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第一章 出会い編

第六話 過去の恋人③

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「……あの時のあれがルーイの本心だったのなら、今頃は良い思い出だと笑えていただろうな」

「……それは、一体どういう意味ですか?」

 僕が尋ねると、ほんの少しだけフリードリヒ様の表情が歪んだ。その表情を見て、僕の中で嫌な予感が芽生える。その言い方だと、まるでルーイのフリードリヒ様への思いが嘘だったと言っているように聞こえたからだ。

 だが、僕の嫌な予感は見事に的中してしまったらしい。フリードリヒ様は、どこか悔しそうにルーイの本当の思惑を話し始めた。

「……あいつが、俺のことが好きだから恋人になりたかったわけじゃないと知ったのは、別れることになる少し前だった。貴方よりも良い人を見つけたから、別れて欲しい。貴方なんかに、僕は勿体ないから――。あの日、俺はあいつにはっきりとそう言われた。ルーイが俺に近づいたのは、裕福な暮らしをする、ただそれだけのためだった。」

(……っ、酷い)

 あまりの言い様に、僕は絶句した。どう考えても、フリードリヒ様ではなくルーイの方に問題があるのだとはっきりと分かる話に、正直怒りすらこみ上げるくらいだ。

「……中々良い性格をしているだろう? まぁ、騙された俺も間抜けだったんだが……」

 それまで、ずっと恋人として上手くやれていたと思っていたのだと、フリードリヒ様は言う。

 最初――、ルーイとどう付き合っていけば良いのか分からなくて戸惑っていたフリードリヒ様だったが、家族との関りが減り、精神的にもかなり堪えていたフリードリヒ様にとっては、ルーイとの時間はいつしか心の底から安らげる時間になっていたそうだ。

――変わったように見えて、ルーイは昔と変わっていないのかもしれない。

 若干気は強かったが、フリードリヒ様の前では決して声を荒げることもなく、穏やかに接してくるルーイに対して、フリードリヒ様はそう思い、少しずつルーイに惹かれていった。気づけば、フリードリヒ様は、ルーイにだけ心を許すようになり、ルーイもフリードリヒ様のことを一番に考えてくれている。少なくとも、当時のフリードリヒ様はそう信じ込んでいたらしい。
 
「まぁ……実際にはあいつは相当我慢して俺に接していたようだがな。そもそも、俺ではなく本当は兄の方が良かったとまで言ったからな。今思うと、兄には先に声をかけていて、断られたから俺のところに来たのかもしれないな」

 フリードリヒ様は自嘲するように笑うが、はっきり言って僕は全く笑えなかった。あまりに失礼すぎるし、もしかするとフリードリヒ様の家族が反対していたのは、ルーイのそういうとんでもない部分を良く知っていたからなんじゃないかな……。

 ちなみに、かなり高いものを強請られても簡単に買い与えてしまうようになっていたフリードリヒ様は、ルーイの思惑には本当に全く気付いていなかったらしい。父や兄から警告をされても、フリードリヒ様は一切聞き耳を持つことはなかったそうだ。

 少しだけ我儘な恋人。それがフリードリヒ様がルーイに抱いていた印象だったらしい。

(まぁ、フリードリヒ様は王族の上に美丈夫だ。まさか自分が遊ばれているなんて思わないだろうな……。たとえ二股をかけられていたとしても、どちらかといえば本命の方になるタイプだよね)

「ルーイからの別れ話はいきなりだったんですか?」

「俺の当時の感覚では、な。実際はずいぶん前から他の男とも関係があったんだろう。俺は腐っても王族だったからな。遠征やら外交やらで国を空けることも多かったし……。結局、最後は言いたいことを言った後、俺が貢いだものもすべて換金して、新しい男の所に逃げて行った。ちなみに、相手は他国の王族だ」

「……最低ですね、ルーイさん」

 僕はその話にげんなりとした表情で肩を落とした。中々いない程のクズっぷりだ。

 ナオヤ先輩にも勝るとも劣らない感じで、何だろう。フリードリヒ様のことを少しだけ身近に感じられた。僕も男運がないけれど、フリードリヒ様も相当なんじゃないかな。

「俺も遊んでいる方だったが、さすがにあれは堪えた。兄が言うには、かなり前からそういう奴だったらしいが……人は変わるんだということが、あの日良く分かったな」

 母親は今も善良だぞ。冗談めかしてフリードリヒ様は言うが、僕にはその冗談を笑い飛ばせるほどの鋼のメンタルはない。

「でも……正直、話を聞いている限りではフリードリヒ様がそこまで執着するような相手だとは僕には思えないんですが、フリードリヒ様は本当にルーイさんのことが好きだったんですか?」

 

―――――――――――――――――――――――――――
次回④で六話終了となり、七話で第一章エピローグなります。
二章から、二人の本格的な恋愛パートに入りますのでよろしくお願いします。
※11/9一部修正しました
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