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【完結】手乗り姫とおばあさん
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何か声がする――。そう思い目を開けると、ニアの目の前には大きな人の顔がありました。
「わあ! この人形、目を開けたよ!」
「本当?」
「あたしもみたーい!」
大きな声がたくさん聞こえます。コニックは懸命に威嚇をしていますが、人の子ども達にはあまり効果がありません。
「この猫、毛の色が三色あるよ!」
「三毛猫だよ!」
「すげー!」
盛り上がる子ども達に、ニアは何も言えずコニックの背にしがみ付きました。コニックは更に、威嚇をします。
「どこの家の子かな?」
「ねえ、触れるかな」
そう言って、ニアとコニックに触ろうとしてきます。コニックは何度も威嚇をします。人とも触れ合いたい――。そう思っていたニアですが、ここまで詰め寄られると恐怖が勝ってしまいます。
(どうしよう……コニックがどうにかしてくれているけど、このままだと捕まってしまう……っ)
ニアの不安を余所に、子ども達はニアとコニックに手を伸ばしてきます。 危ない!
「こら! 寄ってたかって猫を虐めないの!」
その声に雲の子を散らすように、子ども達が逃げて行きました。ホッと息を吐くと、ある一人のおばあさんが近付いてきました。
「大丈夫かい? 猫一匹に寄ってたかって……全く」
そう言うおばあさんに、安堵したニアは「ありがとう」とつい声を掛けてしまいました。
「おや! あなた人形じゃないの?」
「あっ」
咄嗟に両手で口元を押さえますが、時すでに遅し。ばれてしまいました。おばあさんにそっと視線を向ければ、おばあさんはにっこりと笑みを浮かべています。
「ここは熱いわ。私の家にいらっしゃいな」
「……いいの?」
「ええ、子ども達に襲われる心配もないわよ」
そう言って手を差し伸べるおばあさんに、ニアとコニックは顔を合わせます。このおばあさんは、安心できそうな気がする――。そう思ったニアは、おばあさんの手を掴みました。
おばあさんの家に着いた頃には、日も陰り出していました。
「改めて、私は巡屋菊代よ。ちいさなお嬢さん、あなたは?」
「私はニア。こっちは友達のコニックよ」
「……よろしく」
小さな小人族に、しゃべる猫。そんな二人を見て、おばあさんは興奮していました。
「ニアに、コニックね。お夕飯はまだでしょう? 私と一緒にどうかしら?」
「良いの?」
「ええ、私は一人暮らしだから、一緒に食べる相手がいると嬉しいわ」
そう言われれば、朝から何も食べていません。ニアはおばあさんに甘えることにしました。
「じゃあ、お願いするわ」
「僕もかい?」
「ええ。コニックも一緒よ」
そう言われ、コニックも嬉しそうに照れ笑いを浮かべていました。おばあさんの作った晩御飯を食べ、楽しくお話をしました。ニアのこと、ニアの家族のこと、おばあさんのこと、そして、冒険のお話も。今日一日の出会いを、たくさんお話しました。
そんな時、おばあさんが急に苦しみだしました。おばあさんは持病を患っていたのです。
「おばあさん!」
苦しそうにするおばあさんに、ニアは駆け寄ります。
「うう……救急車を呼ばなきゃ……」
「どうやって呼ぶの?」
「あそこの電話を取っておくれ……」
指で示された場所は、戸棚の上でした。急いでコニックの背に飛び乗り、電話機の側へと向かいます。
ニアがしっかりと子機を手に取ったのを確認し、コニックはおばあさんの元へ戻っていきます。
「ニア、そのボタンを押すんだ」
「うん!」
コニックの指示に従い、ニアはボタンを足で踏みます。電話と言う機械から、声が聞こえてきました。
