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15 魅了
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サグサの村を発ち、シダボの町へと目指す。ここでもアイリスさんのアプローチがないか不安になったが、特にそうした動きもなく……冗談だったのだろうかと首を傾げる。だが、用心はしなきゃ。逐一見ていなければ……。
もう少しでシダボ、という所で、まさかのアクシデントに見舞われた。シダボへと続く橋が壊れていたのだ。
「どうしましょう。迂回しますか?」
橋の足場は所々に穴が開き、吊り橋のロープもいつ千切れるかわからないような状況だ。橋と言っても、そこまで大きくない川の上に架けられているものだが、この橋を渡らないとシダボには着けない。
「川を渡るってどうかしら?」
「流れ早いぞ」
「あんた達男手なら渡れるでしょ。背負って」
確かに、流れは早いが深そうには見えない。アイリスさんの提案に。男性二人が賛同し、川を渡ることになった。
「なら、体格的に俺がロランちゃんかな」
「ですね。お願いします」
荷物を胸にかけ直したイリヤストさんの背に背負って貰い、川を進んで貰う。意外と深さがあったようで、イリヤストさんの太腿辺りまで水に浸かった。
「流れ早いから、ゆっくりいくね」
「はい」
ゆっくりと進んで貰い、反対の川岸に辿り着く。下ろして貰いながら、次に渡ってくる二人を見つめた。
背負われたアイリスさんが、何か耳元で話しかけている。それに驚いたように反応する彼の顔はいくらか赤かった。
「何話してるんだ? あいつ等」
「さあ……」
気になるが、この距離では聞くことも出来ない。 少しばかり、胸が痛む。
合流した二人と共に、四人で目と鼻の先のシダボへと歩みを進める。濡れたグレイヴさんのことを考えるに、今日は宿に泊まるべきだろう。そう考えていると、シダボの町に着いた。
「じゃあ、あたし達はここで別れるわ」
「はい。本当にありがとうございました」
深々とお辞儀すると、アイリスさんから手を差し出される。そっと握り、握手を交わした。
「何かあったら、王都経由でいいから連絡ちょうだいね」
微笑むアイリスさんに大きく頷く。手を離すと、彼女は次にグレイヴさんの側に寄り何か耳打ちした後、彼の頬にキスをした。
「「!?」」
驚く私とイリヤストさんを余所に、彼女は微笑みながら去って行った。
「って、おい! 俺を置いていくな! それじゃ、またなっ」
軽く手をあげ挨拶をすると、イリヤストさんはアイリスさんを追いかけ走って行った。
ちらりと視線を向けると、グレイブさんは顔を赤らめボーッとしている。
私、少し怒ってもいいですか?
「グレイヴさん! 風邪を引く前に宿に向かいますよ!」
彼の手を引き、町に入ってすぐの所にあった宿に入って行った。一番にお風呂を借り、彼を浴室に放り込む。
「さあ、早くお風呂に入って、服を洗濯に出しますよ!」
「お、おう」
素直にドアを閉めたが、未だにボーッとしている気がする。
もう、私以外に現を抜かすなって言ったのに……。
少し腹が立ってきた。仕返しをすべく荷物を持ったまま彼に宛がわれた部屋へと入る。そのままベッドに腰掛け、彼を待つ。
数十分後、グレイヴさんが戻って来た。部屋にいるとは思わなかったのか、私の存在に驚いているようだ。すぐ側まで近づき、顔を見上げる。
「グレイブさん、屈んでください」
「へ?」
「早く、屈んで」
駄々っ子のような口調になってしまったが、今はそんなのを気にする場合ではない。急かすと、彼は中腰の姿勢をとった。
「目を閉じて、動かないでください」
言われるがまま動いてくれる彼に感謝しつつ、そっと顔を寄せ、目を細めていく。唇の端ぎりぎりの所にキスをし、すぐさま顔を離し、目を逸らした。
驚いたのか、目を閉じていてと言ったのに、彼は目を見開いている。
「ロ、ロラン……?」
「その、私にだって、魅了くらい出来ます……」
恥かしさに、次第に声が小さくなっていく。アイリスさんに負けたくないという気持ちが強くて、つい行動に移してしまったが、やってから後悔した。これは凄く恥ずかしい。
そっと視線を向けると、何故か彼は手で顔を覆っていた。深く溜め息を吐く彼に、不安になってくる。
「グレイヴさん?」
私にキスされて、嫌だっただろうか? 不安にさいなまれる中、静かに口を開いた。
「……ぁぉ、なよ……」
「え?」
上手く聞き取れず、小首を傾げる。すると彼は顔を覆っていた手の隙間から瞳を覗かせ、もう一度言葉を発した。
「だから、煽るなよ……襲いたくなる」
瞳は飢えた獣のようにぎらついており、目が合った瞬間、ドキリと胸が高鳴った。
「えっと、その……すみません」
「いや……アイリスさんの茶化しで現を抜かした俺が悪いから……」
はぁ、と溜め息を吐き、首にかけていたタオルで顔を拭う。そんな彼の仕草にも、ドキドキしてしまう。
って、ん? 茶化し?
