手乗り姫

ねこいかいち

文字の大きさ
8 / 8

【完結】手乗り姫とおばあさん

しおりを挟む
 何か声がする――。そう思い目を開けると、ニアの目の前には大きな人の顔がありました。
「わあ! この人形、目を開けたよ!」
「本当?」
「あたしもみたーい!」
 大きな声がたくさん聞こえます。コニックは懸命に威嚇をしていますが、人の子ども達にはあまり効果がありません。
「この猫、毛の色が三色あるよ!」
「三毛猫だよ!」
「すげー!」
 盛り上がる子ども達に、ニアは何も言えずコニックの背にしがみ付きました。コニックは更に、威嚇をします。
「どこの家の子かな?」
「ねえ、触れるかな」
 そう言って、ニアとコニックに触ろうとしてきます。コニックは何度も威嚇をします。人とも触れ合いたい――。そう思っていたニアですが、ここまで詰め寄られると恐怖が勝ってしまいます。
(どうしよう……コニックがどうにかしてくれているけど、このままだと捕まってしまう……っ)
 ニアの不安を余所に、子ども達はニアとコニックに手を伸ばしてきます。 危ない!

「こら! 寄ってたかって猫を虐めないの!」

 その声に雲の子を散らすように、子ども達が逃げて行きました。ホッと息を吐くと、ある一人のおばあさんが近付いてきました。
「大丈夫かい? 猫一匹に寄ってたかって……全く」
 そう言うおばあさんに、安堵したニアは「ありがとう」とつい声を掛けてしまいました。
「おや! あなた人形じゃないの?」
「あっ」
 咄嗟に両手で口元を押さえますが、時すでに遅し。ばれてしまいました。おばあさんにそっと視線を向ければ、おばあさんはにっこりと笑みを浮かべています。
「ここは熱いわ。私の家にいらっしゃいな」
「……いいの?」
「ええ、子ども達に襲われる心配もないわよ」
 そう言って手を差し伸べるおばあさんに、ニアとコニックは顔を合わせます。このおばあさんは、安心できそうな気がする――。そう思ったニアは、おばあさんの手を掴みました。




 おばあさんの家に着いた頃には、日も陰り出していました。
「改めて、私は巡屋菊代よ。ちいさなお嬢さん、あなたは?」
「私はニア。こっちは友達のコニックよ」
「……よろしく」
 小さな小人族に、しゃべる猫。そんな二人を見て、おばあさんは興奮していました。
「ニアに、コニックね。お夕飯はまだでしょう? 私と一緒にどうかしら?」
「良いの?」
「ええ、私は一人暮らしだから、一緒に食べる相手がいると嬉しいわ」
 そう言われれば、朝から何も食べていません。ニアはおばあさんに甘えることにしました。
「じゃあ、お願いするわ」
「僕もかい?」
「ええ。コニックも一緒よ」
 そう言われ、コニックも嬉しそうに照れ笑いを浮かべていました。おばあさんの作った晩御飯を食べ、楽しくお話をしました。ニアのこと、ニアの家族のこと、おばあさんのこと、そして、冒険のお話も。今日一日の出会いを、たくさんお話しました。

 そんな時、おばあさんが急に苦しみだしました。おばあさんは持病を患っていたのです。
「おばあさん!」
 苦しそうにするおばあさんに、ニアは駆け寄ります。
「うう……救急車を呼ばなきゃ……」
「どうやって呼ぶの?」
「あそこの電話を取っておくれ……」
 指で示された場所は、戸棚の上でした。急いでコニックの背に飛び乗り、電話機の側へと向かいます。
 ニアがしっかりと子機を手に取ったのを確認し、コニックはおばあさんの元へ戻っていきます。
「ニア、そのボタンを押すんだ」
「うん!」
 コニックの指示に従い、ニアはボタンを足で踏みます。電話と言う機械から、声が聞こえてきました。
「こちら救急隊です。どうしましたか?」
「おばあさんが苦しそうなの!」
 ニアは必死に声を掛けますが、ニアの声は小さくて電話の向こうに届きません。慌てて、コニックが代わりに答えました。
「おばあさんが苦しそうなんだ。夢見町の巡屋菊代さんなんだけど」
「了解しました。目印になるように、誰か家の前に立っていてください」
「はい」
 どうにかして、おばあさんの助けをすることが出来たニアとコニック。おばあさんは苦しそうな顔を浮べながら、それでも微笑みました。
「ありがとう、二人とも。助かったわ」
「ううん、お互い様よ。おばあさんに出会えて、本当に良かったわ」
「……また、来てくれるかい?」
 そう訊ねるおばあさんに、ニアは「うん!」と元気に答えました。その笑顔を見て、おばあさんはニアに手を差し伸べます。ニアはそっとおばあさんの手にしがみ付き、救急隊が来るまで、ずっと指に抱き着いていました。



