かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第二章 恋に落ちた日

第二十三話

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「美美子ちゃん、どうかしたの?」
その言葉で、美美子ははっと心付いた。そういえば、私、ジュエルの自室にいたんだっけ。
「もう……。また、ファンタジーのことでも考えていたんでしょ」
「え、ええ……。そうね」図星を指され、美美子は焦った。
「もうっ! いまは私と二人きりなんだから、私以外のことを考えるのは駄目だよ。だって私、これから……」
ジュエルの頬に、朱がのぼる。
「──これから?」
続きを目で催促したところ、彼は照れたようにうつむいて呟いた。「これから……、えっと、これから美美子ちゃんを抱くつもりなんだから」
ドキン、と。
心臓が拍を刻んだ。
「ジュエルは私の恋人なんだ」という事実を強烈なまでに意識してしまった結果、またも焦りを感じてしまったのである。
(私、この部屋でジュエルと……)
彼の部屋は、物が少ないためか、実際の床面積以上に広く見える。十二畳ほどの部屋にあるのは、学習机とセットの椅子、通学カバンに学校の制服、教科書類やノート、来客用のローテーブルと座布団、犬猫の写真集数冊くらいのものだ。
空洞のように広い部屋の中、──他の家族のおらぬ部屋の中、美美子はふっと目を閉じた。
(大丈夫……。ジュエルはきっと、私のことを丁寧に抱いてくれるはず)
「大丈夫、大丈夫、大丈夫」と心のうちで繰り返す。漠然とした不安を抱えたまま、何度も何度も呪文のように繰り返す。
「美美子ちゃん」ふと、ジュエルが真顔になって言った。
「嫌なら断っていいんだよ。無理しなくていいんだからね」
「……」
風鈴のように高い声が聞こえた。
スズムシの鳴き声である。
しばらく口を閉ざしたあと、美美子は声を上げた。「無理なんかしていないわ」
「えっ。……でも、君は……、ええと、し……、処女なんでしょ? 年下の私相手で本当にいいの?」
「もしセックスの上手い人と出会ったとしても、それでも、」
美美子は続きを口にする。「──それでも、ジュエル、あなたを選ぶわ。私はあなたしか欲しくないの」
「ファンタジーよりも?」
「ええ。ファンタジーよりも、ジュエルのほうがずっと好きよ」
「……ありがとう」ジュエルが言った。
「私のことをいっぱい好きになってくれて、ありがとう。嬉しいよ」
「それはこっちの台詞よ。あなたに愛されてはじめて、恋の醍醐味というものを知ったんだから」
ジュエルが床に目を落とす。そしてうつむいたまま、
「……私は美美子ちゃんを抱きたいと思ってる。正直な話、いま、チャンスがめぐってきたと思ってる」
ひとりごとめいた言葉を口にのぼらせた。
沈黙が広がる。
それから三秒ほど過ぎたあと、ジュエルががばりと顔を上げた。
「大好きだから、ひとつになりたい。美美子ちゃんが欲しい。……すごく欲しい」
「私もよ」
美美子はにこりと笑いながら、言った。「私もジュエルが欲しい。何度でも欲しい。とても欲しいわ。だから、……抱いてちょうだい」

輝きを宿した瞳で、しばらく美美子の顔をじっと見つめたあと、ジュエルが言った。
「ありがとう。すごく嬉しいよ。絶対傷つけたりなんかしないって約束するから、──私のものになって」

【続く】
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