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第一章 神様が家にやってきた
第三話
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湧き上がる怒りに強い戸惑いを覚えながら、美美子は目を逸らし続けた。
普段の自分は怒るどころか、感情の起伏に乏しいというのに、今朝だけは例外であった。
理由なら明白だ。父が勝手に婚約者を定めていたことに対し、私は怒っている。
ニュース番組が終わり、CMに入った。
画面の中より、場違いに明るい音声が響いてきた。
「美美子。こっちを見てくれないか」
請うような口調で父に言われ、美美子は視線を元に戻した。そして彼が実に穏やかな目をして、こちらを見ていることに気づく。
「ミッシング・スリーデイズ」と呼ばれる三日間がある。「人々の記憶にも電算機の記録にも残っておらぬ三日間」の意である。
単純に「スリーデイズ」とも呼ばれる期間ののち、地球上にいたすべての男性は眠りについた。強力な薬剤も目覚ましも効かぬ、深い眠りに落ちたのだ。
もちろん、世界中を混乱の波が駆け抜けた。
男性がいなければ、まず、子どもをなすことができない。すなわち、世に子孫を残すことが不可能になる。
つまり、このままでは──地球は人間のいない星となってしまう。長らく続いた「ヒト」という種が絶滅してしまう……。
残された女性たちは、当然のことながら、不安に陥った。パニックにもなった。ある者は未来を憂い、ある者は未来を悲観し、ある者はやがて来るであろう滅亡の時を思って、やけを起こした。怯える者も少なからず存在した。
──けれど、人類は絶滅せずに済んだ。ある日突然、一部の女性たちの股間にペニスが生えてきたからだ…….。
美美子は父の顔を見た。彼女……いや、「彼」の顔には、にきびもしみも小じわもなかった。
まことに不思議な話であるが、スリーデイズ後の人類は、老化が進みづらい体となったのだ。ゆえに、一定の年齢を迎えたのちは、年を取ることがほとんどない。
美美子の父親は三十代前半ほど、母親に至っては二十代前半ぐらいにしか見えない。よって、顔にしわができることなど、ほとんどありえないのであった。
「お父さん……」
胸に迫る怒りの感情をなるべく無視しながら、美美子は小声で呼びかけた。
食卓を照らす朝の日射しを横顔に浴びながら、
「好きな人なんているわけないでしょう」
と控えめに言い返す。
父は笑っている。
戸惑いを感じる娘を見守るように、労るように、慈しむように、明るく微笑んでいる。
【続く】
普段の自分は怒るどころか、感情の起伏に乏しいというのに、今朝だけは例外であった。
理由なら明白だ。父が勝手に婚約者を定めていたことに対し、私は怒っている。
ニュース番組が終わり、CMに入った。
画面の中より、場違いに明るい音声が響いてきた。
「美美子。こっちを見てくれないか」
請うような口調で父に言われ、美美子は視線を元に戻した。そして彼が実に穏やかな目をして、こちらを見ていることに気づく。
「ミッシング・スリーデイズ」と呼ばれる三日間がある。「人々の記憶にも電算機の記録にも残っておらぬ三日間」の意である。
単純に「スリーデイズ」とも呼ばれる期間ののち、地球上にいたすべての男性は眠りについた。強力な薬剤も目覚ましも効かぬ、深い眠りに落ちたのだ。
もちろん、世界中を混乱の波が駆け抜けた。
男性がいなければ、まず、子どもをなすことができない。すなわち、世に子孫を残すことが不可能になる。
つまり、このままでは──地球は人間のいない星となってしまう。長らく続いた「ヒト」という種が絶滅してしまう……。
残された女性たちは、当然のことながら、不安に陥った。パニックにもなった。ある者は未来を憂い、ある者は未来を悲観し、ある者はやがて来るであろう滅亡の時を思って、やけを起こした。怯える者も少なからず存在した。
──けれど、人類は絶滅せずに済んだ。ある日突然、一部の女性たちの股間にペニスが生えてきたからだ…….。
美美子は父の顔を見た。彼女……いや、「彼」の顔には、にきびもしみも小じわもなかった。
まことに不思議な話であるが、スリーデイズ後の人類は、老化が進みづらい体となったのだ。ゆえに、一定の年齢を迎えたのちは、年を取ることがほとんどない。
美美子の父親は三十代前半ほど、母親に至っては二十代前半ぐらいにしか見えない。よって、顔にしわができることなど、ほとんどありえないのであった。
「お父さん……」
胸に迫る怒りの感情をなるべく無視しながら、美美子は小声で呼びかけた。
食卓を照らす朝の日射しを横顔に浴びながら、
「好きな人なんているわけないでしょう」
と控えめに言い返す。
父は笑っている。
戸惑いを感じる娘を見守るように、労るように、慈しむように、明るく微笑んでいる。
【続く】
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