かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第二章 恋に落ちた日

第十三話

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一年ほど前から、誰かの視線を感じることがあった。ひどい時には、一日に三度ほど気配を気づくことがあった。
けれど、いまだにその正体は把握できずにいた。
(まただ……)
体育の授業のあとの話だ。
着替えを済ませた美美子は、教室の外に出た。喉を潤すために水飲み場へと向かったのだ。
雑談したり移動したりしている生徒でにぎわう廊下を、ゆっくりと進む。注意を払いながら進んだおかげで、誰にもぶつからないまま目的の場所にたどり着くことができた。
蛇口をひねる。においも濁りもない水に、直接口をつけて啜る。
美美子の住む街は、天然の地下水を供給していることで全国的に名を知られている。水質が抜群によいことでも有名だ。だから、水道水を口に含んでも、なんの害もないのである。
──視線に気づいたのは、蛇口を閉めたときのことだった。
勢いをつけて振り向く。
けれども、今日も視線の主を見つけきれなかった。
相手は、気配を消すのが得意なようだ。一年以上も美美子に正体を悟らせずにいるのだから。
(気味が悪いわ……。視線はたしかに感じるのに……)
しかし、美美子はこのことを誰にも相談せずにいた。「もしかしたら気のせいかもしれないわ」と考えているためであった。
(そうよ。気のせい。絶対気のせいよ。ジュエルや雲雀山ひばりやまさんみたいに目立つ人ならともかく、私が見られるわけはない。「ジミ子」と呼ばれている私を気にする人なんて、絶対にどこにもいないのよ)
念仏のように「気のせい」という言葉をぶつぶつ呟いていたところ、
「あ、美美子ちゃんだ!」
真正面から声をかけられた。
人と人の隙間をかき分けるようにして、ジュエルが現れた。彼はまだ、体操服姿のままだった。
「もう着替えたんだ。早いね」
「ええ。……あなた、まだ着替えていないの?」
「うん。試合を見ていたF性の人たちが、いっぱい寄ってきちゃって。いままでお話していたの」
ちくん、と胸がまたまた痛んだ。針の先ほどのわずかな痛み。「嫉妬」という名の小さな痛みだ。
「……ごめん。私には美美子ちゃんっていう大事な人がいるのに、他のF性とお話なんかしたりして」
「え……?」
「いや……。いま、美美子ちゃん、一瞬恐い顔をしたから……。『もしかして嫉妬してくれたのかな?』って思って……」
「ごめん!」と、ジュエルが大声で言う。
「ごめんね。美美子ちゃん、私よりもファンタジーのほうが好きなのにね。親同士が勝手に決めた婚約者だから、仲良くしてくれているだけなのに……」
ジュエルは渋い顔をしている。
好きな人の機嫌を損ねたくなくて必死なのだろう。
廊下には、多くの人がいる。休み時間はまだ終わらぬようだ。
「謝ることはないわ」
美美子はきっぱりと言った。

「私は、……ジュエル、あなたのことが好きなの」
目の前の想い人に伝わるように、はっきりとした口調で告げた。

【続く】
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