今日もまた孤高のアルファを、こいねがう

きど

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第五話

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「姫君を愛しているから」

言われた内容が一瞬理解できなかった。間抜けな声が出て、シャロルを呆然と見る。

「えっと…」

なにを言えばいいのかわからず、言葉に詰まる。そんな俺をシャロルが鼻で笑う。

「お前が知りたいと言ったから答えたんだ。何をそんなに戸惑っている?」

「それは…その」

シャロルの言い分は最もで、ただの使用人なら婚約の理由を聞いても戸惑ったりはしない。こんなに動揺してるのは、別の理由。

ー俺がまだシャロルを好きだから。

でもこの気持ちは口に出してはいけない。脳裏に俺の首筋を噛んだ奴の顔がちらつき
『お前はシャロルの幸せを願わないの?』とあの声がリフレインする。シャロルを思い出す度に、この言葉が呪いの様に耳の奥にこびりついて離れない。

目の前にいるこの人には、誰よりも幸せになって欲しい。

思い出した奴の声で全身に悪寒が走り、手は震える。それを誤魔化すように服の裾を握りしめ、精一杯の微笑みをシャロルに向ける。

「思いもよらない理由だったので、驚いてしまいました。…もちろん殿下が愛する方とご結婚されるのは大変喜ばしいです。でもご寵愛されているカリーノ様はどうされるのですか?」

「王に妃以外の寵妃がいるのは普通だろう。なんなら、お前も私の寵妃になるか?」

そう言い、シャロルは立ち上がり俺の顎に手を添え顔を上に向かせる。それによって、俺より頭一つ分高いシャロルと目が合う。その視線に捉えられ、鼓動はうるさいくらいに高鳴る。

「お、お戯れはよしてください」

シャロルの手を払いのけようと体をよじるも、強い力で体を引き寄せられシャロルに抱きしめられる。シャロルの温もりを感じ、高鳴る気持ちとは裏腹に首筋の噛み跡がジンジンと痛み始める。

「私は本気だ。お前は、黙って頷けばいい」

耳元で囁かれ、先ほどまで高鳴っていた心がが凍りついた。
黙って頷けばいいって、俺の意思なんて関係ないと言っているようなもんじゃないか。

シャロルの抱きしめる腕の力が強くなると、首筋の噛み跡の痛みが強くなる。その痛みは、つがい以外に触れさせるなと警告しているようだった。

「っ!離れろっ」

シャロルの腕から抜け出そうとなりふり構わず抵抗する。シャロルは俺の抵抗なんてものともせず、俺の頭を撫でる。

「つれないなぁ。昔はあんなに愛してると言ってくれたのに。私は今でもお前の綺麗な赤毛も」

髪をすかれてから、視線を逸らせないように固定され目元を指でなぞられる

「私を愛おしそうに見つめていた、この赤い瞳も」

シャロルの指が顔の輪郭をなぞり下に降りて、唇に指が触れる

「何度も愛を囁いてくれたこの唇も…お前の全てが愛おしい」

「やめっ…ふっんっ」

真っ直ぐ見つめられ愛を告げられ、蓋をし隠していた気持ちが抑えられなくなる気がした。シャロルから逃れようと身をよじろうとした俺の唇にシャロルは乱暴なキスを落とす。

「んっ…ふあっ」

舌で口内を舐られ甘い声が漏れる。抱きしめるシャロルの手が俺の体のラインを撫でると、全身に熱が点る。でも体が熱くなればなる程、首筋の痛みは強くなる。しかも船酔いの時の様な胃から何か迫り上がってきそうな不快感に包まれる。その二つの相反する感覚が体の中で入り混じり、自分の体なのに訳が分からなくなる。

「やっあっ…んっんっ」

久々のシャロルのキスを喜ぶ心に反比例するように体の不快感は強くなっていく。シャロルの舌を押し戻そうとしても、逆に舌先を強く吸われ舌裏をなぞられ快感に体が痺れる。
それでも辞めてもらいたくて、シャロルの胸を拳で叩く。

「…リディ」

俺の抵抗の効果があったのかシャロルが唇を離す。唇と唇が離れる名残惜しさを表すように銀の糸が伸びてプツリと切れる。その光景に羞恥を覚え頬がカッと熱くなる俺の名前をシャロルが呼ぶ。

「……」

「リディ、お前は私のものだ」

そう言ってシャロルは俺の喉元に噛み付く。噛まれた痛みがじんわりと広がるのと同時に言いようのない体調不良は一際強くなり、膝から力が抜ける。
俺の気持ちなんて一切聞く気がない態度に傷つきながらも、執着されていることを喜んでしまうなんて、俺はなんて浅ましいんだ。
力の抜けた俺をシャロルはキツく抱きしめ、手が背中を撫でそのまま上の首裏の噛み跡に指を這わす。そして、そこに爪を立て思い切り引っ掻かれ、ピリッとした痛みが走る。

「痛っ。やめてっ」

「うるさい。他のやつに噛まられた跡なんて掻きむしって無くしてしまいたい」

シャロルの身勝手な行動に苛立ちは感じなかった。だって俺も同じことを望んでいるから。
無かったことにできるなら、そうして欲しい。そしたら、何の憂いもなくシャロルに気持ちを告げられるのに。

俺は、今でもシャロルを、シャロルだけを愛してるって。

掻きむしられたせいか血の匂いがふわりと漂う。首筋に埋まるシャロルの顔に手を添え、頬を撫でる。するとシャロルは俺の顔を覗き込むように顔を上げる。

体調はどんどん悪化していて頭はひどく痛み、耳鳴りがうるさく鳴り響く。キスをするためにシャロルの顔が近づいてくる。

体調が悪いから抵抗できない。

体調不良を理由に自分に言い訳をして目を閉じて、シャロルのキスを受け入れようとした時

「何をされているんですか?」

静かな声が俺たちを咎めた。
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