嬉しい時だけ蹴る。

それは言葉の通じないしずさんへの、精一杯のメッセージだ。
『こんにちは』
『こんにちは』
『今日からよろしく』
『お父さんに助けられたの?』
あぁ、うさぎ達にもやっぱり僕はお父さんなのか。
しかもしずさんはお母さん呼ばわりだし。
色々ややこしすぎるだろ。

★  ★  ★

一言主の社にやって来た。 
僕が管理していないのに、巨木が参道を作っている。
大体3メートルくらい。
西側は1本分抜けになっていて、そこには生簀がある。
禊の為に神社には池や川が、形の上で必要だそうで、由緒ある神社は大体川の側にある。
川の水に浸かる事で水垢離になるんだとか。伊勢神宮なんかは近世まで、その習慣が残っていたね。
その名残は手水鉢と言う形にお手軽に変形してるんだけど。

と言っても、うちの池は生簀として作ったので、魚だらけだ。
時々転移に失敗した青木さんが落っこちて、ついでに捕まえた鮎をしずさんのお土産にして温泉に直行するくらいしか、今の僕達が触る事もなくなったなぁ。
手掴みで魚を捕まえる青木さんも、相変わらずの謎スキルを持っている訳ですけど。

冷蔵庫を置いたから、しずさんが食べたい時以外にわざわざ釣りをする必要もなくなったし。
贅沢者のぽん子は生魚は食べないので、狩りの対象にしてないし。 

「そろそろ良いか?」
玉を地面に下ろすと、俯いて顔を真っ赤にしたまま僕のシャツを掴んでいる。
玉とは毎晩同衾しているし、求められた事もあるのに、この子のスイッチがわからない。  

「台座。」

文字通りの台座だけ出現する。
これは聖域で狛犬ではなく狐像の台座になっているものをそのままコピーしてみた。
荼枳尼天は稲荷神なので、眷属は狐だ。
くにゃくにゃ言いながら、甘いものをねだってくる、最近では主人より僕に懐きがちな御狐様だ。
考えてみれば、この台座に狐像を乗せてくれと、玉に頼まれた事が全ての始まりじゃないか。

この上に新しい像を乗せ無ければならない。あぁもう。なんだか七面倒くさいよ。
「よっこらせ。」
白い狼像を乗せる。そのうち1頭は口に鍵を、もう1頭は釣竿を咥えていた。
あらまぁ。
一言主は別名恵比寿さんだから、釣竿も関係あるだろうけど、鍵?


「婿殿、これは?」
自分が巫女を務める社に勝手に狛犬が作られたんだから、戸惑うのも当然…
「一言主様と大口真神様に何か関係ありましたっけ?」
…あまり動じていなかった。
しかも大口真神の事を知っていた。
さすがはプロの巫女。

「真神なら、そこでねっ転がってるよ。」
喉の渇きを潤した神馬が、寝たままチモシーをむしゃむしゃ食べてる様子が見える。
「そんな、俺の隣で寝てるよみたいにですねぇ。」
誰だ、しずさんにくだらないネットジョークを教えた奴は。

「あたしあたし。」
と手を挙げそうな23歳OLの姿が幻視できたので、口には出さないけど。

・穢れた狼が、ヤギ達に襲いかかってた
・なので、神馬と一緒に蹴散らした
・残った2頭の穢れを祓った
・僕に隷属化して一言主の眷属になった  
・ヤギ達が来たいと言ったので受入た

大雑把に説明したけど、しずさんはやっぱり動じていなかった。
なんだろ、この人。

「つまり神馬様は大口真神様と。」
「立場はたぬきちと同じだよ。」
「あっちは狐と狸。こっちは狼ですか。」
「穢れはこの水晶にもまだ存在する可能性があるって事ですね。」

それだけ浅葱家のご先祖がやらかしたって事でもあるんだね。

「でしたら、私も一層の精進が必要になりますね。」 
あれれれ。
「何を惚けたお顔をされているんですか婿殿。私だって玉の母だし、一言主様の巫女ですよ。ご神馬様が神様な事は想像してました。…まさかただの人間が神様を隷属させちゃうとは思いませんでしたけどね。」
にっこり笑うしずさん。なんか怖い。

「こほん。」
「?」
しずさんが改まったぞ。

「改めてお願い申し上げます。我が娘・玉を何卒菊地様の御内儀のお一人にお迎えください。」 
「はい?」
「はい。」

娘さんは素直に頷いてるけど、またどうしたらそうなるのよ。

「難しい話じゃありませんよ。私と玉は婿殿に死ぬまで付いて行こうって改めて決心しただけですよ。」
「あの、重いんですけど。」 
「貴方はそれだけのお人なんです。」 
「無職ですが。」
「はい、さっさと働け、ですよ。」
久しぶりのやりとりだけどさ。
「まぁ、私と玉だけでしたらここにいるだけで大丈夫でしょうけどね。うふふ。」

誰か助けて。
というか、説明して。

「ぶっちゃけちゃえば、玉が婿殿の親族になれば、私も一言主の巫女として、人智を超えた力を得る事ができそうだからです。」
「…その力で何をする気ですか?」
「美味しいご飯が作れます。」
「はい?」
「天竺鼠に子供が生まれた様に、ぽん子やちびにもいずれ配偶者を迎えたいです。なんならモーちゃんにも。私にも婿殿くらいのお力があれば、穢れを祓う事もこのお屋敷を広げる事も出来るでしょ。」

この人は何を言い出しているんだろう。

「そうすれば、玉も婿殿好みのお味噌汁が作れる様になると思うんですよ。」
「お母さん!」

野望が一気に矮小化しちゃった。

別に玉のお味噌汁は、お袋のお味噌汁とは違うだけで普通に僕の好みなんだけど。

仮に玉と青木さんがお嫁さんになってくれるなら、2通りの味噌汁が飲めるんだから、わざわざ寄せる事ないのに。

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