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11 アーデルの告白
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アーデルへと真っすぐ向かい合うティファニア。アーデルは嬉しさを滲ませながら、「ティファニア」と声を掛ける。
「アーデル、話って何?」
冷たい態度に、アーデルは一瞬にして表情を変えた。深呼吸をし、もう一度、ティファニアに向き直る。
「……婚約破棄のこと、真実を話したくて」
「真実?」
訝し気にアーデルを見つめるティファニアに、アーデルは頷いた。そして、事の経緯を話し出した。
「あの日、君の両親とフィーリアが屋敷に来て、君との婚約の破棄と改めてフィーリアとの婚約を切りだされたんだ。勿論、最初は断った。だけど、フィーリアが二人だけで会話がしたいと言い、二人だけになった時……」
そこで、一旦言葉を止める。唇を噛み締めるアーデルは何処か苦しそうで、ティファニアは「アーデル?」と首を傾げた。ティファニアの声にハッとし、アーデルは言葉を続ける。
「二人きりになった後、彼女がお茶のおかわりを注いでくれたんだ。そして、僕はそれを飲んだ。そうしたら、急に体が熱くなって、意識も朦朧としだして……気付いた時には、彼女と体の関係を無理矢理築かされていたんだ」
下唇を強く噛み締め、アーデルは告白した。まさか、フィーリアがそんなことをしていたなんて……。背後で聞いていた祖父母も、目を見開く。
「関係を持ってしまった以上、君に申し訳が立たないと思って、彼女との婚約に応じたんだ。でも、今でも君が好きなんだ。フィーリアとの婚約は解消する。もし、君がまだ僕を好いていてくれているなら、もう一度やり直したいんだ」
アーデルの言葉は理解出来た。フィーリアに無理やり関係を持たされたから、責任感とプライドの強い彼は妹を受け入れざるを得なかったのだろう。だけど……。
「……なら」
「え?」
「なら、どうして婚約を破棄する前にフィーリアのことを相談してくれなかったの? どうして、私に話してくれなかったの? 話してくれていたら、ここまで悲しむことはなかったのに……っ」
涙を浮かべながら、ティファニアは吐き出す。
「ティファニア、僕は……」
アーデルが言葉をかけようとした瞬間、リビングのドアが開いた。
「ティファニア!」
肩で息をしながら、イグニスが部屋に入ってくる。その後ろには、アニマがいた。どうやら祖母の命でイグニスを呼びに行っていたらしい。
「イグニス……」
目に涙を浮かべながら、ティファニアはイグニスの名を呼ぶ。するとイグニスはアーデルの横を過ぎ、ティファニアを抱き締めた。
「泣かないでくれ。君が泣くのは辛いよ」
「うん……ありがとう」
抱き締めながら、髪を梳かれる。その手の温もりに、傷付いた心が少しずつ修復されていく気がした。
目の前の二人の光景を見て、アーデルは目を見開く。彼の顔は青ざめていた。
「……ティファニア、彼は?」
なんとか声を振り絞り、アーデルは言葉をかける。ティファニアは目に溜まった涙を手で拭いながら、「恋人よ」と答えた。それに対し、アーデルは「そうか……」とだけ言葉を発した。
「君は、彼を選んだんだね」
「ええ」
「なら、僕の入る余地はないね」
目を閉じ、静かに深呼吸するアーデル。目を開き、言葉をかけようとした瞬間、再びリビングのドアが勢いよく開けられた。
現れたのは、帰った筈のフィーリアだった。
「アーデル、話って何?」
冷たい態度に、アーデルは一瞬にして表情を変えた。深呼吸をし、もう一度、ティファニアに向き直る。
「……婚約破棄のこと、真実を話したくて」
「真実?」
訝し気にアーデルを見つめるティファニアに、アーデルは頷いた。そして、事の経緯を話し出した。
「あの日、君の両親とフィーリアが屋敷に来て、君との婚約の破棄と改めてフィーリアとの婚約を切りだされたんだ。勿論、最初は断った。だけど、フィーリアが二人だけで会話がしたいと言い、二人だけになった時……」
そこで、一旦言葉を止める。唇を噛み締めるアーデルは何処か苦しそうで、ティファニアは「アーデル?」と首を傾げた。ティファニアの声にハッとし、アーデルは言葉を続ける。
「二人きりになった後、彼女がお茶のおかわりを注いでくれたんだ。そして、僕はそれを飲んだ。そうしたら、急に体が熱くなって、意識も朦朧としだして……気付いた時には、彼女と体の関係を無理矢理築かされていたんだ」
下唇を強く噛み締め、アーデルは告白した。まさか、フィーリアがそんなことをしていたなんて……。背後で聞いていた祖父母も、目を見開く。
「関係を持ってしまった以上、君に申し訳が立たないと思って、彼女との婚約に応じたんだ。でも、今でも君が好きなんだ。フィーリアとの婚約は解消する。もし、君がまだ僕を好いていてくれているなら、もう一度やり直したいんだ」
アーデルの言葉は理解出来た。フィーリアに無理やり関係を持たされたから、責任感とプライドの強い彼は妹を受け入れざるを得なかったのだろう。だけど……。
「……なら」
「え?」
「なら、どうして婚約を破棄する前にフィーリアのことを相談してくれなかったの? どうして、私に話してくれなかったの? 話してくれていたら、ここまで悲しむことはなかったのに……っ」
涙を浮かべながら、ティファニアは吐き出す。
「ティファニア、僕は……」
アーデルが言葉をかけようとした瞬間、リビングのドアが開いた。
「ティファニア!」
肩で息をしながら、イグニスが部屋に入ってくる。その後ろには、アニマがいた。どうやら祖母の命でイグニスを呼びに行っていたらしい。
「イグニス……」
目に涙を浮かべながら、ティファニアはイグニスの名を呼ぶ。するとイグニスはアーデルの横を過ぎ、ティファニアを抱き締めた。
「泣かないでくれ。君が泣くのは辛いよ」
「うん……ありがとう」
抱き締めながら、髪を梳かれる。その手の温もりに、傷付いた心が少しずつ修復されていく気がした。
目の前の二人の光景を見て、アーデルは目を見開く。彼の顔は青ざめていた。
「……ティファニア、彼は?」
なんとか声を振り絞り、アーデルは言葉をかける。ティファニアは目に溜まった涙を手で拭いながら、「恋人よ」と答えた。それに対し、アーデルは「そうか……」とだけ言葉を発した。
「君は、彼を選んだんだね」
「ええ」
「なら、僕の入る余地はないね」
目を閉じ、静かに深呼吸するアーデル。目を開き、言葉をかけようとした瞬間、再びリビングのドアが勢いよく開けられた。
現れたのは、帰った筈のフィーリアだった。
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