【完結】百怪

アンミン

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1章 怪異・不可思議

48「ヒワ、カナ」

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山登りを趣味とする初老の男性から聞いた話。




「北関東の生まれでさ。

 周りがみんな山。

 山なんて珍しくもなんとも無かったのに」




それでも趣味になるくらい、

山には何かしら魅力があるらしい。




「だけどね、俺ぁ今でも

 家の近くの山だけは登らない」




どうして? と聞くと、

怖いから、とボソッと答えた。


その山は子供の頃からの遊び場で特に険しいという

ものでもなく、山というより丘と言った方が正しい

程度のものだった。




「遊び場って言ったけど、俺だけじゃない。

 あの辺のヤツラはみんなあそこで遊んでいたんだ」




ただ、大人たちからは常に注意された。

特にまだコンクリート舗装されていない川の

上流に行く事は厳禁だった。




「それを聞かないのがガキってものでね。

 大人が見回りをして、とっ捕まえられてはよく

 張り倒されていたよ。

 ま、俺もそのうちの1人だけど」




その上流は両岸が切り立った崖のようになっている

地形があり、そこが安全上の問題になっていた。




「飛び込みやすい地形だもんな。

 10mはあったんじゃないか?

 そりゃ、度胸試しにゃ格好の条件だよ」




飛び込んだ後、また飛び込むには川に沿って

下流に戻り、そこから崖上への道をたどればいい。

しかし、それには時間がかかる。

面倒くさいから誰もやらない。

ではどうするかというと、




「崖を登るんだよ、バカだから。

 ロッククライミング?

 っていうのか。ああいう要領で」




崖の途中で突き出ている突起部分や、

生えている木の枝などを器用につかみながら、

崖上まで登るのだという。




「で、俺が登ってた時なんだけどさ。

 落石にあったんだ。

 それほど大きい石じゃないけど、

 顔くらいの大きさはあったな」




危ない! という仲間の声に顔を上げた時には、

もう目前まで迫っていた。

子供心にも“あ、死んだ”と思ったという。


その瞬間目をつむった。

しかし、いつまで経っても石がぶつかる気配が無い。

恐る恐る目を開けると、頭上で誰かが背中越しに

腕を突き出し、石を握っていた。


その突き出された手は爪が異様に長く、

しかし腕回りは白く細かった。




「ヒワ、カナ」




その声で、後ろにいる存在は女性だと気付いた。

その気配が消えるのと同時に、仲間の声が

戻ってきたという。




「後で聞いたんだが、落石が俺の真上で岸壁に

 ぶつかって跳ねたと。

 運が良かった、良かったって」




それ以来、彼は飛び込みを止めた。

仲間も、それを臆病とは言わなかった。

また、改めて危険を認識した事もあり、飛び込みは

誰彼言う事なく行われなくなっていった。


彼は、子供の頃は父親が怖くてそれを黙っていたが、

一緒に酒を飲めるようになった時、それを初めて

明かした。

父親はじっと彼の目を見て言った。




「止めて良かったな。

 それと―――もうあの山には入るな」




父親が言うには、

まだヒヨっ子、未熟だから助けてくれたのだろう、

との事だった。




「ヒワ、カナは

 “ひ若いな”

 と言ったのだろうと説明してくれた。

 年下や未熟者を見下す言葉、だとさ」




しかし、今さら山に積極的に入る気も無いが、

どうして入ってはダメなんだ?

そう父親に聞くと、




「お前は目を付けられた。

 釣りだって小魚が釣れたら逃がすだろ?

 次は、無い」




その父親も10年前に鬼籍に入ったという。

未だ独身の彼は、もし死期がわかればあの山に

登るよ、と笑った。



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