93 / 103
第三章 光は去らず
第三十八話
しおりを挟む
「彼と知り合った当初、私は彼から逃げました。呪宝会で友人を作るつもりなど、さらさらなかったからです」
美美子は口を閉ざし、ジュエルの話に耳を傾ける。
部屋の中は、中身を失った空き箱のようにがらんとしている。
「けれど、縁は諦めの悪い子でした。何度拒絶されてもちっともめげずに、私を追いかけまわしたのです」
そこで、彼がくすりと笑った。普段の彼からは想像もつかないような、いたくしおらしいしぐさであった。
「とうとう観念した私は、彼の友達になりました。呪宝会の外にはひとつ年上のF性、呪宝会の中では光永縁と親交を深めたのです。……思えば、あの頃がいちばん楽しかったといまでも思います」
沈黙が降りる。
はあ、と短く呼吸したあと、ジュエルが話を再開した。
「話を変えます。
……呪宝会に引き取られた化神たちは、上層部より10000点の持ち点を与えられます。いいことをすると10点から500点のポイントを与えられ、悪いことをすると10点から1000点ものポイントを引かれます」
美美子は身を乗り出した。
呪宝会での生活を詳細に聞くのは、今回がはじめてだったのだ。
「呪宝会において、ポイントは絶対的なものでした。持ち点をたくさん集めた者は尊敬されますが、集め切れなかった者は虫けらのように扱われていたのです」
手首の傷をしばし眺めやったのち、ジュエルがまた語り出した。
「私はそれなりにポイントを集めておりました。けれど、縁は持ち点がとても少なかった。……それもそのはず、彼は事あるごとに上層部に反抗していたのです。『あいつらは、私たち化神を兵器扱いしている。私たちにだって意思や権利はあるはずなのに、それを無視している!』と、いつも憤慨していました」
「……」
「そういうわけで、縁はすぐにポイントを失いました。そして──上層部より、再教育対象として指定されたのです」
「再教育対象」美美子は口の中で呟いた。
「なんだかとっても嫌な響きね。まるで物扱いされているみたいで、気味が悪いわ」
「ええ。私たちは、実際に物として扱われていました」ジュエルが小さくうなずく。
「物として、あるいは兵器として存在することだけ許されていたんです。人間のように笑ったり泣いたりするのは、『余計なこと』だとみなされました」
ジュエルが笑う。
けれど、その微笑はやはり、どことなくぎこちないものであった。
この世界における彼は、感情を抜き取られた人形のように悲しげな顔をしている──美美子はそんな感想を胸に抱いた。
「事実、私たちは感情をあらわすことを禁止されてきました。笑うと20点、泣くと30点引かれました。……もっとも、私は呪宝会のやり方にうまく適応していたので、さほど点数を失わずに済んだのですが」
美美子の背に、大きな震えが走った。
笑いも泣きもできないなんて……、それじゃまるで人形そのものじゃないか。
【続く】
美美子は口を閉ざし、ジュエルの話に耳を傾ける。
部屋の中は、中身を失った空き箱のようにがらんとしている。
「けれど、縁は諦めの悪い子でした。何度拒絶されてもちっともめげずに、私を追いかけまわしたのです」
そこで、彼がくすりと笑った。普段の彼からは想像もつかないような、いたくしおらしいしぐさであった。
「とうとう観念した私は、彼の友達になりました。呪宝会の外にはひとつ年上のF性、呪宝会の中では光永縁と親交を深めたのです。……思えば、あの頃がいちばん楽しかったといまでも思います」
沈黙が降りる。
はあ、と短く呼吸したあと、ジュエルが話を再開した。
「話を変えます。
……呪宝会に引き取られた化神たちは、上層部より10000点の持ち点を与えられます。いいことをすると10点から500点のポイントを与えられ、悪いことをすると10点から1000点ものポイントを引かれます」
美美子は身を乗り出した。
呪宝会での生活を詳細に聞くのは、今回がはじめてだったのだ。
「呪宝会において、ポイントは絶対的なものでした。持ち点をたくさん集めた者は尊敬されますが、集め切れなかった者は虫けらのように扱われていたのです」
手首の傷をしばし眺めやったのち、ジュエルがまた語り出した。
「私はそれなりにポイントを集めておりました。けれど、縁は持ち点がとても少なかった。……それもそのはず、彼は事あるごとに上層部に反抗していたのです。『あいつらは、私たち化神を兵器扱いしている。私たちにだって意思や権利はあるはずなのに、それを無視している!』と、いつも憤慨していました」
「……」
「そういうわけで、縁はすぐにポイントを失いました。そして──上層部より、再教育対象として指定されたのです」
「再教育対象」美美子は口の中で呟いた。
「なんだかとっても嫌な響きね。まるで物扱いされているみたいで、気味が悪いわ」
「ええ。私たちは、実際に物として扱われていました」ジュエルが小さくうなずく。
「物として、あるいは兵器として存在することだけ許されていたんです。人間のように笑ったり泣いたりするのは、『余計なこと』だとみなされました」
ジュエルが笑う。
けれど、その微笑はやはり、どことなくぎこちないものであった。
この世界における彼は、感情を抜き取られた人形のように悲しげな顔をしている──美美子はそんな感想を胸に抱いた。
「事実、私たちは感情をあらわすことを禁止されてきました。笑うと20点、泣くと30点引かれました。……もっとも、私は呪宝会のやり方にうまく適応していたので、さほど点数を失わずに済んだのですが」
美美子の背に、大きな震えが走った。
笑いも泣きもできないなんて……、それじゃまるで人形そのものじゃないか。
【続く】
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる