【完結】百怪

アンミン

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1章 怪異・不可思議

05「失う」

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知り合いのお坊さんの、そのまた知人から聞いた話。


その方も某寺で住職を務めており、いろいろと

人の相談に乗る事があるのだが、変わった話を

聞かせて頂いた。




「3、40年ほど前になりますかな……」




いつものようにお寺に相談に来た人の相手を

していたが、その人は最初からどこか奇妙に

思えたという。




「何と言ったらいいか……

 “足りない”んですよ」




何が? と聞くと、“人としての構成”というか、

条件を満たしていないのだと言う。

どこからどう見ても普通の、20歳前後の男性に

見えるのだが、とにかく違和感がついてまわるのだと。




内容は、実は彼の家は資産家であり、つい先年

両親に他界され、一人息子だった彼は両親の供養と

法事について、お寺に相談に来たのだという。




その青年と話しているうちに、体の動きが

どこかおかしいと感じ始めた。

お互いに座っているのだが、話す時の身振りに、

左腕が全く動かない。




「聞くと、生まれた時から肩から先、

 特にひじから下は全く動かない、

 そう言ってました」




先天的なものか―――

そう思っていると、それまで他愛もない

世間話程度しか話してこなかった青年が、

口調を変えた。




「左腕はそうです。

 ……今は、右足にも少し障害が。

 多分、もうすぐ右腕か、それとも左足か―――

 動かなくなると思います」




病気で? と問うと青年は首を横に振った。




「どうすればいいのか、わからなくて……」




彼には、子供の頃から見る夢があった。

気がつくと、どこか広い洋館の中にいる。

そこには妙齢の女性がおり、彼をいつも

暖かく出迎えた。




時には一緒にお茶を、時には食事を、そして

時には一緒にベッドで眠ったという。

不思議な事に、夢の中では彼の左腕は普通に動き、

その夢を見る事が楽しみになっていった。




そして日が経つにつれ―――

彼は夢の中でも同様に成長していったが、

その女性はその年齢のまま―――


恐らく20代後半、外見は日本人だが着物はどこか

西洋風というか貴族風で、顔も非常に目鼻立ちが

綺麗で短髪。

そのせいもあってか、彼は現実の異性に興味を

示さない(示せない)思春期を送ったという。




その知人は“色男”という表現を使っていたが、

話をまとめるとその青年も中性的といおうか、

今風に言うとビジュアル系の類だったのだろう。




さらに話を進めると、夢の中の彼は現実に合わせて

成長していくのに対し、夢の中の女性はいつまでも

そのままで―――

いつの頃から、恋人のような関係になっていった。




「それで……どうしたいのですか?

 それに、さっき言ってたもう片腕や片足が

 動かなくなるかも、と言っていたのは?

 それと関係が?」




口にこそ出さなかったが、彼は夢の中の女性が、

自分が成長するにつれ独占欲が強くなっていくの

を感じていた。




また、夢の中では全ての健康というか状態が

リセットされ、左腕に限らず風邪だろうが

ケガだろうが、夢に入れば五体満足な生活を

満喫出来た。




「今考えると―――

 幼い時は左腕が自由に動くから、喜んで

 夢を楽しんでいたと思うんです。

 右足が動き辛くなった時も。

 だから、もし不自由な部分が増えたら―――」




彼女がそれを望んでいる?

出来る能力がある?

そもそも、彼女は何者なのか?

次々と質問をぶつけてみたが、




「……わかりません。

 ただ、子供の時から

 『ずっとここにいてもいい』みたいな事は

 言ってましたが……

 最近、それを言う回数が増えてきたような……」




その後、何度か相談に乗る機会があったが、

両親の永代供養を頼みに来たのを最後に、

来なくなった。

彼が20代半ばの頃だったという。

しばらくして、行方不明になったと聞いた。




人づてに聞いたところ、警察も動いたらしいが、

資産に手をつけてない事、室内にも荒らされた

形跡が無かった事から、事件性は無いと

判断されたという。




「どこに行ったんですかね」




「選んだのは彼ですし、彼の責任です。

 彼は彼の出来る範囲で幸せをつかんだ―――

 という事だと思いたいですね」




救えなかった、という事ではないと思いたいだけかも

しれないですけど……

そう付け加えると、彼はお茶に静かに口をつけた。



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