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第二章 恋に落ちた日
第三十三話
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掃除を終え、下校の準備をする最中、美美子は言った。「そういえば、さっきからジュエルの姿が見当たらないんだけど……」
いつもなら一緒に掃除をするはずなのに、今日にかぎって、彼の姿がどこにも見当たらないのである。
教室からさっさと出ていく者、室内に残る者、部活動に出るために着替えを行う者──二年七組の生徒たちがめいめい行動を起こす中、
「ああ、あの子なら雲雀山とどっかに行っちゃったよ」
気前よく答える生徒がいた。
友人の新町新である。
「変ね」
「なにが?」
「だって、最近、雲雀山さんとどこかに行方をくらますことが多いんだもの。私が問いつめても、『美美子ちゃんには関係のないことだから大丈夫』なんて言うし……。あの子が私に隠し事をするなんて、滅多にないのよ」
言ってから、美美子は苦笑いをした。「隠し事なら、いままでだってされてきた」と気づいたためであった。
文通で絆を深める間、ジュエルは嘘をついていた。「私もF性だよ」と語っていた。自分の素性を──この世の神たる化神であることを、頑なに隠していた。
「気にすることないよー。ジュエルちゃんはさ、美美子のことが大好きなんでしょ? だったら、なんにも心配しなくていいじゃん」
「それはそうだけど……」
人類の記憶からもコンピュータの記録からも忘れ去られた空白の三日間──ミッシング・スリーデイズのあと、男たちは皆、眠りについた。そして、残された女性たちは、ペニスを持つM性と持たないF性とに分かれた。
いま、世界に存在するカップルの多くは、M性とF性からなる。M性同士、F性同士で付き合うケースもあるにはあるのだが、全体的な比率でいうとそれほど高くない。F性同士も似たようなものだ。
(ジュエルは私のことが好きなの。だから、他の人と恋に落ちるなんて、そんなことないと思うのよ)
けれど、──だとしたら、どうして彼は雲雀山さんと二人きりになりたがるのだろう。
……二人きりでいったいなにをしているのだろう。
渦巻く疑念に圧され、ひとり思い悩んでいると、
「龍源寺さん」
後ろから名前を呼ばれた。
「上月さん……」
振り返った先にいたのは、クラスメイトの上月巴であった。
おさげ髪を背に垂らしているのも、少し陰気な雰囲気を漂わせているのも普段どおりである。
しかし、いつもならば、自分から話しかけてきたりしない。去年同じクラスになって以降、たまに会話を交わすことはあるが、話の口火を切るのはいつも美美子のほうなのだ。
「へえ。珍しいこともあるもんだ」新が言った。
「驚いたなあ、上月さんのほうから誰かに話しかけるなんてさ。明日、空から槍でも降ってくるかもね」
「私から話しかけたらいけないのかな?」暗いまなざしで、巴が問う。
「いや、そんなことはないけどさ……。けど、変な質問して悪いんだけど、うちらになにか用があんの?」
すると、巴は唇のみを動かして、ニタリと笑った。
「うん。ちょっと龍源寺さんに話したいことがあってね」
【続く】
いつもなら一緒に掃除をするはずなのに、今日にかぎって、彼の姿がどこにも見当たらないのである。
教室からさっさと出ていく者、室内に残る者、部活動に出るために着替えを行う者──二年七組の生徒たちがめいめい行動を起こす中、
「ああ、あの子なら雲雀山とどっかに行っちゃったよ」
気前よく答える生徒がいた。
友人の新町新である。
「変ね」
「なにが?」
「だって、最近、雲雀山さんとどこかに行方をくらますことが多いんだもの。私が問いつめても、『美美子ちゃんには関係のないことだから大丈夫』なんて言うし……。あの子が私に隠し事をするなんて、滅多にないのよ」
言ってから、美美子は苦笑いをした。「隠し事なら、いままでだってされてきた」と気づいたためであった。
文通で絆を深める間、ジュエルは嘘をついていた。「私もF性だよ」と語っていた。自分の素性を──この世の神たる化神であることを、頑なに隠していた。
「気にすることないよー。ジュエルちゃんはさ、美美子のことが大好きなんでしょ? だったら、なんにも心配しなくていいじゃん」
「それはそうだけど……」
人類の記憶からもコンピュータの記録からも忘れ去られた空白の三日間──ミッシング・スリーデイズのあと、男たちは皆、眠りについた。そして、残された女性たちは、ペニスを持つM性と持たないF性とに分かれた。
いま、世界に存在するカップルの多くは、M性とF性からなる。M性同士、F性同士で付き合うケースもあるにはあるのだが、全体的な比率でいうとそれほど高くない。F性同士も似たようなものだ。
(ジュエルは私のことが好きなの。だから、他の人と恋に落ちるなんて、そんなことないと思うのよ)
けれど、──だとしたら、どうして彼は雲雀山さんと二人きりになりたがるのだろう。
……二人きりでいったいなにをしているのだろう。
渦巻く疑念に圧され、ひとり思い悩んでいると、
「龍源寺さん」
後ろから名前を呼ばれた。
「上月さん……」
振り返った先にいたのは、クラスメイトの上月巴であった。
おさげ髪を背に垂らしているのも、少し陰気な雰囲気を漂わせているのも普段どおりである。
しかし、いつもならば、自分から話しかけてきたりしない。去年同じクラスになって以降、たまに会話を交わすことはあるが、話の口火を切るのはいつも美美子のほうなのだ。
「へえ。珍しいこともあるもんだ」新が言った。
「驚いたなあ、上月さんのほうから誰かに話しかけるなんてさ。明日、空から槍でも降ってくるかもね」
「私から話しかけたらいけないのかな?」暗いまなざしで、巴が問う。
「いや、そんなことはないけどさ……。けど、変な質問して悪いんだけど、うちらになにか用があんの?」
すると、巴は唇のみを動かして、ニタリと笑った。
「うん。ちょっと龍源寺さんに話したいことがあってね」
【続く】
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