今日もまた孤高のアルファを、こいねがう

きど

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第二十五話 ※無理矢理要素あり

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「あ"ー!甘ったるくて胸焼けしそう。お前のフェロモン臭いんだよ!シャロルは、こんなののどこがいいんだろう?」

ヒュイは心底嫌そうな顔をして腕で鼻と口を覆う。

「そんなに…いやなら、離せよ!」

「はっ⁈今からお前を折檻するんだけど?」

俺が反論するとヒュイは鼻で笑った。そして、俺の顔を頬から顎にかけて鷲掴みにする。強く握られているせいで内頬に歯があたって痛い。

「何でお前に折檻されなきゃいけないんだよ!」

「え?身に覚えがないの?どんだけ図々しいんだよ!」

「いっ」

ヒュイは目をひん剥き、俺の顔面を握る手にさらに力を入れる。そのせいで内頬に歯がめり込んで、口に血の味が広がる。

「ねぇ、そこのナイフ取って!」

ヒュイは俺から視線を離し後を向いて誰かに命令する。顔が掴まれているので、視線だけ向けるとヒュイの肩越しに人影が見えた。

「聞こえなかったのか?早くナイフを持ってこいよ!」

「は、はいっ…」

なかなか思い通りに動かない相手にイラついたのか、ヒュイが怒号を飛ばす。怒鳴れた相手は肩をビクリと振るわせ、か細い声で返事をするのが精一杯の様だ。ビクビクしながら、その人は俺達の横を通り抜けテーブルの上の果物が入ったカゴの中からナイフを取り出す。

「これを…」

真っ青な顔でヒュイにナイフを差し出した乳母は、そのまま俺を気の毒そうに見る。

「はい。これでも共犯だから」

「分かってます…」

ヒュイはナイフを受け取ると満足そうな顔をし、乳母に言い聞かせるように言う。

-聞き間違いじゃなければ、乳母のことを母さんと言ったよな?ヒュイの母親は侯爵夫人じゃないのか?
それに乳母の言動は息子と接しているものではないよな…

「考え事?随分と余裕だね」

二人の関係性を探っていた俺をヒュイがまた見下ろし嘲笑う。

「でも、その余裕はいつまで持つかな?」

ヒュイが手を上げると握っているナイフに部屋の光が反射する。危機的状況に陥っていることを再確認したがどうすることも出来ない。ヒュイがナイフを俺の首に振り下ろしたのと同じタイミングで乳母の小さな悲鳴が聞こえた。

キツく目を閉じ最悪の事態を覚悟したが、痛みはやってくることはなく、代わりにザクッと何かが床に刺さる音がした。確認するように目を薄く開けると、ヒュイは面白そうにニヤニヤと笑っていた。

「ねぇ、殺されると思った?体固くして、刺されるの覚悟したんでしょ?」

ヒュイは俺を煽るように捲し立てる。まだ恐怖で硬直している俺は、それに反論する言葉が出て来なかった。

「お前のことは殺したいくらい嫌いだけど、まだ殺さないよ。今、お前が死んだら、シャロルはお前のことを忘れないだろうから。お前がシャロルの中に居座り続けるなんて、許さない」

ヒュイが話す言葉は耳から頭に入ってくるが理解はできない。頭が、全身が心臓そのものになったかのようにバクバクと脈打つ。発情期だけでなく、危機的状況に生存本能が過剰に反応しているのか、体はどんどん熱くなってくる。
ヒュイは俺の様子を気にすることなく、床に刺さったナイフから手を離して、俺の首元に触れる。そして首元の何かを引っ張ると頸筋に擦れ痛みが走った。

