かけがえのない君に告ぐ

春原しずく

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第三章 光は去らず

第三十八話

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「彼と知り合った当初、私は彼から逃げました。呪宝会じゅほうかいで友人を作るつもりなど、さらさらなかったからです」
美美子は口を閉ざし、ジュエルの話に耳を傾ける。
部屋の中は、中身を失った空き箱のようにがらんとしている。
「けれど、えにしは諦めの悪い子でした。何度拒絶されてもちっともめげずに、私を追いかけまわしたのです」
そこで、彼がくすりと笑った。普段の彼からは想像もつかないような、いたくしおらしいしぐさであった。
「とうとう観念した私は、彼の友達になりました。呪宝会の外にはひとつ年上のF性、呪宝会の中では光永縁みつながえにしと親交を深めたのです。……思えば、あの頃がいちばん楽しかったといまでも思います」
沈黙が降りる。
はあ、と短く呼吸したあと、ジュエルが話を再開した。
「話を変えます。
……呪宝会に引き取られた化神けしんたちは、上層部より10000点の持ち点を与えられます。いいことをすると10点から500点のポイントを与えられ、悪いことをすると10点から1000点ものポイントを引かれます」
美美子は身を乗り出した。
呪宝会での生活を詳細に聞くのは、今回がはじめてだったのだ。
「呪宝会において、ポイントは絶対的なものでした。持ち点をたくさん集めた者は尊敬されますが、集め切れなかった者は虫けらのように扱われていたのです」
手首の傷をしばし眺めやったのち、ジュエルがまた語り出した。
「私はそれなりにポイントを集めておりました。けれど、縁は持ち点がとても少なかった。……それもそのはず、彼は事あるごとに上層部に反抗していたのです。『あいつらは、私たち化神を兵器扱いしている。私たちにだって意思や権利はあるはずなのに、それを無視している!』と、いつも憤慨ふんがいしていました」
「……」
「そういうわけで、縁はすぐにポイントを失いました。そして──上層部より、再教育対象として指定されたのです」
「再教育対象」美美子は口の中で呟いた。
「なんだかとっても嫌な響きね。まるで物扱いされているみたいで、気味が悪いわ」
「ええ。私たちは、実際に物として扱われていました」ジュエルが小さくうなずく。
「物として、あるいは兵器として存在することだけ許されていたんです。人間のように笑ったり泣いたりするのは、『余計なこと』だとみなされました」
ジュエルが笑う。
けれど、その微笑はやはり、どことなくぎこちないものであった。
この世界における彼は、感情を抜き取られた人形のように悲しげな顔をしている──美美子はそんな感想を胸に抱いた。
「事実、私たちは感情をあらわすことを禁止されてきました。笑うと20点、泣くと30点引かれました。……もっとも、私は呪宝会のやり方にうまく適応していたので、さほど点数を失わずに済んだのですが」

美美子の背に、大きな震えが走った。
笑いも泣きもできないなんて……、それじゃまるで人形そのものじゃないか。

【続く】
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