 救急車がくるまで、コニックは家の外にいました。救急車が着き、コニックは懸命に鳴きます。気付いた救急隊が家に入り、その隙間を縫ってコニックも家に戻ります。タンカーに乗せられたおばあさんが、こちらに手を振りました。ニアは頷き、大きく手を振りお別れをしました。



「良かったのかい? おばあさんが帰って来るまで、家にいればよかったのに」
「ううん。ちゃんとお別れはしたから、大丈夫」
「そっか」
 そう話をしながら、ハートフットに帰る道すがら、カエル達の歌合戦が聞こえてきました。
「ニア! 待ってたよ!」
 昼間に出会った、ユタが此方に駆け寄ってきて来ました。
「ユタ! みんな凄いわねっ」
「うん。夜は僕たちの歌のお披露目だからね……聞いていってよ」
「うん!」
 特等席に案内して貰い、色々な種類のカエル達の歌声を聞きます。どの子も懸命に練習したようで、どの子の歌も甲乙つけがたいものでした。
「ありがとう、聞かせてくれて」
「ううん。お客さんがいたから皆張り切ってたよ。こちらこそ、ありがとう」
 そう話し、ユタとも別れ来た道を帰ります。来た時とは違い、ゆっくりとした足取りです。
「こうして見ると、鬱蒼としてたのね」
「ハートフットの村と外の世界を結ぶ道は、険しいからね」
 そう呑気に話すコニックに、ニアは話しかけます。
「ねえ、また来ましょう。おばあさんにも、ジェニにも、ユタにもコミツにも、また会いたいわ」
「そうだね。おばあさんは僕も気に入ったから、連れてきてあげる」
「ありがとう!」
 ニアは嬉しさについコニックを強く抱き締めてしまいます。コニックは満更でもない様子です。



 さあ、日も昇り、ハートフットの村に帰ってきました。さっそく、おじいさんに旅の思い出を話そうと家に向かいます。
「ただいま、おじいちゃん! あのね!」
 玄関のドアを開け、開口一番に旅の話をしようとするニアを、おじいさんはにこやかに見つめていました。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

たったひとつの願いごと

りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。 その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。 少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。 それは…

とある旅行の話

森永謹製
絵本
ハリネズミのウーフーと、モグラのルベンが、海を見るために旅行に行くお話。

くらげ のんびりだいぼうけん

山碕田鶴
絵本
波にゆられる くらげ が大冒険してしまうお話です。

どろんこポム

辻堂安古市
絵本
どろんこのポムは、泥だらけで「汚い」と言われることに悩んでいました。キラキラ輝く星のキラりんのようになりたいと願いますが、「君は僕にはなれない」と言われてがっかりします。でも・・・

あなのあいた石

Anthony-Blue
絵本
ひとりぼっちだったボクは、みんなに助けられながら街を目指すことに。

不幸でしあわせな子どもたち 「しあわせのふうせん」

山口かずなり
絵本
小説 不幸でしあわせな子どもたち スピンオフ作品 ・ ウルが友だちのメロウからもらったのは、 緑色のふうせん だけどウルにとっては、いらないもの いらないものは、誰かにとっては、 ほしいもの。 だけど、気づいて ふうせんの正体に‥。

童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)

カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ…… 誰もいない野原のステージの上で…… アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ——— 全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。 ※高学年〜大人向き

ママのごはんはたべたくない

もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん たべたくないきもちを ほんに してみました。 ちょっと、おもしろエピソード よんでみてください。  これをよんだら おやこで   ハッピーに なれるかも? 約3600文字あります。 ゆっくり読んで大体20分以内で 読み終えると思います。 寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。 表紙作画:ぽん太郎 様  2023.3.7更新

処理中です...