かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第二章 恋に落ちた日

第三十話

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「深入りしないほうがいいって……。なぜですか?」
配達員がしばし黙り込む。
セミの鳴き声だけがうるさく響く。
空の上を飛んでいた飛行機の姿は、もうどこにも見えない。
呪宝会じゅほうかいは、私たちの暮らしを守ってくれている──そのことについては知っているわよね?」
「はい。新聞記事で読んだし、お父さんやお母さんもそう言っていましたから」
「実は、私たち大人もあの組織については、ほとんどなにも知らないの」
「えっ……!」
美美子は目を丸くした。
(わたしよりずっと大人なのに、それでも知らないことがあるっていうの……?)
これまでに多くの疑問を大人たちに尋ねてきたけれど、彼ら彼女らが「知らない」と答えたことはなかった。「わからない」と回答したことなら、いくらかあったのだけれど──。
「いまはネットもあるのに、それでも知らないことってあるんですか」
「美美子ちゃんは検索したことないの?」配達員が質問で切り返してくる。
「えっと……。私、自分用のパソコンを持っていないんです」
「そう。
でも、パソコンを買ってもらっても、たぶんあなたが満足するような情報は得られないと思うわ」
「どうしてですか?」
「……箝口令かんこうれいが敷かれているからよ」
「かんこうれい……?」
美美子はぽかんと口を開けた。「かんこうれい」なんて言葉、塾でも学校でも習ったことがない……。
「どういう意味ですか、その言葉」
「そうね……。簡単に言うと、『"部外者には知らせないで"という決まり事を呼びかけること』よ。細かい意味は違うと思うけど」
「部外者……」
「部外者」という単語については、いくらか知識があった。愛読している少女漫画の中に出てきた言葉だったから。
「部外者……ってことは、私はジュエルにとってただの外野みたいなものなんでしょうか」
「……」
配達員は渋い顔をしている。
──季節は、初夏。
風のそよ吹く木陰の下であっても、汗がいくらか肌ににじみ出る。
「……ごめんね。私にはなにも答えられないわ」
言って、配達員が頭を軽く撫でてきた。
「でも、美美子ちゃんはジュエルちゃんにとって、外野などではないと思うの。その証拠に、手紙をいつも送ってくるのだから……ね」

美美子は、配達員の顔を言葉なく見上げた。
菩薩ぼさつのように優しい笑みを宿したその人の顔を。

【続く】
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