「あの、茶化しって……?」
「ああ、あの人、先輩のことが好きなんだとさ。だから、さっきのキスはどっちかって言うと先輩に対しての当てつけだよ」
彼の言葉に、目を丸くする。あの時テントで言っていたことは本当に冗談だったのか。
「川渡ってるときに、お前さんへの好意に気付かれてさ……そん時に少しだけ話した」
そうだったのか……。だから、驚いたような表情をしていたのか。
「じゃあ、キスされる前に耳打ちしていたのって……」
「お互いに頑張ろうって話」
そっか。あの程度で不機嫌になるなんて、少し恥ずかしい。
「アイリスさん、恋が実るといいですね」
「先輩、鈍いからなあ……どうなることやら」
イリヤストさんの性格を考えると、確かに言えているかもしれない。小さく笑みを零す。
「まあ、俺としては自分の恋も成就してほしいんだけどな」
にこやかに微笑まれ、少し落ち着いてきていた胸の高鳴りが再び起きる。ドキドキが止まらない。
「その……」
「ん?」
呑気に首を傾げる彼に、声を掛ける。
言葉にするのって、どうしてこんなに緊張するのだろう。
「グレイブさん次第だと、思います……」
上目遣いにそう告げると、彼は目を見開き固まっていた。その隙に、彼の背後にあるドアから部屋を抜け出す。出て行く瞬間、慌てたように名を呼ばれたが、今は振り向くことも立ち止まることも出来ない。宛がわれた部屋へと戻り、すぐさまドアを閉めた。
ベッドに倒れ込み、唇に触れる。まだグレイヴさんの肌の温もりが残っている気がして、ドキドキする。
胸元に手を当て、目を伏せる。
私、彼を好きになりだしている所か、もう既に恋をし出しているのかもしれない。
気の所為だと思いたいが、この高鳴りをどう理由づけるか……。
悩みの種だ。
もう少しでシダボ、という所で、まさかのアクシデントに見舞われた。シダボへと続く橋が壊れていたのだ。
「どうしましょう。迂回しますか?」
橋の足場は所々に穴が開き、吊り橋のロープもいつ千切れるかわからないような状況だ。橋と言っても、そこまで大きくない川の上に架けられているものだが、この橋を渡らないとシダボには着けない。
「川を渡るってどうかしら?」
「流れ早いぞ」
「あんた達男手なら渡れるでしょ。背負って」
確かに、流れは早いが深そうには見えない。アイリスさんの提案に。男性二人が賛同し、川を渡ることになった。
「なら、体格的に俺がロランちゃんかな」
「ですね。お願いします」
荷物を胸にかけ直したイリヤストさんの背に背負って貰い、川を進んで貰う。意外と深さがあったようで、イリヤストさんの太腿辺りまで水に浸かった。
「流れ早いから、ゆっくりいくね」
「はい」
ゆっくりと進んで貰い、反対の川岸に辿り着く。下ろして貰いながら、次に渡ってくる二人を見つめた。
背負われたアイリスさんが、何か耳元で話しかけている。それに驚いたように反応する彼の顔はいくらか赤かった。
「何話してるんだ? あいつ等」
「さあ……」
気になるが、この距離では聞くことも出来ない。 少しばかり、胸が痛む。
合流した二人と共に、四人で目と鼻の先のシダボへと歩みを進める。濡れたグレイヴさんのことを考えるに、今日は宿に泊まるべきだろう。そう考えていると、シダボの町に着いた。
「じゃあ、あたし達はここで別れるわ」
「はい。本当にありがとうございました」
深々とお辞儀すると、アイリスさんから手を差し出される。そっと握り、握手を交わした。
「何かあったら、王都経由でいいから連絡ちょうだいね」
微笑むアイリスさんに大きく頷く。手を離すと、彼女は次にグレイヴさんの側に寄り何か耳打ちした後、彼の頬にキスをした。
「「!?」」
驚く私とイリヤストさんを余所に、彼女は微笑みながら去って行った。
「って、おい! 俺を置いていくな! それじゃ、またなっ」
軽く手をあげ挨拶をすると、イリヤストさんはアイリスさんを追いかけ走って行った。
ちらりと視線を向けると、グレイブさんは顔を赤らめボーッとしている。
私、少し怒ってもいいですか?
