ご飯を食べて異世界に行こう

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終章 そして

染料が出来ました

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「殿。汁が黄色いですよ?桃色じゃないんですね。」
「くにゃ」
「いきなり梅の花の色にはならないよ。」

鍋の中を覗いた玉ちゃんが、不思議そうな声を上げた。

梅の枝を細く切り揃えて煮出す事「9分」。
もう煮汁が色付き始めたので、一度梅を越して煮汁を別の容器に移そうとしてるとこ。

あ、因みに本当に掛かる煮出し時間は「90分」だそうです。
今回は見本って事で、料理番組の「こちらが30分煮込んだ物です」って、調理台の下から鍋を取り出すパターンなのです。

御狐様はそのインチキの為に来ているの。
神様からのお願いなので、お手伝いなんだって。

(あと作業が終わった後、みんなで行う予定のお茶会のおやつ目当てで)

「あ、入れ物入れ物。入れ物用意してないや。」

と、あの人が茶店の中に探しに行こうとしたら、待ってましたとばかりに御狐様とたぬちゃんが白い丼鉢みたいな花瓶を咥えて来た。

そんな物あったっけ?って、あの人が立ち上がったまま不思議そうな顔をしているので解説しましょうかね。

「それ。100均で買ってみたの。ほら、種屋で色々種とか苗とか買ったでしょ。素焼きじゃなくてプラだから軽いんだよ。だからたぬちゃんでも運べるのね。」

確かに茶店の入り口に並べておいたけど、狐と狸がいち早く気がついて運んで来るとは思わなんだよ。私も。

「なんでコッチにあるの?」
「へちまを育てるんでしよ?ぽんちゃん達が住むお屋敷と違って、こっちのは花にしても作物にしても、地植えばかりだから鉢ないじゃん。あ、穴なしだから、液を入れても大丈夫。」
「買った時のレシートかなんか無い…
「あるわけないでしょ!高い物じゃ無いんだから、そのくらい出させなさい!」
「………はい。食い気味だぁ。」

まったく。
こちとら、婚約前どころか正式なお付き合い前だって言うのに、毎日毎日ご飯やお風呂を集っているんだから(言葉にするとめちゃくちゃ図々しい女だな、私)、少しは金を出させろっての。

こんなの10個買っても税込1,100円だっての。
玉ちゃんと違ってレシートを集めて家計簿つけるほど、出来た女じゃないぞ、私は。
大体、毎月のお給料を使いきれないんだから、財布の中身なんか気にした事ない。
私が普段食べている街中のランチだって、今時このくらいするっての。
(最近は押上駅前の正好ってラーメン屋でラーメンと一緒に生姜ご飯を食べるのに夢中な私)

あと、私だって部屋じゃ普通にガーデニングしてるんだからね。
知識だって一通りはあるんだぜぃ。


………


「越布で梅の枝は取りましたけど、これどうしますか?」
「まだまだ染色液は取れるから、乾かしてください。梅を休ませましょう。」
「はいはい。橋の上にに並べますよ。」
「くにゃ!」

お母さんが、聖域の川に掛かる石の橋に布ごと今煮ていた梅の枝を並べると、御狐様がその上をさっとジャンプする。

そしたらあら不思議、布ごと乾いちゃった。

「あらあら。では早速煮ないといけませんねぇ。」
「休ませようって言ったのに。働き詰めで可哀想だな、梅の枝さん。」
「殿?梅の枝の擬人化は、なんか気持ち悪いですよ。」
「それは良いから、煮出した液を別にしときますよ。」
「はい、です。」

珍しく玉ちゃんがあの人の軽口を非難してる。
お母さんがいて、私がいて、御狐様やたぬちゃんたちが勢揃いしているので、信頼している人や動物しかいない前では、玉ちゃんの口も軽くなるみたいね。
あの人が好きで尊敬しているくせに、たまに口が悪くなる玉ちゃんでした。(交通事故駄洒落を添えて)



という事で、煮汁を玉ちゃんが植木鉢に移したら、空いた鍋に川から水を汲まないとと、あの人が鍋を取り上げた。

一応魚たちが汚していない綺麗な水を、という事であの人が聖域の端っこの岩壁に開いている小さなトンネルの出水口まで鍋を持ってトコトコ。
後を追って、たぬちゃんとテンの親子がトコトコ。
みんながあの人の顔を見上げながら歩いているのが良いね。
頭の良いワンコが、ご主人様を気にしながら散歩しているみたい。
相変わらずここで出来る行列は可愛い。




さっき一応、この川の酸性度を測ってみた。
この川を掘った時は、例の変な力で出した石を並べて、その隙間をモルタルで固めたので、最初は手が荒れるほど酸性の筈だったのが、直ぐ魚達が棲みついたインチキ川なので大丈夫だと思うけど、とはあの人の推測。

さっきも言ってたけど、染め物にはアルカリ性が良いんだって?
私もこの日が来るまでに調べたのさ。


あの人は浅葱屋敷の温泉から採取した湯の花を焼いてミョウバンを作るという、お前何者だよ?的な作り方でミョウバン粉を集めてたけど、私は単純に重曹。
…100均で買った。

