二人の王子様はどっちが私の王様?

樺純

文字の大きさ
157 / 196

157話

しおりを挟む
ジョウキside

俺はホテルの部屋に戻り、散らかし放題の荷物を適当に片付けた。

すると、テーブルの隅っこに見覚えのない黒い紙袋が立てかけてあった。

俺は不思議に思いその紙袋を手に取り中を覗くと…そこには黒いジャケットが入っていた。

俺は不思議に思い首をかしげる。

チラっとその黒い紙袋を何気なくみるとそこにはゴールドの文字でcherry blossomと書かれてあった。

もしかしてこのジャケットはアナが持ってきてたのか?

そんな事を思いながら俺は焦る気持ちを抑えながら紙袋からそのジャケット取り出した。

胸元には金の糸で刺繍されたウサギのシルエットが浮かんである。

俺は恐る恐るそのジャケットに手を通すと自分でもびっくりするほど俺の体にフィットした。

ジャケットの襟を触りながら泣き腫らした顔で鏡をみていると、部屋のチャイムが鳴りそのジャケットを着たまま俺は扉を開けた。

するとそこにはハヤセくんが立っていて、俺の様子を見て驚いた顔をする。

H「ジョウキ…そ…そのジャケット…」

ジャケットを指差しながらハヤセくんは固まった。

J「…アナが忘れていったのかな?部屋に置いてあったんです。何気なく袖を通してみたらもしかして、俺の為に作ったんじゃないかと思うぐらい俺のサイズにピッタリなんですよね…」

俺はアナの名前を呼ぶだけで涙が溢れそうになるのを堪えながらハヤセくんに話した。

すると、なぜか目の前にいるハヤセくんが肩を震わせて泣いている。

J「…なんでハヤセくんが泣いてるんですか…?」

俺がそう問いかけるとハヤセくんは目をゴシゴシと擦りながら言った。

H「それ…アナがジョウキの為に作ったジャケットなんだよ?凄く評判もよくて周りが売れるって言ってもそのジャケットの販売はアナが許さなかったらしい…」

J「そんな…なんで…なにも言わず置いて行くんだよ…アナ…」

ハヤセくんの話を聞いてまた泣きそうになる俺はいつからこんな泣き虫になったんだろ。

 H「アナはこのジャケットのモデルを私の大切な人だって初恋の人なんだって話してたらしいよ。スタッフのみんなはそのモデルとなった人をいつしかゴールドラビットって勝手に呼んてたんだって…それってジョウキのことだろう?」

ジャケットの内側にはCHIERIと刺繍されていた。

J「このCHIERIって…」

H「アナのこっちでのデザイナー名だって…チエリってアナの前の名前だね…。」

その懐かしい名前に目頭がまたジワリと熱くなり、俺は部屋を飛び出してアナの家へと走り出していた。

真っ暗闇のなか大きく浮かぶアナの家を俺はじっと見つめた。

月明かりがやたらと明るく感じて今の俺には眩しい。

どこがアナの部屋なのかなんて分からない。

でも、俺は月に祈った…

もし、この先の俺の人生に幸せというものが残っているのならば、どうか、その幸せを全てアナに譲ってください。

アナの代わりに苦痛は全て俺が受けます。

俺はアナと過ごした思い出さえあればそれで十分です…

と…

次の日

俺はどうしてもこのままイギリスにいるのが辛くてマネージャーにワガママを言った。

J「すいません。せっかく社長が気を使ってオフを入れて下さったのですが俺、先に帰国したいです…」

マネ「え!?急にどうしたの!!」

J「すいません…できれば今日のフライトで帰国したいです…」

俺の突然のお願いにマネージャーは驚きを隠せない。

H「俺も一緒帰ります…ジョウキひとりで帰らせられないんで…」

ハヤセくんはホント優しい。

昨日も俺が夜中に一人、部屋を飛び出したあとも俺が戻ってくるまでずっとロビーで待ってくれていた。

J「ハヤセくんごめん…」

H「何言ってんだよ。気にするな!じゃ、お願いしますね…」

マネ「せっかくのオフ楽しめばいいに…分かった飛行機の手続きはしておくから…」

そう言って何も知らないマネージャーは不思議そうな顔をしていた。

部屋に戻りトランクに散らかった荷物を詰め込んでいく。

この3日間で俺は一生分の涙を流したような気がした。

長いような…短いようなそんな3日間だった。

そして、俺はあのジャケットをトランクに詰め込む。

アナ…このジャケット…俺がもらってもいいんだよな?

荷物を詰め込んだトランクを立たせながら自分も立ち上がる。

そして、俺はそのままハヤセくんと一緒に空港へと向かった。

3日前

この空港に着いたときはまさかこんな事になるなんて思ってもみなかった。

足早に歩く人波はまるで俺が見えていないかのように通りすぎていく。

俺はその場で立ちすくみ、キーンと耳の奥が鳴り響き音が止むまで目を閉じていた。

H「ジョウキ、そろそろ時間だよ?行こう。」

ハヤセくんのその言葉でゆっくりと目を開け歩き出す。

きっとまた、アナに会えると信じて。

そうして俺はイギリスを離れた。

帰国するとそこは何も変わらないいつもの見慣れた街並み。

変わってしまったのは一体なんだろ…?

ふと、何気ない違和感を感じた。

H「ジョウキ…アナの手術が終わったらまたイギリスに行こう…」

隣にいたハヤセくんが俺にそう言った。

J「うん……」

H「アナならきっと大丈夫。下ばかり見ててもダメ。苦しくても辛くても俺たちは前を向いて進む。ジョウキ、お前なら大丈夫だって俺は信じてるからな…」

そう言ってハヤセくんは俺の肩に手を置き強く力を込めた。

J「覚悟はとっくに決めてる。アナに何があろうと俺はアナへの気持ちは変わらないから…」

俺がそう言うとハヤセくんは優しく微笑んでくれた。

つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

夢見るシンデレラ~溺愛の時間は突然に~

美和優希
恋愛
社長秘書を勤めながら、中瀬琴子は密かに社長に想いを寄せていた。 叶わないだろうと思いながらもあきらめきれずにいた琴子だったが、ある日、社長から告白される。 日頃は紳士的だけど、二人のときは少し意地悪で溺甘な社長にドキドキさせられて──!? 初回公開日*2017.09.13(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.03.10 *表紙イラストは、イラストAC(もちまる様)のイラスト素材を使わせていただいてます。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...