「グレイヴさん! 風邪を引く前に宿に向かいますよ!」
彼の手を引き、町に入ってすぐの所にあった宿に入って行った。一番にお風呂を借り、彼を浴室に放り込む。
「さあ、早くお風呂に入って、服を洗濯に出しますよ!」
「お、おう」
素直にドアを閉めたが、未だにボーッとしている気がする。
もう、私以外に現を抜かすなって言ったのに……。
少し腹が立ってきた。仕返しをすべく荷物を持ったまま彼に宛がわれた部屋へと入る。そのままベッドに腰掛け、彼を待つ。
数十分後、グレイヴさんが戻って来た。部屋にいるとは思わなかったのか、私の存在に驚いているようだ。すぐ側まで近づき、顔を見上げる。
「グレイブさん、屈んでください」
「へ?」
「早く、屈んで」
駄々っ子のような口調になってしまったが、今はそんなのを気にする場合ではない。急かすと、彼は中腰の姿勢をとった。
「目を閉じて、動かないでください」
言われるがまま動いてくれる彼に感謝しつつ、そっと顔を寄せ、目を細めていく。唇の端ぎりぎりの所にキスをし、すぐさま顔を離し、目を逸らした。
驚いたのか、目を閉じていてと言ったのに、彼は目を見開いている。
「ロ、ロラン……?」
「その、私にだって、魅了くらい出来ます……」
恥かしさに、次第に声が小さくなっていく。アイリスさんに負けたくないという気持ちが強くて、つい行動に移してしまったが、やってから後悔した。これは凄く恥ずかしい。
そっと視線を向けると、何故か彼は手で顔を覆っていた。深く溜め息を吐く彼に、不安になってくる。
「グレイヴさん?」
私にキスされて、嫌だっただろうか? 不安にさいなまれる中、静かに口を開いた。
「……ぁぉ、なよ……」
「え?」
上手く聞き取れず、小首を傾げる。すると彼は顔を覆っていた手の隙間から瞳を覗かせ、もう一度言葉を発した。
「だから、煽るなよ……襲いたくなる」
瞳は飢えた獣のようにぎらついており、目が合った瞬間、ドキリと胸が高鳴った。
「えっと、その……すみません」
「いや……アイリスさんの茶化しで現を抜かした俺が悪いから……」
はぁ、と溜め息を吐き、首にかけていたタオルで顔を拭う。そんな彼の仕草にも、ドキドキしてしまう。
って、ん? 茶化し?
「あの、茶化しって……?」
「ああ、あの人、先輩のことが好きなんだとさ。だから、さっきのキスはどっちかって言うと先輩に対しての当てつけだよ」
彼の言葉に、目を丸くする。あの時テントで言っていたことは本当に冗談だったのか。
「川渡ってるときに、お前さんへの好意に気付かれてさ……そん時に少しだけ話した」
そうだったのか……。だから、驚いたような表情をしていたのか。
「じゃあ、キスされる前に耳打ちしていたのって……」
「お互いに頑張ろうって話」
そっか。あの程度で不機嫌になるなんて、少し恥ずかしい。
「アイリスさん、恋が実るといいですね」
「先輩、鈍いからなあ……どうなることやら」
イリヤストさんの性格を考えると、確かに言えているかもしれない。小さく笑みを零す。
「まあ、俺としては自分の恋も成就してほしいんだけどな」
にこやかに微笑まれ、少し落ち着いてきていた胸の高鳴りが再び起きる。ドキドキが止まらない。
「その……」
「ん?」
呑気に首を傾げる彼に、声を掛ける。
言葉にするのって、どうしてこんなに緊張するのだろう。
「グレイブさん次第だと、思います……」
上目遣いにそう告げると、彼は目を見開き固まっていた。その隙に、彼の背後にあるドアから部屋を抜け出す。出て行く瞬間、慌てたように名を呼ばれたが、今は振り向くことも立ち止まることも出来ない。宛がわれた部屋へと戻り、すぐさまドアを閉めた。
ベッドに倒れ込み、唇に触れる。まだグレイヴさんの肌の温もりが残っている気がして、ドキドキする。
胸元に手を当て、目を伏せる。
私、彼を好きになりだしている所か、もう既に恋をし出しているのかもしれない。
気の所為だと思いたいが、この高鳴りをどう理由づけるか……。
悩みの種だ。
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