かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第三章 光は去らず

第二十三話

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遠く離れた夜の闇に、ひとりの女が立っているのが見えた。
純白の着物をだらしなく着こなしたその女は、まるで季節はずれの幽霊のようにのろのろと歩み寄ってくる。
「あなたは誰?」
ジュエルが問うと、女はニタリと笑って、
「私? 私の名前は新月しんげつアヤメだ」
と答えた。
「お母様……! お目覚めになられたのですか?」
ともえがいつになく焦ったような表情で尋ねる。
「……巴か。よくもこの私に術をかけてくれたな」
憤怒と憎悪にまみれた声を発しながら、アヤメが巴をにらみつける。とてつもなく鋭い視線が、彼のおもてをはっきりと射貫いぬく。
「『警察に行く』とは殊勝しゅしょうな心がけだ。だが、そうはさせんよ。法の裁きを受けてそれですべてを収めたいのだろうが、そんなこと、この私が絶対に許さない。巴、お前には私に逆らった罰を受けてもらおう」
「待ってください!」美美子はたまらず、声を上げた。
「新月さんは……、あなたの娘さんは十分すぎるほどに反省しています! 許してやってください……!」
「そうだよ、許してあげてよ!」ジュエルも美美子にならって、懇願の声を上げる。
上月こうづきさんは、いまも罪の意識で苦しんでいるんだよ! あなただって悪いことをしたんだし、ここは全部チャラにしてあげればいいでしょ!」
「悪いことをした? 私が?」冷徹な声で、アヤメが言う。
「お前たちは知らないのか? その娘が私にひどい幻覚を見せたということを。……私の心に底知れぬダメージを与えたことを」
「いまさっきお聞きました。ですが、あなただってお嬢さんに相当ひどいことをしたじゃないですか」
美美子が意見する。
──と。
「……ひどいことだと?」
険相けんそうを作ったアヤメが、一段と低い声を放った。
「そやつを見ているとな、奴のことを──巴の父親のことを思い出してむかつくんだ。事実、そやつの姿形は父親にとても似ているしな」
「だけど、巴さんにはなんの罪もありませんよ」
「いいや、あるね」ふてくされたように、アヤメが言い張る。
「そやつの顔も中身も父親にそっくりだ。私の顔に泥を塗ったあやつと、うり二つなんだよ。かわいげがないところも生意気なところも、なに考えているのかいまいちよくわからんところも似ている。そんな子どもをいとおしめるはずがない!」
「……ひどい」
美美子は両のこぶしをぎゅっと丸めた。
「なにもそこまで言わなくたって……。血を分けた家族相手に、なんてひどいことを──」
「だから、ひどいのは巴のほうだと言っている」
ナイフのように鋭利えいりな視線が、美美子を射る。

そのあまりの迫力に、声を詰まらせおびえたところ、
「そんなんだから、上月さんに反発されちゃうんだよ」
ジュエルが会話に混じってきた。

【続く】
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