ご飯を食べて異世界に行こう

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第二章 戦

海鮮鉄板焼き

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「どばどばどばどは。」
玉が楽しそうに、オノマトペ付きで花鰹を一袋、鍋に浸した金笊に入れている。

隣には、いつもの畑で育てた大豆から作った我が家特製味噌に、市販の赤味噌チューブ。それに羅臼産昆布が3枚ほど積まれていた。
我が家産の木綿豆腐は、既に冷蔵庫から出されてボウルの中で水に浸からせている。

僕はというと。
ガス台を玉に占領されてしまったので、食卓でおかずの準備。
昼間一度脂通ししておいた鉄板を改めて火を入れた。
こちらには、イカ・タコ・エビ・ホタテと言った生物。
それとさっき浅葱畑と聖域畑で収穫してきた人参・椎茸・玉葱。
ついでに僕の力で出したピーマンとアスパラガスが山になっている。

どこかのレストランの厨房みたいだけど、食材の種類が多いだけで、これがいつもの僕んち。

僕と玉とお隣さんの3人分、朝は更に大家さんまで加わるから4人分が必要になる。
4人家族だと思えば当たり前の光景かな。
最初は「玉に料理させると、殿が死んじゃうから嫌です。」と言って、糠を掻き混ぜるだけしかしてなかったおさんどん(差別用語)さんが、メキメキと料理スキルを上げてきた事もあって、
家政科卒のお隣さんと一緒に、我が家は戦争になる。

普通は、ご飯を食べる方が戦争なんになるものだけど、、ご飯を作る方が戦争を起こすという、やっぱり変な家だ。

エビの背腸を取ったり、イカの皮を剥いている僕の隣では、青木さんがブラウスにエプロン姿で鼻歌を歌いながら、ピラーを使わず包丁で人参を剥いている。
剥いた皮は、後で玉が糠漬けにして、明日の朝に小皿となって出て来る。

エビの背腸は捨てるけど、皮は素揚げにして塩を振れば美味しい。

好き放題しているように見えて、実は余す所無く食べるんだよ我が家。

なんなら背腸は聖域の川に流せば魚達が食べてくれるだろうけど。
川エビや手長エビも住んでいるから、共食いみたいでなんとなく憚られる。

「晩御飯に玉ちゃんがお味噌汁を作るのって珍しいね。」
例によって隣室の住人は、僕の部屋に帰ってくるので、直ぐに自分の仕事を見つけて手伝ってくれたのは良いけど、コートとジャケットは居間に投げっぱなしだ。
この人は相変わらずだなぁ。

「まぁ、今日も色々あったんだよ。」

まさか本物の神様が僕に隷属したとか言っても…あー多分驚かれないだろうな。

「で、改めてしずさんに玉と結婚して下さいって頼まれた。」
あれ?玉が積極的過ぎて既成事実化していただけで、口に出されたのは初めてかも。
「玉は味噌汁が青木さんに勝てないと思い込んでいて、少し引け目を感じていたらしい。僕の嫁になればそれも解消されるんだってさ。

味噌汁のために配偶者を押し付けられる僕。

「そんな事ないのに。玉ちゃんのお味噌汁飲んだら、そこらの定食屋のお味噌汁飲めないよ。」

思わずしげしげと青木さんの顔を見ちゃった。
定食屋に入る23歳OLというのも、色気ないだろ。
銀座とか有楽町とか、都心のオシャレなとこじゃなくて、新小岩か高砂あたりのおじさん向け食堂に入って行くんだろ?

「私はただ、この家にある味噌と出汁で普通に作っているだけなんだけど。」
「その味噌は僕の力で作っているから、それで僕好みの味になっているらしいんだ。」
「私、貴方の好みなんかわからないんだけど?」
「君の味噌汁に感じているのは、俗にいう''お袋の味“って奴だよ。うちのお袋も死んでから長いから、多分僕が勝手に思い出補正しているんだろう。」
「…なんか引っかかる言い方だけど、褒められているのかな?」
「多分。」
「多分かい!褒めなさい、遠慮なんかしないで沢山!」

あと言うならば。
この家に来て一番最初に飲んだ、他の人(女性)の味噌汁は青木さんのものだったから、浅葱の力で青木さんが無意識に寄せてくれたんだろうね。

「ぐつぐつ。殿ぉ、出汁取った昆布は佃煮にしますね。」
「お願い。」  
「かつぶしも醤油で煮込んで、おかかふりかけにしましょうっと。」
「鰹節と昆布の合わせ出汁に、合わせ味噌かぁ。玉ちゃん、今日は奢ってるね。」
「玉にしか作れないおみおつけを作って、玉の子供に''お母さんの味''として植え付けるのですよ。」

この子は時々、可愛らしい野望を臆面もなく口にするけど、「叶えろよ」って圧力が日に日に強くなって来ているのは、気のせいだろうか。
僕らと同時代の人なら、まだ学校で青春している頃だろうに、なんで全部すっ飛ばして自分が母になった時の心配してるかなぁ。

「ねぇ。」 
「何?」

椎茸の石突を指で裂いている青木さんに肘で突かれた。
思わず見てみたけど、ご本人は椎茸から視線を外さない。
あと、石突食べるの?

