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1章 怪異・不可思議
04「好み」
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バイク乗りの知人から聞いた話。
彼は今でこそ大手の営業だが、若い頃はいわゆる
『ブラック』と呼ばれる会社で働いていた。
基本的に、プライベートなど考えない人間でないと
出来ない、労基法は元より、人権侵害レベルを
耐えられるほどでないと、勤まらないと言っていた。
「3ヶ月くらいかな。
丸1日お休みをもらえたのは3回くらい。
で、当時付き合ってた彼女と別れちゃって……」
電話がつながらなくなり、彼女に会いに行くよりも
脱力感が体中に染み渡り、半日ほど動けなかった。
「……そこから起き上がると、今度は
バイクにまたがって。
もうどうにでもなれ! って感じで、
どこかの峠を飛ばしていました」
途中、その峠の入り口の売店で一息ついたが、
年配の店主から
『公道ならいいが、山道に入るのは
今日は止めておきなさい』
と注意された。
何でも、山に入ってはいけない日だか
何かと説明された。
しかしその時の彼には逆効果で―――
あえて舗装されていない道へ道へと
バイクを乗り入れた。
気がつくと、日中とはいえ薄暗い林の中の
あぜ道を走っていた。
道がどんどん悪くなるのは理解していたが、
それでも引き返す気持ちは起きなかった。
さすがに道が茂みに変わり、道とは呼べなく
なった時点で、彼はバイクを停めた。
改めて周囲を見渡すと、その周囲と相容れない物が
視界に入り、彼の動きと視線を止める。
白い何かが……よく目をこらして見ると、
どうやら着物を着た女性のように見えた。
「まだ日は高かったですし、幽霊では
無いんじゃないかなぁ……と」
元々自暴自棄でもあった彼は、妙な度胸と冷静さで
その女性のいる場所へと向かった。
距離にして20メートルほど近付くと、やはり
女性である事が確認出来た。
「向こうもこっちに気付いたみたいで。
クルッと振り向いたんですけど」
目鼻立ちは普通、というより、顔の輪郭が
体毛に覆われていた。
さすがに顔全体が毛むくじゃら、というほどでは
ないが、どこかのミュージカルの顔部分だけを出した
着ぐるみのように思えたという。
「で、お約束でダッシュでこちらへ。
おおいかぶさるようにして来たんで、
背中を地面に打ち付けてしまって」
それでも、自棄になっていた彼は彼女の異様に長い爪や
匂いに関わらず、その目をジッとみていた。
どうも今まで襲ってきた獲物と違う―――
一瞬動きを止めた彼女に向かって一言。
「いいねぇ、アンタ好みだよ」
その言葉の意味を飲み込むまで時間がかかったのか、
沈黙が流れた。
そして噛みつかんばかりに重ねていた上半身を
引き起こす。
その顔は真っ赤に上気したように見えたという。
そのまま押し倒し返すようにして、今度は彼が上に
折り重なった。
夜の冷え込みに目が覚めると、女性は消えていた。
ただ、荒々しい獣臭と、行為の後のだるさが体に
残っていたという。
「山の神様は顔が酷いっていうけどさ、
今の基準なら結構イケルんじゃないかと
思っているんだが」
ちなみに、40後半になる彼はまだ独身で、
休日のツーリングは止める気は無いそうだ。
彼は今でこそ大手の営業だが、若い頃はいわゆる
『ブラック』と呼ばれる会社で働いていた。
基本的に、プライベートなど考えない人間でないと
出来ない、労基法は元より、人権侵害レベルを
耐えられるほどでないと、勤まらないと言っていた。
「3ヶ月くらいかな。
丸1日お休みをもらえたのは3回くらい。
で、当時付き合ってた彼女と別れちゃって……」
電話がつながらなくなり、彼女に会いに行くよりも
脱力感が体中に染み渡り、半日ほど動けなかった。
「……そこから起き上がると、今度は
バイクにまたがって。
もうどうにでもなれ! って感じで、
どこかの峠を飛ばしていました」
途中、その峠の入り口の売店で一息ついたが、
年配の店主から
『公道ならいいが、山道に入るのは
今日は止めておきなさい』
と注意された。
何でも、山に入ってはいけない日だか
何かと説明された。
しかしその時の彼には逆効果で―――
あえて舗装されていない道へ道へと
バイクを乗り入れた。
気がつくと、日中とはいえ薄暗い林の中の
あぜ道を走っていた。
道がどんどん悪くなるのは理解していたが、
それでも引き返す気持ちは起きなかった。
さすがに道が茂みに変わり、道とは呼べなく
なった時点で、彼はバイクを停めた。
改めて周囲を見渡すと、その周囲と相容れない物が
視界に入り、彼の動きと視線を止める。
白い何かが……よく目をこらして見ると、
どうやら着物を着た女性のように見えた。
「まだ日は高かったですし、幽霊では
無いんじゃないかなぁ……と」
元々自暴自棄でもあった彼は、妙な度胸と冷静さで
その女性のいる場所へと向かった。
距離にして20メートルほど近付くと、やはり
女性である事が確認出来た。
「向こうもこっちに気付いたみたいで。
クルッと振り向いたんですけど」
目鼻立ちは普通、というより、顔の輪郭が
体毛に覆われていた。
さすがに顔全体が毛むくじゃら、というほどでは
ないが、どこかのミュージカルの顔部分だけを出した
着ぐるみのように思えたという。
「で、お約束でダッシュでこちらへ。
おおいかぶさるようにして来たんで、
背中を地面に打ち付けてしまって」
それでも、自棄になっていた彼は彼女の異様に長い爪や
匂いに関わらず、その目をジッとみていた。
どうも今まで襲ってきた獲物と違う―――
一瞬動きを止めた彼女に向かって一言。
「いいねぇ、アンタ好みだよ」
その言葉の意味を飲み込むまで時間がかかったのか、
沈黙が流れた。
そして噛みつかんばかりに重ねていた上半身を
引き起こす。
その顔は真っ赤に上気したように見えたという。
そのまま押し倒し返すようにして、今度は彼が上に
折り重なった。
夜の冷え込みに目が覚めると、女性は消えていた。
ただ、荒々しい獣臭と、行為の後のだるさが体に
残っていたという。
「山の神様は顔が酷いっていうけどさ、
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