因みにミョウバンは料理のアク抜きや煮崩れ防止に使えるんだって。
それを聞いたお母さんと玉ちゃんの目がキラン!って光ったけど、なんのなんの。
重曹だって、ふくらし粉や炭酸水やラーメンの麺作りに使えるぞ?
うどんや素麺を手作りする家なんだから、その内ラーメンだって作るでしょ?
材料は同じ小麦粉だし。

ちょっと調べてみたら、100均って使える物がオモチャ箱みたいになんでも売ってんね。



あと因みに、この聖域にはph測定器が置いてある。
この川を作った時にホームセンターで800円で買ったそうだ。
ホームセンターもなんでも売ってるね。
測る前に魚影が見えたから使う事なくて、今日初めて箱から出したんだってさ。
何してんだか。

「ふむ7.0phか。弱酸性少しだけアルカリ寄りかな。まぁ魚が住むには適した環境だよ。」

だ、そうだ。
私も青いリトマス試験紙を同じく100均で買ってきたので、浸けてみたけど赤には変わらない。
元の色のまま濡れただけ。
一応、部屋で蜜柑汁をテストでかけたら赤くなったので、100均とはいえ性能は正しいと確認済です。
私もわりかし暇らしい。

要はこの川、中性なのね。
タナゴとかミナミメダカみたいな小魚でも、池の中で普通に生息しているから問題なし!か。
いつのまにか卵から孵化したと見える、子供のテナガエビが遊んでるしなぁ。



…玉ちゃんとお母さんが、リトマス紙を持って不思議そうな顔してるけど、私達の時代は小学校で習うのさ。
…習うよね?
私とあの人、菊地さんとは6年くらい離れているけど、教育内容変わって無いよね?
鎌倉幕府成立は1185年だよね?
1192年じゃないよね?



そんな煮出し作業を5回ほどくり返すうちに、煮汁はすっかり透明ピンクになって来た。
この煮汁は、収穫用にそこらに置きっぱなしになっている青いバケツに全部混ぜ入れて、暗色に保管。
2日ほど暗色で熟成させる。
すると鮮やかな透けた朱色に変わるのだ。

という手順が必要らしいのですが。

「くにゃ」

はい、御狐様がひと鳴きしたら、タオルを被せただけのば、薄茶色だったのが朱色に変わりました。




「あの、しずさん?あのですね、荼枳尼天か御狐様が協力してくれるから瞬時に出来上がってますけど、自然作業では当然こんな事ありませんから。適切な時間はあとで紙がまとめて書いておきますね。」
「うふふ。わかってますよ婿殿。だって私が何にも苦労しなかったら、私だって全然つまらないじゃないですか。」


お母さんは何事にも本当に動じない人だ。
どんな苦労も、楽しそうに乗り越えちゃう。
いつも隣にぽんちゃん達がいるので、なんか励まされちゃうんだって。

玉ちゃんも割と動じないので、そこら辺は似た物親娘だね。


「佳奈さん。玉達が慌てないのは、いつもそばに殿がいるからですよ。佳奈さんだってそうじゃないですか?」
「あぁ、まぁ、そうっちゃそうかな。」
「です!」
「でもそれは面倒くさい事を、あの人に全部押し付けてるって事じゃないかな。」
「です!」
「否定しないんだ…。」

案外こいつはこいつで、そばに居る女を片っ端から駄目にするやばい奴かもしれない。
あのほら、男を甘やかし過ぎて駄目にする悪女みたいに。

「ん?なんか用かい?」
「なぁんにも。」
「ですよ。」
「うふふ。」


………


さて、染め液が出来たので染めましょう。

「って、貴方は何手拭いに豆乳をかけてるの?」
「タンパク質を植物繊維に染み込ませると、染め色が鮮やかになるんだよ。濃染と言って綿や麻は、この手順を踏むか踏まないかで出来上がりが全然変わってくる。綿花は昨日3人で植えておいたから、その内直ぐに実がなるでしょ。そうしたら糸から染色があるけど、今日はテストという事で手拭いからね。綿だし薄いから最初にはちょうどいいでしょう。」

そう言うと、あの人は空いた鍋に紀文の豆乳500ml 2箱をジャバジャバ入れる。

跳ねて飛んだ豆乳をたぬちゃんが美味しそうに舐めてるので、豆乳をもう2箱を浅葱の力で取り出して、何も言わずに私に差し出して来た。
はいはい。わかってますよ。
以心伝心って奴だね。
私にも少しずつ、身に付いて来ているんだからね。
気がつけよ!(無理だろうなぁ。玉ちゃんも大変だぁ。…あと私も)


「玉ちゃん。いつも使ってる浅いお皿、どこにあるのな。」
「朝洗って、茶店の茶箪笥の中です。取って来ますね。ぴゅぅぅ!」
「わふぅぅぅ」
状況を察したたぬちゃんが、玉ちゃんの後を追いかけて行った。

…なかなか染めに入らないなぁ。
いや、こんな短時間で染めに入れる私達が異常なんだけど。
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