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1章 怪異・不可思議
11「部屋」
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「去年、引っ越したんですけど」
話をしてくれたのは、30代の印刷業の男性だった。
前の部屋はマンションの最上階で、玄関が角になって
おり、そこの天井と壁はガラス張りという造りだった。
「日当たりはいいんですけど、真夏や真冬はそれなりに
苦労しました」
直接日差しが入るのはいいのだが、炎天下ともなれば
遮光シートを張らねばならず、極寒の日は結露対策に
頭を悩ませた。
「で、そこは角なので余地というかベランダのような
ところがあったんですけど」
恐らく業者しか出入り出来ないようで、
居住者は入れない造りになっていたが、
そこにいつの間にか蜘蛛が巣を張っていたという。
「女郎蜘蛛っていうんですかね。
お腹がまだら模様の……
かなり大きな巣でした」
最初は気味悪く思ったものの、ガラスで仕切られて
いるので別段入ってくる事はない。
「で、しばらく放置というか……
まぁ手が出せるわけでも出す気もないので、
放っておいたんですよ」
だが、玄関に入れば否応でもそれは見える。
出かける時、帰ってくる時―――
時が経つにつれ慣れというか、愛着のようなものも
わいてきたという。
「でもね、1年くらいでいなくなっちゃったんです。
帰ってきたら巣が破けていて―――
鳥か何かにやられたのかな、って」
いなくなっても困る事は無いが、寂しく感じたという。
そしてその夜、蜘蛛の身を案じながら布団に入り、
眠りに落ちようとした時―――
「何かね、布団がこう、
ふわっと浮き上がったんです。
猫とか犬とか、小動物が入ってくるような感じで」
そして寝入った彼は奇妙な夢を見た。
真っ白な着物を着た女性と一緒の布団で眠っている。
ただそれだけなのだが、それを不思議とも思わずに
一緒に寝続けた。
それからすぐに引越したのだが、次の部屋もまた
窓から蜘蛛の巣が見えるようになった。
やはり女郎蜘蛛で、引っ越してから1ヶ月も
経たないうちに巣を張ったという。
「その女性の夢は、かなり疲れた時に見るように
なりました。
なぜかはわかりませんが、夢を見た後はすごく
心身共に回復しているというか……
これっていい事なんですかね」
知り合いのお坊さんに話してみると、
今は大丈夫だろう、との答え。
「今は?」
「その人は独り身でしょう?
その間は大丈夫です。
……しかし、今結婚率が下がっていると
言われていますが、もしかしたら
こういう事も原因かも知れません」
そう言って初老の坊主は笑った。
話をしてくれたのは、30代の印刷業の男性だった。
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おり、そこの天井と壁はガラス張りという造りだった。
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苦労しました」
直接日差しが入るのはいいのだが、炎天下ともなれば
遮光シートを張らねばならず、極寒の日は結露対策に
頭を悩ませた。
「で、そこは角なので余地というかベランダのような
ところがあったんですけど」
恐らく業者しか出入り出来ないようで、
居住者は入れない造りになっていたが、
そこにいつの間にか蜘蛛が巣を張っていたという。
「女郎蜘蛛っていうんですかね。
お腹がまだら模様の……
かなり大きな巣でした」
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ふわっと浮き上がったんです。
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