「こちら救急隊です。どうしましたか?」
「おばあさんが苦しそうなの!」
ニアは必死に声を掛けますが、ニアの声は小さくて電話の向こうに届きません。慌てて、コニックが代わりに答えました。
「おばあさんが苦しそうなんだ。夢見町の巡屋菊代さんなんだけど」
「了解しました。目印になるように、誰か家の前に立っていてください」
「はい」
どうにかして、おばあさんの助けをすることが出来たニアとコニック。おばあさんは苦しそうな顔を浮べながら、それでも微笑みました。
「ありがとう、二人とも。助かったわ」
「ううん、お互い様よ。おばあさんに出会えて、本当に良かったわ」
「……また、来てくれるかい?」
そう訊ねるおばあさんに、ニアは「うん!」と元気に答えました。その笑顔を見て、おばあさんはニアに手を差し伸べます。ニアはそっとおばあさんの手にしがみ付き、救急隊が来るまで、ずっと指に抱き着いていました。
救急車がくるまで、コニックは家の外にいました。救急車が着き、コニックは懸命に鳴きます。気付いた救急隊が家に入り、その隙間を縫ってコニックも家に戻ります。タンカーに乗せられたおばあさんが、こちらに手を振りました。ニアは頷き、大きく手を振りお別れをしました。
「良かったのかい? おばあさんが帰って来るまで、家にいればよかったのに」
「ううん。ちゃんとお別れはしたから、大丈夫」
「そっか」
そう話をしながら、ハートフットに帰る道すがら、カエル達の歌合戦が聞こえてきました。
「ニア! 待ってたよ!」
昼間に出会った、ユタが此方に駆け寄ってきて来ました。
「ユタ! みんな凄いわねっ」
「うん。夜は僕たちの歌のお披露目だからね……聞いていってよ」
「うん!」
特等席に案内して貰い、色々な種類のカエル達の歌声を聞きます。どの子も懸命に練習したようで、どの子の歌も甲乙つけがたいものでした。
「ありがとう、聞かせてくれて」
「ううん。お客さんがいたから皆張り切ってたよ。こちらこそ、ありがとう」
そう話し、ユタとも別れ来た道を帰ります。来た時とは違い、ゆっくりとした足取りです。
「こうして見ると、鬱蒼としてたのね」
「ハートフットの村と外の世界を結ぶ道は、険しいからね」
そう呑気に話すコニックに、ニアは話しかけます。
「ねえ、また来ましょう。おばあさんにも、ジェニにも、ユタにもコミツにも、また会いたいわ」
「そうだね。おばあさんは僕も気に入ったから、連れてきてあげる」
「ありがとう!」
ニアは嬉しさについコニックを強く抱き締めてしまいます。コニックは満更でもない様子です。
さあ、日も昇り、ハートフットの村に帰ってきました。さっそく、おじいさんに旅の思い出を話そうと家に向かいます。
「ただいま、おじいちゃん! あのね!」
玄関のドアを開け、開口一番に旅の話をしようとするニアを、おじいさんはにこやかに見つめていました。
「わあ! この人形、目を開けたよ!」
「本当?」
「あたしもみたーい!」
大きな声がたくさん聞こえます。コニックは懸命に威嚇をしていますが、人の子ども達にはあまり効果がありません。
「この猫、毛の色が三色あるよ!」
「三毛猫だよ!」
「すげー!」
盛り上がる子ども達に、ニアは何も言えずコニックの背にしがみ付きました。コニックは更に、威嚇をします。
「どこの家の子かな?」
「ねえ、触れるかな」
そう言って、ニアとコニックに触ろうとしてきます。コニックは何度も威嚇をします。人とも触れ合いたい――。そう思っていたニアですが、ここまで詰め寄られると恐怖が勝ってしまいます。
(どうしよう……コニックがどうにかしてくれているけど、このままだと捕まってしまう……っ)
ニアの不安を余所に、子ども達はニアとコニックに手を伸ばしてきます。 危ない!
