落ちるよ、何処までも

亜黒

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とりあえず、頑張った誰かさん。

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「あー、疲れた…」

なんの変哲もない仕事の帰り道。今日は朝から色々大変だった。どれくらいっていったら、ここまで五体満足無事にいる自分を褒めたくなるくらいには、なかなか大変だった。

ええ、大変でしたとも。

いわく、偶々早起きして顔を洗おうと布団から出たら、突如僕の寝てたところ目掛けてそこだけ天井が抜ける。

……早起きしてなかったら大怪我してたよ、確実に。確かにちょっとボロがきてるアパートだったけど、天井抜けるとかそりゃないよ本当。穴から見えた上の人、唖然としてたもん。

いわく、会社に事情を説明後、片付け等諸々が終わってやっと支度して、いざ出掛けようって時にふと忘れ物を思い出してくるりと玄関に戻れば、上から鉢植えが落ちてくる。

偶々、子どもが触って落ちてきたらしい。ベタだよね、本当。………本当危ないからやめて!!

いわく、道を歩いていて、小銭を見つけてラッキーってしゃがんだらすぐ頭上をバットが飛んでいった。

近くで草野球してた選手が指を滑らしたらしい。どれだけの勢いでバット振ったんだ。近くの木にめり込んでるんだけど。その選手、めちゃくちゃ焦った顔で謝ってきた。

いわく、会社にて同僚に遅れたことを詫びながら廊下を歩いてたら、階段前でふと呼ばれて振り向いた先で、転けた社員が持ってた結構重いし大きな箱がすごい勢いで飛んできたり。

慌てて避けたから大丈夫だったけど、当たってたら多分階段まっ逆さまだったよ。恐ろしい。謝る社員と一緒に皆で仲良く片付けたけど。

いわく、いわく、いわく………。

その後も続いた、ある意味の怪事件。

………後から思えば、向こうも相当頑張ったんだろうなぁ。



そして、現在。



「………もう、勘弁してよ」

「おい、金を出せ!」

いきなり飛び出してきた、ナイフを持った大層目付きの悪い大柄な男に強盗に遭ってます。

「おい、この野郎!聞いてんのか、テメー!?金出せやコルァ!?」

「ひっ」

思わず天を仰いだら、相手は逆上したのか肩を怒らせて何やら喚きだした。人相の悪さも相まって、すっげぇ迫力。普通に怖い。

でも、あんまりにも大声だったから、近所の人が通報したのかすぐに警察が飛んできた。近くで巡回してたらしい。ご苦労様です!

警官と鬼ごっこしている強盗を見送り、もう一人残った警官に事情説明の為交番へ。

本当、今日はなんなの?恐怖体験だが全部間一髪で助けられてるという、ある意味、神がかってるやり取り。

神様、僕を殺したいんですか?救いたいんですか?どっち!?

警官に今日のことを話したら、「明日お寺に行くことをお奨めします。」と真顔で言われた。言われなくても行くよ!厄落ししてくるよ!

でも、そんな僕があんまりにも不憫だったのか親切な警官さんは家まで送ってくれました。ありがとう!

おかげで何にも巻き込まれなかった。帰る道の途中で、見たことないくらいに怖い野犬が唸りながらいたとしても!フードとマスクした、明らかに不審者が目を血走りながらうろうろしてても!全部スルー出来ましたよ、送ってもらって良かった!!

家の前で、警官さんが真剣な顔で「これ、俺が母親から貰ったものだけど厄除けのお守りです。どうぞ」って御守りくれた。うん、いい人だな。あんた。でも、最後の「明日までに死なないでくださいね」は要らないと思う。

警官さんの見送りを受けつつ、いい加減疲れ切っていた僕は、何の注意もせずに我が家に向けてその一歩を踏み出した。

そう、踏み出してしまったのだ。

次の瞬間。誰かの歓喜の声と怒りの声を聞いたと思ったら、僕は落ちた。

これから続く、途方もない旅に向けて――。


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