転生に失敗しましたが私は元気です

ゆきつき

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8話 強さ

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 しばらく逃げたら、銃声がぱったりとなくなった。
 単純に考えるのならば、見失ったから撃たなくなったと考えるのが妥当だろう。でもそもそもの話で、一発目が全然違う場所、変な場所に撃ってきた事を考えると、見失った程度で撃たなくなるだろうか?いいやならない。ならば何かしら理由があるだろうが、そんなの考えたところで俺では答えは見つけれない。
 とにかく。一発目のあれがあった事を考えると、撃たなくなった方が逆に怖い。

 でもまあ。折角見失ってくれた(おそらく)んだ。このタイミングを活かそう。

「ねえきくさん?」
「なに?」
「君の能力は一体どこまで”使える”ので?」
「……、自分の身は守れるけど?」
「他人は?」
「せいぜい”逸らす”程度で、それも自分の体から逸らす訳だから、完全に守れる訳じゃない」
「でもまあ守れない訳じゃないんだな?じゃあちょっとだけ席を外すぞ」
「は?」

 幸い、ここは格安の殿堂ドン〇キホーテのすぐ近く。ちょっとしたお買い物ができる。

「なるはやで戻ってくるから!」
「ちょっと!……行っちゃった」
『行かせて大丈夫なのか?逃げたんじゃないのか?』
「そんなの私が聞きたいぐらいですよ」








 お買い物終了。
 にしても、こういうのって結構高いんだなー。俺の金じゃないから全然気にしないけど、やっぱり高い買い物って緊張するわー。……、あいや、こんなお高い買い物は今日が初だけど。

「……。なにそれ、遊んでるの?」
「いやいやいや。ちゃんとした理由があるのよ」
「じゃあ、ちゃんと説明してくれる?どうして、”ネズミの着ぐるみ”なんか着てるわけ?」
『おそろいだ』
「いやね?向こうはどういう訳かちゃんとネズミさんの事を狙ってきてるっぽいし。それなら俺もネズミの着ぐるみを着れば、向こうは多少なりとも混乱するはずじゃん?つまりそう、囮大作戦!!」
「あっそ」

 なーんか、冷たくないですか?向こうから聞いてきたのに、『あっそ』は冷たいでしょ。まあ別に良いんだけど。そんな大それた反応は期待してなかったし、この場面でされたら困るけど。

「それで、俺がいない間になにかあった?」
「なにも」
「なら大丈夫だな。出発しましょ」










 目的地までもう少しなんだけど。なーんか嫌な感じがする。こう、喉の奥に魚の骨が刺さった感じの、無視する事はできないけど、意識するほどでもない感じの、なーんか嫌な感じがする。
 そして、ちゃんとその嫌な予感は的中してしまった。

「マジか」
『これは、どうする事もできないんじゃないか?』
「うふぇ」

 目的地に行くためには、どうしても多少広めの場所に出る必要があった。
 そして、その広い場所に、沢山のお客がいた。
 だが幸い、お客がこちらに気づく前に隠れる事ができたので、作戦会議ぐらいはできる。

「きくさんの力でどこまで守れる?」
「さっき言った通り。確実に守り切れる保証はない」
『逃げるとして、どこに逃げるんだ?目的地はあっちだが、完璧に守られているな』
「強行突破、も無理だよな。あの数だもん」

 いやまあ、うん。できなくはない。強行突破できるっちゃできる。
 でも、依頼人の無事を保障する事はできない。それこそ、俺一人で、好きなように動ける場合なら、強行突破はできると思うけど。

「じゃあ逆に、きくさんの力でどこまで攻められる?」
「少なくとも、視認できる相手じゃないと攻撃できないし、攻撃に専念すると鉄砲から自分の身を守る事も怪しくなるし。敵の生死を問わないやり方なら、話は変わるけど」

 うーむ。そりゃね。向こうが殺す気でやってくるのなら、わざわざ相手の命まで気遣ってやる必要はないんだけど。
 でも、やっぱり、まだ学生のきく様には、殺しなんてやってほしくないよな。こう、健全なまま過ごして欲しいじゃん。俺が気遣うのはお客じゃなくてきくさんだから。できるのなら、そんな事はやってほしくない。

