97 / 103
第三章 光は去らず
第四十二話
しおりを挟む
清楚な香りを放つ百合の花の上、美美子はジュエルに抱きついた。ここはどこかとか、二人とも服を着ていないとか、そんなことはもはやどうでもよかった。
ジュエルが生きていて、自分も生きている。互いに無事を確かめ合ったうえで、相手の名を呼ぶことができる──それだけで十分だと思った。素肌同士を触れ合わせ、そのぬくみを感じることができる──それだけで、なにもかもが報われると美美子は考えた。
あたりには、蛍火に似た燐光が舞い散っている。
ほのかな薄明かりに照らされたジュエルは、遠国の姫君のように気高く、そして美しかった。
好きだと思った。
優しく笑って抱きしめ返してくれる彼のことが、大好きだと思った。
「神と人という大きな隔たりはあっても、この子にずっと恋していたい」「この子のことを存分に愛してやりたい」と願った。
「美美子ちゃん」
ジュエルが名前を呼ぶ。「美美子ちゃん」と繰り返し呼びつけてくる。
「ジュエル」
言って、美美子は彼の胸にすがりつくように抱きついた。伝えたいこと、話したいことなら数え切れぬほどあったが、さしあたって、彼の存在を感じていたいと考えた。心を通わせ合った恋人たちにとって、言葉は無用の長物であった。
サファイア色の空の下、一度強く抱きすくめられ、それからゆるやかな速度で押し倒される。
美美子は抵抗しなかった。相手の肌を求めているのは、自分とて同じであったから。
──ほのかに漂う百合の香を鼻に感じながら、地面の上に仰向く。
真上にジュエルの笑顔を認めたとたん、例えようのない悦びが胸にあふれ出た。
ジュエルがそろそろと覆いかぶさってくる。
豊かなぬくみを宿した腕が、美美子の体を労わるように包み込む。
「美美子ちゃん……」
ジュエルの声がする。大好きな彼の、いとしい声が。
美美子は、なにも言わずに目を閉じた。彼のすることならなんでも受け入れたいと、心から願ったものだから──。
やがて、羽毛のように軽い感触を唇に感じた。キスされたんだとすぐに気づいた。
「……ん……、っ……」
艶のある呼吸音を時折漏らしながらも、くちづけを交わす。粘膜同士を擦り合わせるような繊細なキスが、徐々に激しいものに変わっていゆく。
「……ふ……、ぁっ……、」
大きく息継ぎをしたあと、また唇を塞がれた。強引かつ性急なキスは、たちまちのうちに美美子の心身をとろけさせた。
「……、あ………っ、」
目を開ける。
ジュエルの右手が胸の上を這っているのを見、美美子は頬を火照らせた。
けれど、その手を払うような無粋な真似はせず、ただただ喘ぎを散らした。彼を心底愛しているから、彼に心底恋しているから、されるがままに任せた。
【続く】
ジュエルが生きていて、自分も生きている。互いに無事を確かめ合ったうえで、相手の名を呼ぶことができる──それだけで十分だと思った。素肌同士を触れ合わせ、そのぬくみを感じることができる──それだけで、なにもかもが報われると美美子は考えた。
あたりには、蛍火に似た燐光が舞い散っている。
ほのかな薄明かりに照らされたジュエルは、遠国の姫君のように気高く、そして美しかった。
好きだと思った。
優しく笑って抱きしめ返してくれる彼のことが、大好きだと思った。
「神と人という大きな隔たりはあっても、この子にずっと恋していたい」「この子のことを存分に愛してやりたい」と願った。
「美美子ちゃん」
ジュエルが名前を呼ぶ。「美美子ちゃん」と繰り返し呼びつけてくる。
「ジュエル」
言って、美美子は彼の胸にすがりつくように抱きついた。伝えたいこと、話したいことなら数え切れぬほどあったが、さしあたって、彼の存在を感じていたいと考えた。心を通わせ合った恋人たちにとって、言葉は無用の長物であった。
サファイア色の空の下、一度強く抱きすくめられ、それからゆるやかな速度で押し倒される。
美美子は抵抗しなかった。相手の肌を求めているのは、自分とて同じであったから。
──ほのかに漂う百合の香を鼻に感じながら、地面の上に仰向く。
真上にジュエルの笑顔を認めたとたん、例えようのない悦びが胸にあふれ出た。
ジュエルがそろそろと覆いかぶさってくる。
豊かなぬくみを宿した腕が、美美子の体を労わるように包み込む。
「美美子ちゃん……」
ジュエルの声がする。大好きな彼の、いとしい声が。
美美子は、なにも言わずに目を閉じた。彼のすることならなんでも受け入れたいと、心から願ったものだから──。
やがて、羽毛のように軽い感触を唇に感じた。キスされたんだとすぐに気づいた。
「……ん……、っ……」
艶のある呼吸音を時折漏らしながらも、くちづけを交わす。粘膜同士を擦り合わせるような繊細なキスが、徐々に激しいものに変わっていゆく。
「……ふ……、ぁっ……、」
大きく息継ぎをしたあと、また唇を塞がれた。強引かつ性急なキスは、たちまちのうちに美美子の心身をとろけさせた。
「……、あ………っ、」
目を開ける。
ジュエルの右手が胸の上を這っているのを見、美美子は頬を火照らせた。
けれど、その手を払うような無粋な真似はせず、ただただ喘ぎを散らした。彼を心底愛しているから、彼に心底恋しているから、されるがままに任せた。
【続く】
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる