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 聖女としての聖務は忙しい。朝一番に聖女補佐達と共に礼拝堂の清掃から始まり、次に女神像のお清め、禊、礼拝と続き、最後に礼拝に来る人々へ祈りを捧げる。これだけで一日が終わってしまう。そんな毎日ではあるが、充実した日々ではある。二歳の時から行っていることではあるが、これが日常だ。
 そんな日常に、お茶会という新たな責務が増えたのは自業自得とはいえ面倒だ。そう思ってしまうのは仕方ないと思って欲しい。

 そう、目の前の青年を見て思うセラだった。
「今日はよろしく頼むよ」
「あ、はい……」
 ミスティリア国第二王子、クリスタス・フォン・ミスティリア。金髪に水色の目をした、一つ年上の青年だ。彼には幼い頃かに決められた婚約者がいた筈……それなのに、どうして夫候補に立候補したのだろうか?

 聖女の夫に、王族がなったという事例は何度かある。だが、王族はその特別性故に立候補制である。ということは、彼は自分から立候補したということになるのだ。そういえば……。
「あの、本来四人目になる筈だった人って、どんな人だったんですか?」
「四人目? ああ、彼のことかい?」
 彼、ということは年は近いのだろうか。クリスタスの言葉を待つと、意外な返答が帰って来た。
「彼はグリスタニアの特別な公爵でね。全ての属性を扱えるという相当な魔導士だから、是非とも迎え入れたいと父である国王が同盟国であるグリスタニアに交渉していたんだけど、グリスタニア側が首を縦に振らなくて……そうしている間に、当の本人が婚約者を決めてしまったんだ。だから今回の夫候補は三人だけなんだ」
「な、なるほど……」
 四人目の人にも、一目会ってみたかったと思ったのは仕方ないと思う。だって、本来は四人の中から決めるというしきたりだから。でも、一人減ったのはセラとしては有難いことだ。
「僕としては、一人ライバルが減ったから嬉しいけどね」
 にこりと王族らしからぬ発言をするクリスタスに、セラは苦笑いを浮かべた。そして、どうしても聞きたくなった。
「あの……どうして、立候補なんてしたんですか? 婚約者様だっているのに……」
 その言葉に、クリスタスは目を瞬かせ、すぐに笑みを向ける。
「婚約者は親同士が決めた相手だ。だけど、君は違う」
「え?」
「君と初めて会ったのは、礼拝堂に視察に行く父に連れられて礼拝堂に行った時だ。その時に君を見て、この子だって感じたんだ」
 手を掴まれ、真っすぐ見つめられる。その眼差しは熱を持ち、愛おしい者を見る目だった。
「君が、ずっと前から好きだったんだ。どうか、選んで欲しい」
「え、あの、その……」
 じっと食い入るように見つめられ、次第に頬が赤くなる。一昨日のユーゴスといい、どうしてここまで皆、真っすぐ見つめてくるのだろうか。
「時間はまだある。でも、可能ならば一日でも早く、君と一緒になりたい。それが僕の願いだ」
 水色の瞳の筈なのに、クリスタスの目には熱い情熱の色が見えた。ああ、もう……どうすればいいんだろうか。
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