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5 二人目ゲット!

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 そこまで、信用されていないのか……。

 目に涙の膜が張られ、溢れないように堪える。それを見て、一緒にいたアンはどう対応すべきか困った表情を浮かべ、目を泳がせた。
 そんな彼女に「大丈夫です。ありがとう」と声を掛けると、ユナは曲がり角を進みロイド達の方に歩み寄る。

「どうした」

 先程の会話など聞かれていないだろうと言わんばかりのロイドに、ユナは「お見送りに来ました」と言葉をかけた。
「そうか。今日、君の服を仕立てにデザイナーが来る。部屋にいるように」
「わかりました。行ってらっしゃいませ」
 軽くお辞儀を済ませ、仕事に向かうロイドをメイド長と共に見送る。



 アンに案内して貰い部屋に戻ると、暫くしてトルソーに着せられた色とりどりの服やドレス、カタログに布地を持ってデザイナーが訪れた。

「初めまして。デイジーと言います。奥様、今後ともよろしくお願いいたしますわ」
 高いヒールを履いき髪をアップに纏めた彼女の自己紹介を受け、早速、採寸が始まった。

「奥様、細いですね」
「そうでしょうか……?」
 そんな他愛もない会話をしつつ、採寸を終える。久方ぶりにまともな会話が出来たのも嬉しく思えた。

「オーダーメイドのドレスですが、要望はございますか?」
 その言葉に、ユナは「申し訳ないのですが……」と言葉を続ける。

「既存の服を、私のサイズに合うサイズに直してくださいませんか?」
「ええ!?」
 その言葉に、デイジーは驚く。
 それもそうだ。普通、オーダーメイドでドレスを作らずとも、トルソーに着せられたドレスを直してほしいなんて言わないだろう。

「無理でしょうか……?」
「いえ、それは可能ですが……それで本当によろしいのですか?」
「はい、お願いします」
 デイジーは渋々といった表情を浮かべたが、「クライアント様がそう仰るのでしたら……」と了承してくれた。
「ありがとうございます」
 そんな彼女に、ユナは感謝を述べた。




 メイド長がデイジーを見送りに行っている間、他のメイド達は仕事に戻って行った。一人、アンを除いて。

「あの……」
 アンが、ユナに話しかけてきた。ユナは顔を上げ、アンと視線を合わせる。彼女の表情は険しかった。

「あなたは、本当に悪女なんですか?」

 その言葉に、どう答えていいか悩む。
 仮に言って、信じて貰えるだろうか……。言わなければ変わらないのは事実だが、それでも、真実を言っても信じて貰えなかったら……それが何よりも怖い。

「……信じて貰えないかもしれないけど、これだけは言わせて。私は何もしてないわ。信じて」

 アンの顔を真っすぐ見つめながら、ユナは言葉を発した。
 信じて欲しい。
 その思いで、アンを見つめた。

 アンは険しかった表情を崩し、小さく微笑み「信じます」と口にした。
 その言葉に、ユナは目を見開いた。するとアンは、溜息を吐きつつ言葉を続ける。
「だって、噂じゃ奥様、傲慢で我侭で自分勝手で、家のお金を使い込むわ、癇癪で妹や使用人に無闇やたらに手をあげるわ……そんな人だって聞かされてましたけど、全然じゃないですか」

 そんな噂だったのかと思うのと同時に、アンの言葉が飲み込めず目を瞬かせる。そんなユナに、更に言葉をかけた。
「それに、今朝の旦那様とメイド長の会話を聞いた時、泣きそうな顔してましたし……噂通りの人なら、怒りに任せて私に手をあげてもおかしくなかったですし。さっきの服もそうですが、いくら旦那様の話を聞いたからって、傲慢な人なら気にせず買いますから」
 にっと笑みを向けるアンに、ユナは自然と涙が頬を伝って行った。

 信じて貰えた。
 それが何より、嬉しかった。

 静かに涙を零すユナに、アンはエプロンのポケットからハンカチを取り出し差し出した。それを受け取り、涙を拭う。

「メイド長も勘が良いですから気付いてるとは思いますが、私からも他の子達に噂はでまかせだって言ってみます」
 そう言いだしたアンに、ユナは咄嗟に涙を拭いながら顔を上げた。

「そんな、そんなことをしたら、あなたにまで迷惑をかけてしまうわ」
 慌てるユナに、アンは微笑んだ。
「その時は新人と一緒にいるんで、ご心配なく。……疑って、すみませんでした」

 謝罪するアンに、ユナは「そんなことない」と首を横に振る。
「信じてくれただけで、それで十分よ。ありがとう」
 そう、言葉を返した。




 その後、時間の許す限りアンと会話をした。彼女はユナよりも一つ年上で、ここでの使用人歴も長いらしい。グラヴィス家に来る前は、他の貴族の家々でメイドをしていたそうだ。

 同僚にも好かれやすいと本人が言うのも納得できる明るさで、アイラ以外とこんなにも会話をするのは久しぶりだった。

「おっと……そろそろ仕事に戻りますね」
「ありがとう。とても楽しい時間だったわ」

 感謝を述べるユナに、アンは笑顔を浮かべお辞儀をすると、部屋から出て行った。

 二人目の理解者に、ユナは顔を綻ばせた。
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