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第二章 恋に落ちた日
第三十二話
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想い人と心を通じ合わせてから数日後、ひとりのF性が廊下側の窓の外に立っているのに、美美子は気づいた。誰かの視線をふと感じて振り向いたところ、小柄な娘と目が合ったのだ。
一年生であることを示す深緑のリボン、小学生のように小柄な体躯、男の子のように短く切り揃えた赤髪、子だぬきさながらのまんまるな瞳──記憶の中にある友人知人の顔と少女の顔を照らし合わせてみる。けれど、思い当たる節がまるでなかった。
はっきり言おう。
彼女との面識はない。一切ない。喋ったこともむろんない。
しかし、少女はまるい瞳をじっと凝らして美美子を見ている。もはや、「にらんでいる」と表現しても差しつかえがないほどだ。
「ねえ、美美子ぉ。あの子、さっきからあんたのことを見てるみたいだよ?」
後ろに押しやった机を元の位置に戻しながら、新が言った。いまは、掃除の時間の最中なのである。
「……うん。そうみたいね」
「知ってる子?」
「ううん。はじめて見るんだけど」
「けど、ずーっとあんたをにらんでるよ。すんごい必死な形相をしてさ」
「そうなのよね。でも、本当に覚えがないのよ」
「ふーん……」
少しの間を置いて、新が言った。「どうする? 注意してこようか?」
「──なんのこと?」
「いや、あんた、前に『誰かに見られているような気がする』って言ってたじゃん。それってたぶんあの子のことだろうから、あたしがあんたの代わりに話をつけてこようって思ったの」
美美子は小さくかぶりを振った。
「あの子が私を見ているという確証はないわ。もしかすると、別の人を見つめているのかもしれないし」
「そうかなあ?」新が頭髪をかきむしりながら呟く。
「うーん……。本当にそうだったらいいんだけど……」
「気のせいよ。たぶんね」
「……あんたがそう言うのなら、知らないふりを通すけどさ」
そうこうしているうちに、掃除の時間が終わった。
それとほぼ同じ頃合い、窓の外に佇んでいた少女が、なにか思い出したように駆け出す。
(私が感じた視線って、あの子のものなのかしら)
走り去る少女の姿を目で追いながら、美美子は考えた。考えてもどうしようもないことだとわかってはいたけれど、それでも思案せずにはいられない。あの子は何者なんだろう。どうして、私を鋭い目でにらんでくるのだろう。そもそも、あの子はどうして上級生の教室に来たのだろうか。誰かに用事があってここに来たのか──。
考える。
しかし、答えは出ない。
情報が不足しているいま現在、正しい答えに行き着く確率は限りなくゼロに近いといえた。
【続く】
一年生であることを示す深緑のリボン、小学生のように小柄な体躯、男の子のように短く切り揃えた赤髪、子だぬきさながらのまんまるな瞳──記憶の中にある友人知人の顔と少女の顔を照らし合わせてみる。けれど、思い当たる節がまるでなかった。
はっきり言おう。
彼女との面識はない。一切ない。喋ったこともむろんない。
しかし、少女はまるい瞳をじっと凝らして美美子を見ている。もはや、「にらんでいる」と表現しても差しつかえがないほどだ。
「ねえ、美美子ぉ。あの子、さっきからあんたのことを見てるみたいだよ?」
後ろに押しやった机を元の位置に戻しながら、新が言った。いまは、掃除の時間の最中なのである。
「……うん。そうみたいね」
「知ってる子?」
「ううん。はじめて見るんだけど」
「けど、ずーっとあんたをにらんでるよ。すんごい必死な形相をしてさ」
「そうなのよね。でも、本当に覚えがないのよ」
「ふーん……」
少しの間を置いて、新が言った。「どうする? 注意してこようか?」
「──なんのこと?」
「いや、あんた、前に『誰かに見られているような気がする』って言ってたじゃん。それってたぶんあの子のことだろうから、あたしがあんたの代わりに話をつけてこようって思ったの」
美美子は小さくかぶりを振った。
「あの子が私を見ているという確証はないわ。もしかすると、別の人を見つめているのかもしれないし」
「そうかなあ?」新が頭髪をかきむしりながら呟く。
「うーん……。本当にそうだったらいいんだけど……」
「気のせいよ。たぶんね」
「……あんたがそう言うのなら、知らないふりを通すけどさ」
そうこうしているうちに、掃除の時間が終わった。
それとほぼ同じ頃合い、窓の外に佇んでいた少女が、なにか思い出したように駆け出す。
(私が感じた視線って、あの子のものなのかしら)
走り去る少女の姿を目で追いながら、美美子は考えた。考えてもどうしようもないことだとわかってはいたけれど、それでも思案せずにはいられない。あの子は何者なんだろう。どうして、私を鋭い目でにらんでくるのだろう。そもそも、あの子はどうして上級生の教室に来たのだろうか。誰かに用事があってここに来たのか──。
考える。
しかし、答えは出ない。
情報が不足しているいま現在、正しい答えに行き着く確率は限りなくゼロに近いといえた。
【続く】
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