かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第二章 恋に落ちた日

第二十四話

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しばしの間見つめ合い、それから二人して笑った。幼年時代ようねんじだいに戻ったような屈託くったくのない笑声しょうせいを、部屋の隅々にまで響かせた。
おかしなことを言った覚えはない。おかしなことを言われた覚えもない。
けれども、ジュエルと──愛すべき少女といっしょにいると、自然と笑みがこぼれてくる。彼の目を見ただけで、彼と視線を交わし合っただけで、彼の指先に自分のそれを軽く絡めただけで、幸せな気分になる。
と。
美美子は顔をこわばらせた。部屋の隅に、二人分の布団が敷かれてあったからだ。
目の前に立つジュエルが、ため息とも吐息ともつかぬ声を上げる。
「ごめんね……。せっかく二人きりになれたから、美美子ちゃんの分の布団も敷いちゃったんだけど……」
「でも嫌だよね」彼は控えめに告げた。「私たちまだ高校生なのに、……早すぎるよね」
「そうかもしれないわね」美美子は即答した。
「高校生の分際でセックスするなんて、いけないことなのかもしれないわね。だけど、私たち、お互いのことを心底しんそこ欲しがっているんですもの。──後戻りなんてできないわ」
はにかむジュエルにみずから近づき、その温かな右頬みぎほほに軽いキスを与えた。
パラフィン紙のように薄い皮膚めがけ、二度三度と唇を押し当てる。我ながら「なんて大胆なんだろう」と驚いたが、美美子はキスをし続けた。常識や恥じらいよりも、「ジュエルに触れたい」という欲望がどうしてもまさってしまったのだ。
欲しい。
ジュエルが欲しい。
私のことをめちゃくちゃに扱ってもかまわないから、どうかこの体を抱いてほしい。心ごと抱いてほしい。
ジュエルのものになりたい。
世界でただひとりしかいない「彼」を独占したい。
この甘美なひとときを、誰にも邪魔されたくはない──。
「ジュエル」
美美子は言った。「いますぐに私を抱いて。私をジュエルだけのものにして」
「いいの……?」
「ええ。お父さんもお母さんもしばらくは帰ってこないでしょうし。こんなチャンス、いつめぐってくるかわからないもの」
「……そうだね」
すると彼は布団の上に座り、美美子に向かって大きく腕を広げた。
「おいで。美美子ちゃん。最高の夜をいっしょに満喫しようよ」
美美子は黙ってうなずいて、彼の隣へ足を進めた。見慣れた景色が──なんてことはないごくありふれた世界が、万華鏡まんげきょうのように美しく色づいてゆく。
はりぼてのように味気なかった日常でも、心から愛する恋人がいれば、極上の舞台に切り替わる。
布団の上に移動し、一度寝間着のすそを軽く払ってから、ジュエルのそばに座る。息すら聞こえそうな距離にまで近づき、そっと目を閉じた。
「……ん、……」
り立ての蜜のように甘い声が、ひそやかに漏れ出た。
──目を閉じていてもわかる。ジュエルがどれだけ自分のことを愛しているのか、大切に思っているのか、身を持って思い知った。
彼のキスは優しく、清らかで、なおかつ丁寧なものだった。薄くも厚くもない非常に整った唇をそっと触れさせては、美美子の口を軽く塞いだ。
まるでおとぎ話の王子様がするような、柔らかなキスだった。愛情のこもったキスでもあった。
粘膜と粘膜を触れ合わせるだけの、つたなく、幼いキス。
けれどそのくちづけこそが、美美子を夢中にさせるのだ。恋を知り、愛に触れた少女の心を存分に狂わせていくのだ……。
「……ふ……、っ……」
唇が離れる。
ジュエルの体も離れる。
しかし、美美子の肉体は、依然として淫靡いんびな欲望に包み込まれたままだった。

(キスだけで終わりたくない)
胸に兆した不埒ふらちな願いは、美美子の心身をあっという間に支配した。

邪魔者のおらぬ家の中、高鳴る鼓動を全身に感じながら、みずから寝間着のボタンをはずして最愛の人を誘惑する。
裸の乳房を彼の目の前に晒しては、
「……来て」
と一言懇願する。

心がいよいよ淫らになりゆく。
よろこびに満ちた夜がこれから始まる。

【続く】
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