かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第二章 恋に落ちた日

第二十一話

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夕食を食べ、自室に戻って宿題を済ませ、ついでに明日使う教科書類をカバンに入れた。
デジタル時計が示す時刻は、午後八時五十二分──父はまだ帰ってこない。
(「もしかすると午前様ごぜんさまになるかもしれない」って言ってたものね……)
庭から中に戻る際、ジュエルは言った。「私といっしょに過ごそうね」と、微笑みながら誘ってきた。
壁近くに置いた姿見すがたみに、自分の姿を映す。長めの黒髪をゆるく結び、ワンピースタイプの清楚な部屋着を着た自分の姿を。恋人とのみつな交わりを予感して、頬を赤くしている自分の姿を──。
「……こんな格好、いつもはしないのにね」
普段は、チェック模様の綿のルームウェアを着て過ごす。こんなフェミニンな格好を進んで選んだりはしない。この手のかわいらしい服ならいくつか持っているのだが、いつもはクローゼットの奥のほうにしまっている。
「同性同士なのに、……女同士なのに変なの」
だが、ジュエルはM性──自分と似て非なる性にある者だ。彼の足の間には、本来、男性しか持っていないはずのペニスがぶら下がっている。
家には二人しかいない。
食事のあと、母から電話で「今夜は帰ってこないから」という連絡を受けた。姉の体調は回復の途上とじょうにあるそうだが、念のため、一晩付き添って様子を見るとのことだった。
「二人きり……なのよね」
鏡に映る自分の顔をしっかりと見つめながら、ひとりごとを呟いた。これから始まるであろう甘美かんびなひとときを考えただけで、生唾なまづばがあふれそうになった。
──恋に落ちたそのときから、この日が来るのを待っていた。ジュエルに抱かれる日を、ずっと。
「高校生の身分で抱き合うなんて破廉恥はれんち極まりない」と思う。いくら婚約者相手といえども、双方そうほう二親ふたおやはいい顔をしないだろう。
美美子自身、「まだ少し早いんじゃないかしら」と考えている。
けれど、欲しいのだ。ジュエルのことが。どうしても。
愛する人のすべてをこの身に刻みつけたい。
ジュエルの全部を余さず受け入れたい。
彼が欲しい。
どうしても欲しい。
情熱のまま、強く抱いてほしい。
綺麗なところも汚いところも遠慮せずに見せてほしい──。
鏡の中の自分を見つめる。少しばかりの不安と、それを上回る期待に胸を躍らせる少女の姿が瞳に映る。
夜はどこまでも深く、静かだ。

「不安がったところで、いまさら逃げられるわけがないわ。……逃げ出すつもりもないけれど」
鏡から離れ、部屋のドアへと向かう。一歩一歩前進するたびに不安と期待が高まっていく。

(この夜を越えても、ジュエルのそばにいられますように。私の愛するあの子の傍に、ずっとずっといられますように)
祈りにも似た一途な想いが、胸いっぱいに広がった。

【続く】
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