86 / 203
86・先達来たりて
しおりを挟む「じぃじー!」
「ばぁばー!」
眷属である小さな子供たちが、六十代くらいの
イスに座る老夫婦に飛び付く。
「ほっほっほ。
元気じゃのう」
「ガド子爵様の小さい頃を思い出しますわ」
ハーレイドッグ子爵家の地下にダンジョンを
作ってから数日後……
子爵家の元使用人で、引退・隠居していた
ジル夫妻が来てくれた。
警備のための元女性騎士団の他に、手配すると
約束していた人員で、
平民ではあるが元教職に就いていて、
歴史・教養に精通しており、貴族間の信頼も
厚い人物。
そしてガド子爵様の教育係でもあった。
そんな彼は、子供たちもすでに
独立しており―――
こんな身でもお役に立てるのであればと、
快諾してくれたそうだ。
「コラ!
この方たちは、君たちをお世話するために
来てくれたんだから……!」
俺が注意すると、上品そうな白髪と白ヒゲを
たくわえた老人は、
「構いませんよ。
子供はこれくらい元気でなければ」
「それにここに来てから、食事が変わったせいか
私たちも元気になった気がするんです」
妻であるルーナさんも、膝の上に女の子の
頭をのせて撫でる。
実際、衛生観念の違う異世界で、
老人の暮らしは厳しいだろうな。
エアコン付きの休憩エリアに住むだけでも、
雲泥の差がある。
「そういえばヒロト殿。
また何か聞きたい事はございますかな?」
「あ、はい。
出来れば会議室の方で―――」
と、ジル夫妻になついている子供たちに
目をやると、
「おお主、ここにいたか」
「子供たちならこっちで面倒見るから、
大丈夫だよー」
パトラとコマチがひょい、とくっついていた
幼い子供たちを抱え上げる。
「すまぬのう、パトラさん、コマチさん」
「じゃあ子供たちをお願いしますね」
まるで義理の娘に話しかけるように声をかけると、
彼女たちもペコリと一礼して、その場を去った。
「……さて、前はどこまで話したかのう」
会議室で長テーブルを挟み、老夫婦と
対峙する。
俺の隣りには妻であるリナが座り、
「お似合いの夫婦ですわねえ。
結婚してなかったら、孫に紹介したかったのに。
惜しいわぁ」
「あ、あたしはもうヒロトお兄ちゃんの
ものですからっ」
ルーナさんの言葉に、顔を真っ赤にして
答えるリナ。
それを暖かい笑みで見守るジル夫妻。
「……コホン。
えーと、この国、クレイオス王国と、
魔族との関わりについてはさわりだけ―――
近況としてはどうなのでしょうか」
俺が話を進めると、
「そうじゃのう。
確かワシの若い頃じゃったが、聖教会が
国軍を動かし……
メルダ魔王軍に手痛い反撃を受けた事が
あった。
それ以来、聖教会は発言力を落として
いたようじゃ」
「国軍が動いたというのは、それは魔王軍から
侵攻を受けたとか、そういう事ではなく?」
俺が聞き返すとジルさんは首を左右に振り、
「多少の小競り合いはあったと思うが、
魔王軍から攻められた記憶は無い。
だから先代国王も、軍を動かすには
かなり慎重だったのじゃが」
国境を接するのであれば、大なり小なり
衝突はあったんだろうけど―――
さすがに国のトップは本格的な戦争を
回避する方針でいたのか。
しかし宗教の方が好戦的ってのはなあ……
どの国もどの世界も。
「お兄ちゃんのような、勇者召喚って
今まであったのですか?」
リナが俺の件について質問し、
「それも聞いた事は無い。
ただ別世界から何者かが来た―――
という伝承はいくつか残っておる。
恐らくは王族か王国に都合の良い人間を
召喚し、それを勇者と呼んでいるだけでは
ないかのう」
まあ、それもそうか。
一緒に召喚ばれたであろう彼らだって、
元の世界じゃ勇者でも何でも無かっただろうし。
そもそも勇者なんて職業自体、俺の世界には無い。
勝手に連れて来て勝手にそう呼んでいるだけだ。
「魔族が、別世界から人間を召喚したと
いう事は?」
「それこそわからぬ事だのう。
そもそも、魔族がそんな事を出来るなど、
記録も何も無いであろうし」
完全敵対関係だし、交流もしていない
だろうしなあ。
今度ホーンドさんが来たら聞いておくか。
ていうか、ホーンドさん魔族領に戻ったの
結構前だよな?
いつ連絡が来るんだろうと思っていると、
「じゃあ、ルーナさん。
最近の食品の相場とか物価を詳しく
お願いします。
ヒロトお兄ちゃん、別世界の人という事を
差し引いても、結構計算が甘いというか、
そういう事にうといので……」
「あらあら。
どこの世界でも殿方は……
奥さんがしっかりしているからと言って、
夫も生活の事とかは知っておいた方が
いいですよ?」
双方の妻から苦言を呈され―――
俺とジルさんは思わず肩をすくめた。
0
あなたにおすすめの小説
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる