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65・眷属追加(貴族)
しおりを挟む「スー……スー……」
ダンジョンの一室―――
静かな室内で、ただ少年の寝息が聞こえる。
ローラさんが用意した病人食を食べた後、
抗生剤を飲ませ……
ようやく落ち着いた感じだ。
「ここしばらく……
こんな安らかそうな寝顔は見た事が
無かったな」
「ええ、あなた」
ハーレイドッグ子爵夫妻が、我が子の眠る姿を
見て、安心したように一息つく。
「もう、大丈夫と見て良いのだな?」
アマンダ様がこちらに顔を向け、状況を
問い質してくる。
「そうですね。
一応、危機は脱したかと。
念のため一晩様子見して―――」
そこでチラ、とガド様の方を見た後、
ベッド上のロイ様に視線を落とす。
「……なんでも正直に言って欲しい。
ここに来て、急激に容態が快方に向かったのは
認めている」
子爵様の言葉に、俺はいったんコクリと
うなずいて、
「明日、熱が下がっていればもうお戻りに
なられても問題無いと思います。
慎重を期すのであれば、5日ほどここで
お休みになられた方がよろしいかと」
「ウム。
確かにここは、環境も食事も申し分ない
ように見える」
護衛の女性が、肯定するように同意する。
「……わかった。
今日1日、私も世話になる。
明日何事も無ければ、私だけ先に屋敷へ戻ろう。
マリア、そしてアマンダ。
ロイの事を頼む」
ガド様の言葉に、ブロンドの長髪の妻、
控えていた目つきの鋭い女性が頭を下げ、
「ええ」
「命に代えましても!」
そこで俺はふぅ、と軽く息を吐いて、
「コマチさん。
リナを呼んで来てください。
マリア様、アマンダ様は―――
お風呂に入られてはいかがでしょうか。
ここにはその設備も用意してありますので」
二人はその言葉に顔を見合わせ、
「で、でも……」
「護衛として、子爵様の側を離れるわけには」
するとガド様が片手を挙げて、
「いいから彼の言う通りにしなさい。
ロイは私が見ておくから。
それに、何かするとしたらとっくにもう
やっているだろう。
ここは安全だよ」
彼の言う事に彼女たちは納得したのか、
腰を浮かせていたイスに座り直す。
「さてと、その前に……
何もかもしてもらった後から言うのは、
気が引けるが。
『条件』とやらを言ってくれ」
「あー……
そういえばまだでしたね」
彼らは俺の言葉に目を丸くする。
そこで改めて条件を口にし、
「俺の眷属になって頂きます。
これはかなり強力な制約があって―――
生殺与奪の権すら俺に握られます。
ですから、一晩よく考えてからでも」
するとガド様はすっ、と手を挙げ、
「しかし……
それならなぜ、先に眷属にさせなかったのだね?
ロイの苦しんでいる具合から見て、私たちは
一も二も無く承諾するしかなかったはずだ」
俺はその問いに眉間に人差し指をあてて、
「その子―――
ロイ様……病人が苦しんでいましたから。
緊急事態と判断し、治療を優先しました。
それだけです」
俺の答えに、アマンダ様が両腕を組んで、
「しかし、もうロイ様の具合はかなり回復
したようだ。
もしこちらが、眷属になるのを拒否したら
どうするつもりなのだ?」
「……その場合は、この街にいる事は出来なく
なりますので。
この施設ごと俺たちは姿を消す事になると
思います。
ちょっとまあ、込み入った事情があるので。
眷属にするのも、情報を流出させないためと
言いますか」
それを聞いたマリア様が、体を息子の寝ている
ベッドに向けたまま、
「もし眷属になれば、その事情とやらを教えて
もらえるのですか?」
その問いに、俺はコクリとうなずく。
「……わかった。
眷属になるのを認めよう」
「子爵様!?」
ガド様が条件に合意する意思を示し、思わず
護衛の女性が聞き返すが、
「すでに息子を救ってもらったのだ。
本来なら、条件を飲んだ後にしてもよかった
ものを、彼らは治療を優先してくれた。
そして今、騙す事もせずに誠実に条件を
話してくれている。
何者であれ、信頼に値すると思うが」
その言葉に彼女は身を引き―――
そして改めて三人が、眷属になる事に合意した。
「で、では……
我が国が召喚した勇者の1人だったと!?」
「子供だというだけで、口封じに
殺されかけたなんて……!」
「なんと恥知らずな―――」
ガド・ハーレイドッグ子爵、
マリア・ハーレイドッグ子爵夫人、
そしてアマンダを眷属にした後、こちらの
事情を説明する。
もとは魔王に召喚されたが、その最中に
クレイオス王国の勇者召喚の儀式に呼ばれて
しまった事。
自分を呼ぶのは想定外だったのか、すぐに
処分命令が下った事。
そこから逃げ出し、現在に至るまでの事などを。
「とまあ、そういう事ですので……
俺が生きていると知ったら、あの王女は絶対に
刺客とか差し向けると思うんですよね。
こちらとしては元人間ですので、率先して
人殺しはしたくないですし―――
ダンジョンもご覧の通り、非殺傷のもの。
立ち位置としては、ダンジョン管理者にして
勇者、という事になっているらしいので……
どちらにも肩入れはしたくないって感じです」
話し終えると、彼らはため息とも呆れとも
取れない息を吐いて、
「確かにそれは、秘密厳守しなければ
ならない事ですな。
クレイオス王国の一員として謝罪する。
申し訳ない」
頭を下げる子爵様に俺は慌てて、
「ま、まあ眷属になってもらったのはそういう
理由があったと理解してもらえば結構です。
後は別に、配下として動けとか無理強いや
命令はしません。
ただこちらの商売に協力してもらえれば」
「でも、まさか王国が絡んでいたなんて……」
「あの王女、野心家とは思っていたが」
奥さんと護衛の女性も、複雑な気持ちを
口にする。
そこにちょうどノックの音が聞こえ、
「ヒロトお兄ちゃん?
あ、そちらの方々ですね?
お風呂にご案内するのは―――」
そこでまずは、女性陣から交代でここのお風呂を
経験してもらう事になった。
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