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53話

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セナside

私はこの会社に入ってすぐ…右も左も分からないのに彼らスタイリストに選ばれた。

すでに人気者だった彼達のスタイリングをするのはすごく神経を使った。

それぞれのイメージや個性、そして本人の意見も取り入れていたら正直…私にはキャパオーバーで仕事が終わるたびににじむ涙を堪えながら衣装を片付けていた。

そんなある日…私は誰もいない控え室で一度だけ仕事の最中に泣いたことがあった。

スタイリストとしてのプライドを傷つけられたカメラマンのひと言。

「なんか…全体的に惜しいよね?」

その言葉を言われた時、私の中で張り詰めていた糸がプチっと音を立てて切れた。

その感情がどうしても抑えきれなくて、でも泣いてる姿は誰にも見られたくなくて、誰もいないはずの控え室に逃げ込んで泣いてたのに気づいたらジョウキが後ろに立っていて、私の元へと近づき優しく微笑みながら言った。

J「俺は好きだよ?セナのスタイリング!お前らしいスタイリングを理解できない人をわざわざ相手にしなくていいじゃん?な?」

そう言って私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

メンバーの中でも1番、私と打ち解けていなかった人からの思いもよらない言葉に私は救われた。

そして…その優しい笑顔に…惹かれた…。

誰にでも見せる訳じゃない人懐こい甘えた笑顔…

この笑顔を私だけのものにしたい…もっと知りたい…

その気持ちをジョウキに伝えてもジョウキの言う言葉はいつも決まっていた。

J「俺さ今は彼女とかいらないから…ごめん…」

この言葉を何度言われたことか。

でも、私はどうしても諦める事が出来なくて、少し前にこれが最後と決めて告白した。

SN「すぐに好きになってとは言いません…でも私をもっと知って欲しい…仕事仲間としてではなく…女として…だから…3ヶ月でいいから付き合って下さい…」

私はダメもとで期限をつけて告白をした。

この3ヶ月で絶対に私から離れられないようにする。

私がいなきゃダメだと言わせるつもりで…

ジョウキはしばらく考えた後「分かった」そうポツリとつぷやいて私たちの交際は始まった。

付き合っても手すら繋いでこない。

会うのは私が会いたいと言った時だけ。

ただ会ってたわいもない会話をして別々の家へと帰っていくだけの仲。

大好きだった人が憎くすら感じはじめた時…

J「ごめん…気になる人が出来た…別れよ…」

SN「誰?気になる人って…」

その問いかけと同時にジョウキは腰のチェーンに吊るされたクマのキーホルダーを触りながらそれを愛しい目でみつめて…「ごめん」と一言だけつぶやいた。

SN「ごめんってなに?意味がわからない…3ヶ月って約束でしょ?」

私は震える手を隠しながら冷静を装ってジョウキに詰め寄った。

J「ごめん…無理だよ…もう…これからは仕事仲間としてやっていこう…」

SN「……。」

J「この事が原因でお互い仕事に支障をきたすのだけはやめよ…」

SN「……。」

J「ごめん時間だから…俺行くわ…今までありがとうな…」

行かないで…お願い…やだよ…1人にしないで…

私は自分から遠ざかっていく大好きな背中を見つめながら心で叫んだ。

つづく
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