「だからね、お前には死ぬより辛い思いをさせてやることにしたんだ」

そう言うと俺の目の前に手をかざす。その手には俺のネックガードだったものが握られていた。革製のネックガードをナイフで切り裂き、首元から引き抜いたのだろう。

「もう二度とシャロルと触れ合うことができない体にしてあげる」

「やっ…いっ」

ヒュイの目的を察しにげようともがく俺にヒュイが平手打ちをする。パチンと乾いた音が耳奥に響き頬に痛みがじんわりと広がる。

「面倒だから抵抗しないでくれないかな?お互いにささっと終わらせたいでしょ?」

「やめろっ…やだっ」
 
馬乗りになっているヒュイの脚を拳で叩くが効いている様子はない。

-いやだ!俺はシャロルと…シャロルの番になりたいんだ

「はあ、人を不愉快にさせるのが上手いね」

ため息をついヒュイは吐き捨てると、床に刺さったナイフを手にとる。そして俺の正装の襟首に刃をかけ、一思いに切り裂いた。布地を裂く時に刃先をわざと肌に触れさせていたので、鋭い痛みが体の前面に走る。痛みに呻き声が上り、肌が切られた部分は熱を持つ。そこは心臓の拍動に合わせ、じんじんと痛んだ。

「いっ…んぐっ…」

ヒュイは正装の布片を俺の口に突っ込むと、スラックスのボタンに手をかける。抵抗しようと体をよじろうとしたら、ナイフが腰のあたりを掠め、痛みで動きが止まる。
ヒュイは殺す気はないと言っていたが、俺を痛ぶることに、迷いはなく躊躇なく刃を振り下ろしてくる。

「深くは切ってないけど、あんまり暴れると血が止まらなくなるかもね」 

「ん"ー!ん"」

ヒュイが体を浮かせた隙に、逃げようとうつ伏せになる。しかし、ヒュイは手早く俺のスラックスと下着を下げる。曝け出された尻の割れ目に何か熱いものがあてがわれ、そのまま一気に貫かれた。

「んっ…んん」

「はぁっ…オメガの体は便利だね…面倒な準備をしなくても挿入はいるんだから」

慣らしてもいないのに、そこはヒュイの性を難なく受け入れる。そしてヒュイは遠慮なく俺の中を穿つ。こいつが腰を振る度に繋がった部分からは湿った音が響いて耳障りで仕方ない。望まない行為なのに、オメガの体は従順に反応してしまう。
嫌だ嫌だと頭を振り快感を逃そうとしても、快楽の波は去ってくれる気配はない。
心は気持ち悪いと拒否しても刺激を受ける度に体の疼きは強くなり、もっともっとと強請るように締め付ける。

「はぁっ…シャロルっ…シャロルぅ」

「んんっ…んっ」

ヒュイは恍惚とした声音でシャロルの名前を呼びながらピストンを早める。ヒュイは俺を抱いているんじゃない。俺の体を通して間接的にシャロルに触れているんだ。それなのに俺の体は浅ましくアルファの子種を欲しがりヒュイのものを深く飲み込もうと蠢く。

「さすがオメガ…はっ、誰のものでも喜んで咥えて、勃たせてる」

「ん"ーん"ん"」

ヒュイに俺のものをキツく握られ、声にならない嗚咽が漏れる。もう体のどこが痛いのか分からなくなってきた。

「んっ、シャロルに操すら立てられないんだから、シャロルの側にいる資格ないって分かるよな?」

ヒュイの吐息を耳元で感じ、体はそれすら快楽に変換し昂っていく。熱で浮かされ、今にも思考が溶けそうな頭に微かに残った理性が、危険を察知した。でも、その時には全てが遅かった。

腹の奥に熱を吐き出され、頸筋に痛みが走ったからだ。

-シャロル、シャロル、シャロル。

脳が感情を処理するよりも早く涙が溢れ、閉じた瞼の裏にはシャロルの顔が浮ぶ。

『私の番になって欲しい』

聞こえるはずのないシャロルの声が耳奥でこだまする。

-俺も…番になりたい。シャロルじゃなきゃ、嫌なんだ…

「これで、もうシャロルには触ってもらえないね。

「……」

ヒュイが嬉しそうに俺の耳元で囁いた内容を理解した時、絶望の淵に叩き落とされた。
人は絶望に打ちひしがれたとき、声すら出ないのだと知る。ただ涙が溢れ、頬を濡らし続けた。



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