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61・客層の設定
しおりを挟む「それで、あの……
ヒロト様の眷属となる件―――
お受けしたいと思います」
「よろしくお願いしますっ」
エンテの街から、ローラさん・プリムちゃんが
来てから二日目の朝、
お客様待遇だった他の冒険者二人と一緒に
食事を準備していたところ、不意に母娘が
口を開いて出た言葉がそれだった。
「えーと、眷属の条件を言いましたよね?
生殺与奪の権すら俺が手にするって。
何というかこう、もう少し考えた方が……」
話がうまくいくに越した事は無いのだが、
こうもあっさりと通ると何とも。
「ここでの生活を1日でも体験したら、
断る理由はありませんよ」
「僕も絶対出たくないもん、ここ」
一緒に接客を担当している、リナとグレンが
当然というように語る。
「今のところ、眷属を断るメリットなんて
俺たちにも無いですよ」
「そーそー。
むしろ募集かけたらそれこそ、アタシらのような
食いつめ者の冒険者が殺到するって」
クラークさんとミントさんも食べながら同意する。
今のところ信用出来る人間しか眷属にしたく
ないので、それはそれで問題なのだが。
「それに―――
子供たちの顔を見ればわかりますわ。
理不尽な扱いも受けていなければ、
みんな笑顔で……」
「あの『げぇむ』という魔道具も、すごく
楽しいです!
次こそは絶対1位取ってやる……!」
施設が好評なのは何よりだが―――
娘さんはともかく、お母さんの方が
そこまで乗り気になる理由が引っかかる。
例えば冒険者の二人なら、このダンジョンから
高額の商品を仲介出来る。
なので俺に従いつつ、俺も彼らに利益を提供
出来るのだ。
だとするとローラさんが、俺に求める利益とは?
メリットとは何だろうか?
「時にローラさん。
俺からは、あの宿屋をダンジョンに通じる
拠点として使わせて欲しい、という事は
お話ししました。
当然そのためには、あなた方をそのまま
あの店に置くのは問題ありません。
その上でそちらからの要望は何か……」
俺がその事について切り出すと、
「それではぜひ、あの厨房と同じものを!
火力を一定に調整出来る魔道具に、
小さくても焼ける窯、料理を皿ごと熱する
窓のついた箱……!
それに見た事も無い食材や調味料、上質な小麦や
油がそろっていて―――
あれを使って料理が出来るのであれば、
何も言う事はありません!」
ロングのシルバーの髪がテーブルの上に垂れるのを
手で抑えながら、彼女は身を乗り出して熱く語る。
つまり料理人魂に火がついた、というところか。
ドラッグストアにこの世界の医者とか連れて
来たら、ハイテンションになるんだろうなあ、
と思っていると、
「ローラさん、喫茶店の厨房やコンビニ、
ドラッグストアの食材を食い入るように
見てたし」
「料理する人に取っては―――
まさに別世界でしょうね」
リナとグレンが補足して説明してくれる。
まあ、それもこちらに取っては好都合だ。
本格的に売るにしろ出すにしろ―――
異世界そのままの状態では目立ち過ぎる。
それをこちらの世界の料理人がうまく調理したり
カスタマイズしてくれれば……
目を付けられる可能性も減るだろう。
「そういえばローラさん、この料理って
いくらくらいで売れますかね?
俺が召喚される前にいた世界では、
こちらでいえばだいたい5から10エンダール
程度だったんですが」
すると母娘二人は同時に首を左右に振り、
「や、安過ぎます!」
「どう考えても30エンダール……
店によっては100エンダール取っても
おかしくない質と量ですよ!」
さすがに飲食店の本職。
以前、リナにも同様の事を聞いた事があったけど、
『これだけの味なら、お金持ちか貴族様くらいしか
払えない』
って言われたし。
「ただまあ……
俺としては、これで商売する気は無いので。
呼び水というか宣伝というか」
「と言いますと?」
戦士タイプの冒険者が食べる手を止めて
質問してくる。
「クラークさんやミントさんのような、
冒険者に来て頂かなければ、ダンジョンとして
成立しないので。
ですので、まあ―――
ダンジョンに関係の無い方々には割高で
30エンダールほど……
冒険者の方々には5エンダールくらいで
提供しようかと」
「なるほど。
一般人や貴族様には、高く売りつけるって
事だね」
次いで女性シーフが続けて答え―――
「冒険者には安く売る、と言い換えても
いいかも知れません。
ダンジョンに取ってはそちらが『お客様』
ですので……」
俺の言葉でみんなが笑い、
「では、ローラさんの宿屋にお客様が来た場合は、
冒険者の方だけ格安で料理を提供する……
という事で」
「でも、どういう理由で―――」
リナの言葉にグレンが考え込む。
確かに理由は必要だよな。
「あ、ええと……
そこまで心配する事は無いかも知れません。
そもそも私どもの宿屋は立地条件がスラム
寄りですので―――
客層も、もともと冒険者さんが主ですから」
「逆に一般人の方は、なかなか入って来れないかと
思います~……」
宿屋の母娘が申し訳なさそうに語る。
そういえば安い立地条件って聞いていたしなあ。
「じゃあ、俺たちも冒険者ギルドで宣伝
しておきますか。
ギルドの身分証見せれば、安くてうまい料理が
食える店があるって」
「いや、それはちょっと待ってください。
冒険者をターゲットにするのはいいんですけど、
誰でも、という訳には」
「あぁ……そうだね。
中にはタチの悪い―――
というより、そっちの方が多いしね、冒険者は」
こうして、今後の話はまとまった。
実際、冒険者をターゲットにするのは、また
別の理由があるのだが……
それはおいおい話す事にしよう。
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