「うーん。俺とネズミさんって、外見は一緒のはずだよね?ならスーツケースを持って移動すれば、囮として機能するか?」
『それはダメだ。さっきも言ったが、このケースはとても大切なものだ。そんな危ない場所に持っていく事は許可できないな』
「うーん」

 まあ、そりゃそうだよな。依頼人の荷物を持って囮するって、それは半分囮で囮じゃなくなってるもんなぁ。鴨が葱を背負って来る、とまでは言わないけど。変態がネギを持ってきた、ぐらいにはなってそうだよな。

「この辺りに都合よくスーツケースなんか落ちてないかなぁ。あ、落ちてた」

 見た目はそこそこ違ってるけども。それでもネズミの着ぐるみを着てスーツケースを持ってる。要素はしっかりと押さえてるはずだ。

「じゃあ俺が陽動するんで、きくさんはしっかりとネズミさんを目的地に連れてってね」
「……、ぱっと見だけでも武装した兵が10はいるけど」

 まあ隠れたお客もいるって考えた方が良いよね、常識的に考えて。

「ま、なんとかなるでしょ。とにかく、再会の時は任務成功したって知らせを聞きたいから、頼むよ」
「わかった」

 自分で言う事でも無いが、逃げ足はそこそこの自信がある。なんたって、子供の頃からけいs、青の服を着た大人複数人と鬼ごっこをして、こうして逃げきっているんだ。逃げ足ならば自身がある。
 ただまあ、それで陽動になるのかは、とても疑わしいのだが。やるしかないのだから、やる。



 お客なんて知らぬ風を装って、広めの場所に出ていく。明らかに警戒して出て行ったら、相手が本気で殺す気になるけど、こっちが油断していると思わせる事ができれば、多少なりとも向こうは油断したりしてくれるはず。
 なんなら、こっちがちゃんと警戒して出て行ってしまうと、なにか作戦があると疑われてしまう。だからこそ、ここにお客がいる事を俺が知っていると感づかれてはいけない。

『あいつだ、撃て、撃て!』

 おっと。油断してくれるかもと思ってたけど、そんなのは一切なし。最初からフルスロットルだった。

 俺は天才でもないしキチガイでもないから、銃弾を見て避けるなんて事できないし、勿論予測線を予測するなんて馬鹿げた事もできるはずない。
 だからこそ。とにかく走り回って、逃げ続ける必要がある。相手に狙って撃たれた時点で俺は死んでしまう。だからこそ、動き続けて狙われないようにするしかない。

 だから。
 逃げた。
 逃げた。
 逃げ続けた。

 着ぐるみが結構ぼろくなっちゃったけど、なんだかんだで、俺は無傷だった。まあそもそも、逃げるってのが、走り続けるって言うよりも、死角になるような場所へと向かって走って、そこで一呼吸程度の休憩をして、もう一度死角になる場所へと走って行っての繰り返しだ。
 つまるところ、お客はちょくちょく俺を見逃してたせいで、そうそう撃ってくる事ができなかった。
 あとはシンプルに、この着ぐるみのおかげで助かった事もしばしばある。着ぐるみはLGBTQないしどんな人でも着れるような設計だ。俺のようなやせ型純日本人みたいな体型だと、結構隙間ができる。そしてその隙間を貫く事が、3度もあった。もうとにかく心臓に悪かった。

 そして相手が諦めて帰っていくと思ってた。というか、実際そこまで来てた。
 にも関わらず。お客さんの一人が落とした通信機から、最悪の文言を聞き取ってしまった。

『そいつは囮で、本命はこっちにいる』

 なして囮だってバレたのか、本命のいる場所をどうやって突き止めたのか、色々気になるところはあるのだが、一番ヤバかったのは、メッチャハイな野郎の声で、当たった当たらなかったが通信機越しに聞こえてきた事だ。

「くそっ。きくさんはちゃんと守れてるのか?」

 いやそれより、

「急げ俺。間に合いませんでしたなんて冗談にもならないぞ」
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