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第二章 恋に落ちた日
第二十九話
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夢を見た。澄み渡った青空の下、小学生の頃の自分が、自宅の玄関に設けられたポストの前を落ち着きなくうろついている夢だ。
Tシャツにサンダルという夏ならではの軽装に身を包み、美美子は、
「まだかなあ……」
と呟く。その間もせわしなく足を動かしながら、五十メートルほど向こうにある曲がり角をじっと見つめる。
あの角の向こうより、いつも来るのだ。
ジュエルからの手紙を運ぶ郵便屋さんが──。
薄青の膝丈スカートが、風になびいて翻る。
セミの合唱が控えめに響く中、一台のバイクが低い排気音を伴って、角の先から現れた。
「郵便屋さんだ!」
美美子は小走りに駆けて、門前に出た。
配達員を乗せたバイクは、いつもどおりのルートを走った。斜め向かいの坂下さん家、その奥にある大木さん家、宿川さん家、それから自宅の向かいに建つ長嶺さん家を回って、それから──、
「……来た!」
玄関前に広がる木陰の下に、バイクが停まった。
菩薩のように柔和な笑みを浮かべた配達員が、
「こんにちは。美美子ちゃん」
と挨拶をしてくる。
「こんにちは」
美美子がはきはきと返事を返すと、配達員は嬉しそうにうなずいて、
「例のあの子から、お手紙来たわよ」
と言った。
「ありがとうございます」
うさぎの絵が描かれた便せんを受け取りながら、美美子は笑った。ジュエルからの手紙を受け取るときはいつでも、満面の笑みがこぼれ出てしまうのだ。
「どんなことが書いてあるのかなあ……」
ひとりごとを口にのぼらせながら、美美子は差出人の名を確認する。そこには少しふにゃふにゃした文字で、「呪宝会九州支部 神城ジュエル」と書いてあった。
「あの……。ひとつ質問をしていいですか?」
配達員が、「なにかしら?」と明るい声で言う。
「音楽の中田先生みたいに高くて綺麗な声だなあ」と思いながら、美美子は問うた。「えっと……。呪宝会って、なにをするところなんでしょうか」
──真上より、キイン……と細い音が降り注いできた。
はるか上空に、白い飛行機の姿が見えた。とても気持ちよさそうに、東から西へと飛んでいる。
「……美美子ちゃん」
配達員の声に、陰りが宿る。
美美子ははっと顔を上げた。
「もしかして、わたし、いけないことを尋ねちゃいましたか?」
ジュエルのことがもっと知りたくて、美美子はときどき両親に、「彼女」のことについて尋ねた。
親やまわりの大人たちは、年齢や趣味、特技や家族構成などだいたいの質問に、しっかりと答えてくれた。
けれども、「呪宝会」関連の話題に移ると少しだけ顔を曇らせて、「お前は知らなくていいことだよ」と告げるのだった。
……不思議だった。
本当に不思議でならなかった。
「まわりの大人が教えてくれないのなら」と、思い切って配達員に疑問をぶつけてみたのだけれど、彼女もまた言葉少なに、
「呪宝会とその周辺には、あまり深入りしないほうがいいわ」
と呟くのだった。
【続く】
Tシャツにサンダルという夏ならではの軽装に身を包み、美美子は、
「まだかなあ……」
と呟く。その間もせわしなく足を動かしながら、五十メートルほど向こうにある曲がり角をじっと見つめる。
あの角の向こうより、いつも来るのだ。
ジュエルからの手紙を運ぶ郵便屋さんが──。
薄青の膝丈スカートが、風になびいて翻る。
セミの合唱が控えめに響く中、一台のバイクが低い排気音を伴って、角の先から現れた。
「郵便屋さんだ!」
美美子は小走りに駆けて、門前に出た。
配達員を乗せたバイクは、いつもどおりのルートを走った。斜め向かいの坂下さん家、その奥にある大木さん家、宿川さん家、それから自宅の向かいに建つ長嶺さん家を回って、それから──、
「……来た!」
玄関前に広がる木陰の下に、バイクが停まった。
菩薩のように柔和な笑みを浮かべた配達員が、
「こんにちは。美美子ちゃん」
と挨拶をしてくる。
「こんにちは」
美美子がはきはきと返事を返すと、配達員は嬉しそうにうなずいて、
「例のあの子から、お手紙来たわよ」
と言った。
「ありがとうございます」
うさぎの絵が描かれた便せんを受け取りながら、美美子は笑った。ジュエルからの手紙を受け取るときはいつでも、満面の笑みがこぼれ出てしまうのだ。
「どんなことが書いてあるのかなあ……」
ひとりごとを口にのぼらせながら、美美子は差出人の名を確認する。そこには少しふにゃふにゃした文字で、「呪宝会九州支部 神城ジュエル」と書いてあった。
「あの……。ひとつ質問をしていいですか?」
配達員が、「なにかしら?」と明るい声で言う。
「音楽の中田先生みたいに高くて綺麗な声だなあ」と思いながら、美美子は問うた。「えっと……。呪宝会って、なにをするところなんでしょうか」
──真上より、キイン……と細い音が降り注いできた。
はるか上空に、白い飛行機の姿が見えた。とても気持ちよさそうに、東から西へと飛んでいる。
「……美美子ちゃん」
配達員の声に、陰りが宿る。
美美子ははっと顔を上げた。
「もしかして、わたし、いけないことを尋ねちゃいましたか?」
ジュエルのことがもっと知りたくて、美美子はときどき両親に、「彼女」のことについて尋ねた。
親やまわりの大人たちは、年齢や趣味、特技や家族構成などだいたいの質問に、しっかりと答えてくれた。
けれども、「呪宝会」関連の話題に移ると少しだけ顔を曇らせて、「お前は知らなくていいことだよ」と告げるのだった。
……不思議だった。
本当に不思議でならなかった。
「まわりの大人が教えてくれないのなら」と、思い切って配達員に疑問をぶつけてみたのだけれど、彼女もまた言葉少なに、
「呪宝会とその周辺には、あまり深入りしないほうがいいわ」
と呟くのだった。
【続く】
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