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第二章 恋に落ちた日
第十四話
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「嘘……!」ジュエルが大口を開ける。
「美美子ちゃん、いったいどういう風の吹き回し? なにがあったの?」
「なにもないわ。ただ、あなたのことが好きだと気づいただけよ」
嘘だった。
本当は、恋に落ちた理由を強く自覚していた。
体育の授業でF性たちが騒いでいたのを見て、自分の気持ちに気づいたのだ。
けれど、美美子はそれを言葉にしなかった。年長者としての意地が、ちょっとだけ顔を出したためだった。
(私はジュエルに恋をした。……でも、ごめんね、好きになった理由だけはどうしても言えないわ。年下の子に一方的にのめり込む自分を認めたくないの)
「恋に落ちても主導権は渡したくない」と心に思った。だから、あえて本音は隠した。
「ごめんなさい。あなたのことは好きだけど、恋するようになったわけは自分でもよくわからないの」
「いいよ」
ジュエルが言った。
「美美子ちゃんが好きになってくれるのなら、理由なんてなんだっていい。なんなら、一生、理由を教えてくれなくてもいいよ」
「でも……」
「いいの。
美美子ちゃんと両思いになれたってだけで、私、めちゃくちゃハッピーな気持ちになれたんだから。ずっとずっと好きだった人に振り向いてもらえて、嬉しいんだから……!」
ジュエルが笑う。満開のひまわりのように美しく。
美美子も微笑む。桜のようにたおやかに。
「ありがと、美美子ちゃん」
「それは私の台詞よ。──待っていてくれてありがとう」
自分の思いが相手にうまく伝わらなくても、ずっとジュエルは待っていた。美美子が振り向く瞬間を、一途に待ってくれていた。
残念ながら、いまの時代にもストーカーは存在する。恋心を募らせるあまり、振り向いてくれない恋愛対象に憎しみを抱く者もいる。
けれど、ジュエルはそうならなかった。辛抱強く待ち続けた。
「それこそがこの子の優しさなんだろうな」と美美子は思う。「そして、それこそがこの子の強さでもあるんだわ」とも。
神城ジュエル。
祝福されたる化神の子。
世界を守護する一柱の神。
美美子が選んだ愛すべき恋人。婚約者。
彼の笑顔に面していると、それだけで心が熱くなる。全身を沸騰させるような強烈な熱でなく、手足をゆっくり温めるような穏やかな熱だ。
その熱は、しかし、体だけでなく心の底まで浸透した。恋情という名の熱が、美美子を熱く昂らせたのだ。
ふいに、ジュエルが右手を美美子の頬にやった。
美美子は彼の行動を受け入れた。そして──彼からのキスも受け入れた。
外野が騒ぐ。
廊下の隅でくちづけを交わす二人を見て、大きな声を上げる。
けれど、美美子はジュエルを離さない。ジュエルも美美子を離さない。
(この子は私のものなの。だからお願い、誰もこの子を取らないで。私のジュエルを奪わないで)
祈るようにすがるように、美美子は想いを強くする。
また不穏な視線を感じたが、それにも応えず、恋人の肩を強く抱きしめた。
【続く】
「美美子ちゃん、いったいどういう風の吹き回し? なにがあったの?」
「なにもないわ。ただ、あなたのことが好きだと気づいただけよ」
嘘だった。
本当は、恋に落ちた理由を強く自覚していた。
体育の授業でF性たちが騒いでいたのを見て、自分の気持ちに気づいたのだ。
けれど、美美子はそれを言葉にしなかった。年長者としての意地が、ちょっとだけ顔を出したためだった。
(私はジュエルに恋をした。……でも、ごめんね、好きになった理由だけはどうしても言えないわ。年下の子に一方的にのめり込む自分を認めたくないの)
「恋に落ちても主導権は渡したくない」と心に思った。だから、あえて本音は隠した。
「ごめんなさい。あなたのことは好きだけど、恋するようになったわけは自分でもよくわからないの」
「いいよ」
ジュエルが言った。
「美美子ちゃんが好きになってくれるのなら、理由なんてなんだっていい。なんなら、一生、理由を教えてくれなくてもいいよ」
「でも……」
「いいの。
美美子ちゃんと両思いになれたってだけで、私、めちゃくちゃハッピーな気持ちになれたんだから。ずっとずっと好きだった人に振り向いてもらえて、嬉しいんだから……!」
ジュエルが笑う。満開のひまわりのように美しく。
美美子も微笑む。桜のようにたおやかに。
「ありがと、美美子ちゃん」
「それは私の台詞よ。──待っていてくれてありがとう」
自分の思いが相手にうまく伝わらなくても、ずっとジュエルは待っていた。美美子が振り向く瞬間を、一途に待ってくれていた。
残念ながら、いまの時代にもストーカーは存在する。恋心を募らせるあまり、振り向いてくれない恋愛対象に憎しみを抱く者もいる。
けれど、ジュエルはそうならなかった。辛抱強く待ち続けた。
「それこそがこの子の優しさなんだろうな」と美美子は思う。「そして、それこそがこの子の強さでもあるんだわ」とも。
神城ジュエル。
祝福されたる化神の子。
世界を守護する一柱の神。
美美子が選んだ愛すべき恋人。婚約者。
彼の笑顔に面していると、それだけで心が熱くなる。全身を沸騰させるような強烈な熱でなく、手足をゆっくり温めるような穏やかな熱だ。
その熱は、しかし、体だけでなく心の底まで浸透した。恋情という名の熱が、美美子を熱く昂らせたのだ。
ふいに、ジュエルが右手を美美子の頬にやった。
美美子は彼の行動を受け入れた。そして──彼からのキスも受け入れた。
外野が騒ぐ。
廊下の隅でくちづけを交わす二人を見て、大きな声を上げる。
けれど、美美子はジュエルを離さない。ジュエルも美美子を離さない。
(この子は私のものなの。だからお願い、誰もこの子を取らないで。私のジュエルを奪わないで)
祈るようにすがるように、美美子は想いを強くする。
また不穏な視線を感じたが、それにも応えず、恋人の肩を強く抱きしめた。
【続く】
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