「私のプロポーズはどうなってるの?」
「されたっけ?」
「あぁ酷ぃ…あれ?私したっけ?」
「メールで告白された以外は覚えがない。」
処女膜が固くなる前に早くヤレって言われた事もあるな(意訳)。

「私はその気満々なんだけどなぁ。明日でも良いよ。市役所行こうか。」
「だから今の僕は無職だってば。」
なんだろうな。
いつしか僕は、青木さんの前でも相当砕けた口を利く様になってるな。
青木さんの方は初対面からこうだったけど。

「私が働いてるから大丈夫だよ。私の家では主夫しなさい主夫。お父さんもすっかりその気だし。」
たしか、2回ほどしか会ってませんが。  
「お母さんは早く連れて来なさいって。」
「だから、玉と言い君と言い、親方面から外堀を埋めていくの止めなさい。大体君はご両親との関係はあまり良くなかったのではなかったか?」
「貴方のご両親が亡くなられている事が、かえってこちらの腰が軽くなっているのよね。」
「僕の話を聞けよ。ぶっちゃけやがりましたけど、それは普通、男性の方が気にする事では無かろうか。」
「貴方の場合、既に妹さんからOK貰ってるから、あとは本丸だけなのよ。」
「酷いのは君達の方じゃないか。」

まぁ良いや。
七輪に乗せたイカとエビは、バター醤油をたっぷりと塗って、下の炭にわざと落とす。
ほら、炭火に燻されますバターと醤油の煙に2センチ程度に切り分けたイカが踊り始めた。
隅っこにはホタテがパカっと口を開き出した。
勿論、中にすかさずバターの塊を投下!
うふふふふ。
これは匂いだけで飯が食える奴だ。

「あぁ誤魔化されてるよ、私。」
「時と場所を、TPOを考えなさい。」
「結婚よりご飯なのね。よよよ。」
「なんですか、その戦前みたいな泣き真似は。」
「佳奈さん、おネギ下さい。白いとこ。」
「はいはい、今切るからちょっと待って。」

これで真面目に縁談が進み出したら、それはそれで面白い。
別に玉と青木さんを差別や区別しているわけじゃないよ。

僕の中では、玉も青木さんもしずさんも、ついでに妹も「共犯」だから。
僕が捨てられない限りは、彼女達の面倒を見る覚悟は出来つつある。
玉はともかく、青木さんはどこまで本気なんだか。

★  ★  ★

「ちいずの鉄板焼きって言うのも面白いですね。」
玉さん、お味噌汁の感想を言わなくて良いんですか?
あと、自分でおにぎりを握って、七輪に乗せてますけど。

鉄板焼きと言っても、軽く塩を振って焼いた海鮮食材をチーズフォンデュするだけですけど。
鉄板の隅っこで鉄皿にチーズを溶かしているだけですが。
食材に振った塩と、チーズの塩分がマッチしていて丁度良いね。

人参や玉葱は普通に鉄板焼きにするつもりだったけど、うちの女性陣は構わずどれもこれもチーズにつけている。
椎茸にチーズってなんなのよ。

「美味しいから仕方ないじゃない。」
「畑のお野菜はどれもこれも美味しいのです。」
「そうですか。」
そんなつもりは無かったんだけどな。
まぁ野菜を沢山食べてくれるならば、僕としては文句有りません。
健康第一。
食べ合わせ的に毒になるような物はない筈。…多分。
浅葱の力的に危険信号は送られて来ていないし。

それじゃ僕は、玉の味噌汁をご馳走になりますかね。
具はシンプルに豆腐(畑で採れた大豆から作ったもの。最近では作り方を覚えたしずさんが作ってくれて、冷蔵庫に入れてくれてる)と、ワカメだけ。
そのかわり、ネギの白い所の輪切りが大量に被さっている。

実は僕は、ネギも大好き。
数ヶ月前に、白飯に何か乗せたいなと思って、ネギ+鰹節+山葵をご飯の上に乗せて醤油をかけただけのネギ丼ってものを作ったことがある。
まだ玉が昔の玉だった頃で、僕に触れられないし、しずさんとも再会出来ないし、料理を少し始めた頃の事。

お昼の献立が、前の晩に食べたマグロの残りを漬けにしたもので簡単に済ませようとした日の事だった。
元々は僕が風邪を引きかけた時に食べていた、葛根湯みたいな予防食なんだけど。
美味いんだよねぇ。

「目から鱗です!いや、眼球が蕩け落ちそうです!ただのネギですよ殿!おネギ!」
玉も大いに気に入ってくれたけど、食事時にグロテスクな表現は辞めさない。

以降、生のネギを使う時は大盛りで!が我が家の家訓。(情け無い家訓だ)
浅葱の畑でも、常に絶やさない我が家の宝でもある。

そんなネギを始めとする、我が家の食材をふんだんに使って、玉の意地と野望と愛情がたっぷり入った味噌汁。
不味い訳がない。

さっきまでおみおつけおみおつけうるさかった(平仮名ばかり)うちの巫女さん(只今はチーズに夢中)の頭をぽんぽんと叩くと。
いつものように、頭をぐりぐりと押し付けてくる。

「えへへへへ。」

それを見て、慌てて青木さんも味噌汁に箸をつける。

「やばい、負けそう。これは美味しい。」
「えへへへへ。」
「明日は私が作るからね!」
「えへへへへ。」

多分、僕は幸せなんだろうな。これ。

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