幸運の招き猫は逆に幸運を得る

ねこいかいち

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 霞んでいた意識が戻り、リューイは目を開ける。

(ここは……?)

 見渡せば大きなシャンデリアに床は真紅のサロペット地のカーペット、そして、目の前には大量の檻が置かれていた。
 気味の悪い光景に、気分が悪くなる。手は頑丈な手錠で拘束されている。外せない所をみるに、対獣人用のものの様だった。どうしてこうなったんだ?

「っ!」
 そうだ、スラムで見知らぬ男に薬を嗅がされ、意識を失ったんだ。スレイはどうなった?
 部屋一面に置かれた檻を眺め、スレイを捜す。どうしてか、俺だけは檻に入れられていないのが不思議でならない。
 檻の中には獣人達が入れられ、皆不安そうな表情を浮かべていた。

 歩き眺めて、漸くスレイを見つけることが出来た。一番奥の檻に入れられた彼は、倒れたまま動かない。
「スレイ!」
 檻に掛け寄り、声を掛ける。呼吸はしているようだ。
 となると、自分と同じように薬を使われたのかもしれない。

「スレイ、おい、しっかりしろ!」
 何度も声を掛けるが、起きる気配がなかった。


「おやおや。元気だね」

 突然の声に、リューイは背後を振り返る。
 スレイに気を取られていて、気付かなかった。

 背後に居たのは、あの時の男だった。

「……此処はどこだよ」
 キッと睨みつけるリューイに。「私の屋敷だよ」と答える。
「改めて。私はロクセス。君の飼い主さ」
「ふざけんな!」
 怒りに任せ叫ぶが、全く話を聞く気がないようだ。それ所か、リューイの爪先から頭の天辺までねっとりとした視線で見てくる。

 気持ち悪さに、吐き気がした。

「白い狼の獣人がいると聞いて行ってみたら、まさか本命に巡り合えるとはね」
「……本命?」
 何のことだ?
 そう思ったリューイに素早く近付き、勢いよく顎を掴まれ上を向かさせられる。

「っ!」
「五年も待ったよ……三毛猫の雄なんて貴重品、滅多に見つからないからね」
 五年。その言葉に、リューイの頭に血が上っていく。

「おい……あの賊を雇ってたの、お前か?」
 握りしめた拳が震える。怒りに声も震えていた。
「そうだよ。三毛猫の雄。それも先祖返りでだ。そんなレア中のレア、逃す方が馬鹿だ。君の両親は大馬鹿者さ。大人しく君を渡していれば、大金も手に入り、命だって失わずに済んだというのに……」
 楽しそうに話すロクセスに、リューイの怒りが振り切れた。
「てめえ!!」
 勢いよく、拳を振り上げる。そんなリューイの動きを読んでいたのか、ロクセスは足払いしリューイを転倒させた。

「くそっ」
 咄嗟に起き上がろうとするが、鼻先に鞭が当たる。
「言うことを聞き給え。なに、大人しく私のコレクションになれば痛い思いはしないさ」
「……要はお前の愛玩動物になれってか?」
 そう訊ねると、ロクセスは嬉しそうに頷いた。

「そう! 賢い子は好きだよ」
 にこやかに告げるロクセスに、リューイは唾を吐き捨てた。
「ケッ、誰がお前なんかのコレクションになるかよ。馬鹿か?」
 その言葉の後、背中に激しい痛みが走った。ロクセスの持つ一本鞭が振り上げられ、再び痛みが襲ってくる。


 何度も背中を叩かれ、痛みに顔を歪ませていると、彼は興奮したように舌なめずりをした。
「君は調教しがいがあるね……私に従順になるよう、たっぷりと可愛がってあげよう」
 痛みに脂汗が滲む中、少しでも奴から離れようと床を這う。

 足音すぐ側まで来た時、嫌だ、そう強く思った。


 瞬間、窓が勢いよく割られ、誰かが部屋に飛び込んできた。
「だ、誰だ!?」
 驚くロクセスを余所に、リューイは彼を見つめ、囁いた。

「ルヴァイン……」
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