かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第三章 光は去らず

第二十二話

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幻術げんじゅつというのは、読んで字のごとく、まぼろしを操る術を指すんだ」低い声で、ともえが言った。
「その術をこっそり習得した私は、母にそれを使った。その頃の母は、姉が私をかばっていることにすら腹を立てるようになっていたからね。いつ姉が被害をこうむってもおかしくない状況だった。だから、私は幻術を使ってあの人に『自分が死ぬまぼろし』を見せた。何回も見せた。
そして、ショックを受けた母は気を失って、そのまま深い眠りについたんだ……」
話が終わり、場が静まった。
美美子はその場に立ちすくんだまま、巴の顔をまじまじと見つめた。秘密を語り終えてすっきりしたのだろう、彼の顔色はいくらかよくなったように見えた。
しかし、──どう声をかけてよいのか、皆目かいもく見当がつかなかった。
実母じつぼに何度も殺されるというショッキングな過去を乗り越えてきた彼に、どんな言葉をかけても意味がないように思われた。
第一、美美子には虐待を受けた経験がなかった。家族仲が良好であるがゆえ、その手の話を聞いてもどうもピンと来ないのである。
「私は罪を犯した」巴が言った。
「でも、それって仕方のないことなんじゃないのかな」ジュエルが声を挟む。「私からしたら、正当防衛の範疇はんちゅうに収まるような気がするんだけど」
「だけど、親に手をかけたことに変わりはないよ」巴が決然けつぜんと答えた。
「私は罪を犯した。実の母親に術をかけるという罪を犯した。自分が死ぬという恐ろしいまぼろしを何度も見せた。姉を守るという名目めいもくがあったとはいえ、やったことはとてつもなくひどいことなんだよ」
新月しんげつさん……」
美美子は巴の名を呼んだ。
けれど、それ以上かけるべき言葉が見つからない。
どんな慰めを与えようとも、それが彼の救いになるとは思えなかった。
前々まえまえから考えていたことなんだけど、私、警察に行こうと思っているんだ」巴が言った。
「どこまで信じてもらえるかわからないけれど、洗いざらい打ち明けてみるつもり」
「それで、新月さんの気持ちが晴れるのならしてもいいと思うけど……」
──しかし、美美子は釈然しゃくぜんとしない思いを胸に抱いた。
巴は被害者だ。巴をかばった姉も被害者だ。そして、彼の母親は加害者だ。
被害者たる巴が裁かれるなど、どうにもに落ちない。「何度も殺される」という恐ろしい目に遭った彼が、どうして法の裁きを受けなくてはならないのだろうか。

「警察に行くよ。そして、私は裁きを受ける」
言って、巴が話を打ち切った。

そのときだった。

「それで罪をあがなったつもりかい?」という声が響いた。
聞き慣れぬ大人の女の声だった。

【続く】

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