【完結】百怪

アンミン

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1章 怪異・不可思議

21「氷水」

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「二階建てのね、一階に住んでいたんだけど」




その男性は借家に住んでいた。

一戸建てだが、一階と二階が分離・独立した

造りになっており、お互いのプライバシーは

守られていた。




「それでも生活音といいますか、

 足音とかちょっとした大きな音とかは

 聞こえてましたけどね」




彼はプログラマーで、二階の人は老人。

深夜帰りの多い彼は基本的に接点が無く、

無関心な日々を送っていた。




「でもね。タイミングってものが

 あるでしょう。

 いくら何でも生活の音がしない

 日が続き過ぎると……」




5日間ほど、上から全く音がしないのが

気になった彼は、管理人に連絡。

結果、衰弱しきった老人が発見され、

そのまま入院という流れになった。




「いくら何でも、上の階で死なれちゃ

 後味悪いですから。

 その時は胸をなでおろしましたよ」




だが、そこからがおかしかった。

取り合えず警察から事情を聞かれる事に

なったのだが、何かいちいち引っかかる

言い方をしてきたという。




「本当に誰も来なかったのか、とか。

 ドアの開け閉めの音はしたか、とか。

 1年くらい住んでましたけど、その人の

 知り合いは見た事無かったんで」




警察は当初しぶっていたが、事情を説明し始めた。

曰く、老人というのは抵抗力が極めて弱い。

ちょっとした風邪、ケガでも死に至る。

上の階の老人は神経痛か何かで動けなくなった

らしいのだが、1週間ほどその状態でいたらしい。




「でも、一応布団には寝かされていたし、

 何より食事はどうしていたのか、

 それがわからなかったみたいで」




数日後、その老人から彼に管理人つてに連絡が来た。

入院したはいいが、そのまま寝たきりになって、

戻れない可能性が高いので、出来れば部屋の

後始末などを頼みたい、という事だった。




そこまでの義理は無いと思いつつも、もう部屋に

戻る事が無いのならばと、見舞いも兼ねて老人に

話を聞きに言った。




「そこでついでというか……

 どうやって一週間も飲まず食わずでいられたのか

 聞いてみたんです」




聞くと、夢の中で食事をしていたのだと答えた。

バカげた話かも知れないが、見知らぬ、しかし

以前から知っているような中年の女性が、夢の中で

あれこれと世話をしてくれたと。




「喉がすごく渇いてな。

 するとすぐに氷水を持ってきてくれた。

 冷たくてうまかったなぁ……」




夢の中で食事をして、本当にしたと錯覚した事で

助かったのかなあ、とあまり深くは考えず、

後処理の詳細を聞いて病院を後にした。




家に帰ると、管理人の許可をもらって

後片付けに入った。

とは言え、基本的にする事は中にある荷物を

全て捨てる事くらいである。




「管理人は、どっちみち専門の業者に依頼する、

 とは言ってましたけどね。

 でも一応はこちらも頼まれたので。

 それほど荷物があるわけでも無いし、

 作業自体は楽でした」




と、一通りゴミ袋にまとめたところである物が

目に入った。

ネコ缶である。

しかし、ネコトイレやエサ入れが無いところを

見ると―――




「ここはペット禁止だったんですけど、いわゆる、

 “通い猫”がいたんでしょう。

 もう戻ってくる事はないんだし、管理人や大家には

 内緒にしておこうと思って、それ絡みの物も全部

 ゴミ袋に入れました」




ふと、台所の方から風が入ってきた。

その窓、少し開いた隙間に、おそらくその

通い猫と思われる猫が立っていた。




取り合えず残っていたネコ缶でも、とゴミ袋を

開けようとした時には、すでに猫は消えていた。

そしてゴミ袋の口をまた閉じて、部屋を出ようと

玄関の方へ振り向いた時―――




「氷水の入ったコップがあったんです」




部屋の中央、床にそれは突然出現した。

もちろん自分が用意した覚えはない。

なぜか手をつけてはいけないような気がして、

ゴミ袋をぶつけないように注意しながら、

彼は部屋を出た。




「というかね、考えてみれば引っかかる言い方とは

 思っていたんです。夢の中の事を


 “冷たくてうまい”


 って言いますかね」


ちなみに、その猫は少し太り気味の茶トラ

だったそうだ。
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