「こら! 寄ってたかって猫を虐めないの!」
その声に雲の子を散らすように、子ども達が逃げて行きました。ホッと息を吐くと、ある一人のおばあさんが近付いてきました。
「大丈夫かい? 猫一匹に寄ってたかって……全く」
そう言うおばあさんに、安堵したニアは「ありがとう」とつい声を掛けてしまいました。
「おや! あなた人形じゃないの?」
「あっ」
咄嗟に両手で口元を押さえますが、時すでに遅し。ばれてしまいました。おばあさんにそっと視線を向ければ、おばあさんはにっこりと笑みを浮かべています。
「ここは熱いわ。私の家にいらっしゃいな」
「……いいの?」
「ええ、子ども達に襲われる心配もないわよ」
そう言って手を差し伸べるおばあさんに、ニアとコニックは顔を合わせます。このおばあさんは、安心できそうな気がする――。そう思ったニアは、おばあさんの手を掴みました。
おばあさんの家に着いた頃には、日も陰り出していました。
「改めて、私は巡屋菊代よ。ちいさなお嬢さん、あなたは?」
「私はニア。こっちは友達のコニックよ」
「……よろしく」
小さな小人族に、しゃべる猫。そんな二人を見て、おばあさんは興奮していました。
「ニアに、コニックね。お夕飯はまだでしょう? 私と一緒にどうかしら?」
「良いの?」
「ええ、私は一人暮らしだから、一緒に食べる相手がいると嬉しいわ」
そう言われれば、朝から何も食べていません。ニアはおばあさんに甘えることにしました。
「じゃあ、お願いするわ」
「僕もかい?」
「ええ。コニックも一緒よ」
そう言われ、コニックも嬉しそうに照れ笑いを浮かべていました。おばあさんの作った晩御飯を食べ、楽しくお話をしました。ニアのこと、ニアの家族のこと、おばあさんのこと、そして、冒険のお話も。今日一日の出会いを、たくさんお話しました。
そんな時、おばあさんが急に苦しみだしました。おばあさんは持病を患っていたのです。
「おばあさん!」
苦しそうにするおばあさんに、ニアは駆け寄ります。
「うう……救急車を呼ばなきゃ……」
「どうやって呼ぶの?」
「あそこの電話を取っておくれ……」
指で示された場所は、戸棚の上でした。急いでコニックの背に飛び乗り、電話機の側へと向かいます。
ニアがしっかりと子機を手に取ったのを確認し、コニックはおばあさんの元へ戻っていきます。
「ニア、そのボタンを押すんだ」
「うん!」
コニックの指示に従い、ニアはボタンを足で踏みます。電話と言う機械から、声が聞こえてきました。
「こちら救急隊です。どうしましたか?」
「おばあさんが苦しそうなの!」
ニアは必死に声を掛けますが、ニアの声は小さくて電話の向こうに届きません。慌てて、コニックが代わりに答えました。
「おばあさんが苦しそうなんだ。夢見町の巡屋菊代さんなんだけど」
「了解しました。目印になるように、誰か家の前に立っていてください」
「はい」
どうにかして、おばあさんの助けをすることが出来たニアとコニック。おばあさんは苦しそうな顔を浮べながら、それでも微笑みました。
「ありがとう、二人とも。助かったわ」
「ううん、お互い様よ。おばあさんに出会えて、本当に良かったわ」
「……また、来てくれるかい?」
そう訊ねるおばあさんに、ニアは「うん!」と元気に答えました。その笑顔を見て、おばあさんはニアに手を差し伸べます。ニアはそっとおばあさんの手にしがみ付き、救急隊が来るまで、ずっと指に抱き着いていました。
救急車がくるまで、コニックは家の外にいました。救急車が着き、コニックは懸命に鳴きます。気付いた救急隊が家に入り、その隙間を縫ってコニックも家に戻ります。タンカーに乗せられたおばあさんが、こちらに手を振りました。ニアは頷き、大きく手を振りお別れをしました。
「良かったのかい? おばあさんが帰って来るまで、家にいればよかったのに」
「ううん。ちゃんとお別れはしたから、大丈夫」
「そっか」
そう話をしながら、ハートフットに帰る道すがら、カエル達の歌合戦が聞こえてきました。
「ニア! 待ってたよ!」
昼間に出会った、ユタが此方に駆け寄ってきて来ました。
「ユタ! みんな凄いわねっ」
「うん。夜は僕たちの歌のお披露目だからね……聞いていってよ」
「うん!」
特等席に案内して貰い、色々な種類のカエル達の歌声を聞きます。どの子も懸命に練習したようで、どの子の歌も甲乙つけがたいものでした。
「ありがとう、聞かせてくれて」
「ううん。お客さんがいたから皆張り切ってたよ。こちらこそ、ありがとう」
そう話し、ユタとも別れ来た道を帰ります。来た時とは違い、ゆっくりとした足取りです。
「こうして見ると、鬱蒼としてたのね」
「ハートフットの村と外の世界を結ぶ道は、険しいからね」
そう呑気に話すコニックに、ニアは話しかけます。
「ねえ、また来ましょう。おばあさんにも、ジェニにも、ユタにもコミツにも、また会いたいわ」
「そうだね。おばあさんは僕も気に入ったから、連れてきてあげる」
「ありがとう!」
ニアは嬉しさについコニックを強く抱き締めてしまいます。コニックは満更でもない様子です。
さあ、日も昇り、ハートフットの村に帰ってきました。さっそく、おじいさんに旅の思い出を話そうと家に向かいます。
「ただいま、おじいちゃん! あのね!」
玄関のドアを開け、開口一番に旅の話をしようとするニアを、おじいさんはにこやかに見つめていました。
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