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第三章 光は去らず
第二十四話
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「ほう……。私があの娘に断罪されて当然だと言うのか? この私が……、新月家の当主たるこの私が!」
「一言言わせてもらうけど、そうやって高慢な態度を取るのって恥ずかしいことだと思うよ」
ジュエルが指摘すると、アヤメの片頬がひくりと動いた。
「娘。貴様は巴の仲間なのか?」
「いいえ。ただのクラスメイトだよ」
「──ならば、私に意見するのはいますぐやめろ。不愉快だ」
「私はあなたの言い草が不愉快でたまらないんだけど」
「ジュエル……」
嫌な予感を察した美美子は、目顔で彼に、「もうやめて。これ以上こじれたら、この人、絶対に気を悪くするわ」と訴えた。
しかし、ジュエルはなおもアヤメに突っかかる。
「自分の気に入らない人間を力でやりこめるなんて、相手側からしたら受け入れがたいものがあるよ。せっかく声が出せるんだし、会話を通してお互いの意見を擦り合わせたほうが平和的に解決すると思うけどな」
ひゅう、と夜風が吹き荒れる。
アヤメのほつれ髪が、綿毛のようにふわりと揺れた。
ジュエルは言う。「あなたの娘がしたことは、確かにいけないことだよ。『術を悪用しちゃいけない』って決まり、呪宝会の養成所で真っ先に叩き込まれることだもんね。……だけど、私は、あなたが娘さんにしたこともひどいことだと思ったよ」
「……」
「何度も何度も執拗に、なんの落ち度もない実の娘を手にかけるなんて、恐ろしいことだよ。あなたは確かに偉い人なんだろうけど、それでも──やっちゃいけないことだと私は思う」
アヤメは口をつぐんでいる。
まるで気に入らぬものを見るかのように目を細め、ジュエルの顔を眺め下ろしている。
「……そこの金髪の娘」
「なに?」
「お前も相当な悪童よな。この私に──新月家の当主たるこの私に生意気な口を叩くとは」
「だから、地位とか身分とか関係のない話なんだってば。あなたがお嬢さんに一言きちんと謝れば、解決する問題なんじゃないのかな」
「謝る? どうして私が巴ごときに」
「そういう態度がよくないんだよ」ジュエルが強い口調で言った。
「一度でもいいから、ちゃんとお嬢さんと話し合ったほうがいいよ。そうしないと──、」
「黙れ」
言って、アヤメがジュエルのほうへと一歩歩みを進めた。
「黙れ黙れ黙れ! 巴もだが、金髪の娘、貴様も躾け直してやる必要があるようだな!」
──美美子は、そして、「ひっ……」と小さな悲鳴を上げた。
アヤメの顔、そして衣の裾から覗く手足が粥のように白く濁って、どろりと溶け出したのである。
「美美子ちゃん、離れて! その人、偽骸になりかけてる……!」
ジュエルの声が、濃くなりまさる闇に響いた。
【続く】
「一言言わせてもらうけど、そうやって高慢な態度を取るのって恥ずかしいことだと思うよ」
ジュエルが指摘すると、アヤメの片頬がひくりと動いた。
「娘。貴様は巴の仲間なのか?」
「いいえ。ただのクラスメイトだよ」
「──ならば、私に意見するのはいますぐやめろ。不愉快だ」
「私はあなたの言い草が不愉快でたまらないんだけど」
「ジュエル……」
嫌な予感を察した美美子は、目顔で彼に、「もうやめて。これ以上こじれたら、この人、絶対に気を悪くするわ」と訴えた。
しかし、ジュエルはなおもアヤメに突っかかる。
「自分の気に入らない人間を力でやりこめるなんて、相手側からしたら受け入れがたいものがあるよ。せっかく声が出せるんだし、会話を通してお互いの意見を擦り合わせたほうが平和的に解決すると思うけどな」
ひゅう、と夜風が吹き荒れる。
アヤメのほつれ髪が、綿毛のようにふわりと揺れた。
ジュエルは言う。「あなたの娘がしたことは、確かにいけないことだよ。『術を悪用しちゃいけない』って決まり、呪宝会の養成所で真っ先に叩き込まれることだもんね。……だけど、私は、あなたが娘さんにしたこともひどいことだと思ったよ」
「……」
「何度も何度も執拗に、なんの落ち度もない実の娘を手にかけるなんて、恐ろしいことだよ。あなたは確かに偉い人なんだろうけど、それでも──やっちゃいけないことだと私は思う」
アヤメは口をつぐんでいる。
まるで気に入らぬものを見るかのように目を細め、ジュエルの顔を眺め下ろしている。
「……そこの金髪の娘」
「なに?」
「お前も相当な悪童よな。この私に──新月家の当主たるこの私に生意気な口を叩くとは」
「だから、地位とか身分とか関係のない話なんだってば。あなたがお嬢さんに一言きちんと謝れば、解決する問題なんじゃないのかな」
「謝る? どうして私が巴ごときに」
「そういう態度がよくないんだよ」ジュエルが強い口調で言った。
「一度でもいいから、ちゃんとお嬢さんと話し合ったほうがいいよ。そうしないと──、」
「黙れ」
言って、アヤメがジュエルのほうへと一歩歩みを進めた。
「黙れ黙れ黙れ! 巴もだが、金髪の娘、貴様も躾け直してやる必要があるようだな!」
──美美子は、そして、「ひっ……」と小さな悲鳴を上げた。
アヤメの顔、そして衣の裾から覗く手足が粥のように白く濁って、どろりと溶け出したのである。
「美美子ちゃん、離れて! その人、偽骸になりかけてる……!」
ジュエルの声が、濃くなりまさる闇に響いた。
【続く】
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